三章
37話
SAT学園のグラウンドはとても広くどこかのドームの1/6もある。
グラウンドの横には校門が三箇所あり、一つ目は一般の学生が登校する門。
二つ目は一般門が緊急時に封鎖されている時にSAT学生が隠れて出動できる門。
三つ目は一部の人しか知らない隠れた門がある。その門は歴代SATトップでも知る人は限られている。
凪とシンジは、追ってきたケルビムに動揺する。
「シンジくん……。ちょっと隠れておいて」キザな少年は、一般生徒に対して小声でそう伝える。
「おれっちも隠れたいけど、もう子供のかくれんぼのように、場所がバレバレだったら、このまま逃げた方がいいぜ」
「……逃げても、あのお姉さんに見つかると命に関わりそうだから、その考えはやめておいた方がいい」
凪は真剣な目でシンジに訴える。だが、彼は強い意志で言う。
「いや、おれっちは逃げる! ここにいてもキザみ海苔の足手まといだ。俺を囮としていけ!」
「……そんなことはさせないよ、シンジくん。絶対に」
唇を噛み締める凪、シンジは優しそうな目で言う。
「大丈夫だ、おれっちは強い。なんたって小さい頃から注射や木登りが屁でもなかったからな!」
男子生徒はニカっと笑う。
(僕が守りたいけど、彼を守りながら西園寺さんを死なせないように戦う事は、難しそうだ。ごめん、シンジくん……。君は無事に逃げてくれ)
オレンジ髪の少年はシンジの方を向きながら。
「……そうか、わかった。逃げられるところまで逃げておいて、僕は絶対に死なせたりしないから」
「わかっているって! んじゃ先に家帰って勉強しとくよ」非力な少年はうさぎのように駆ける。
凪は、うつらな目で、(……この判断は正しいと胸を張っていきたいよ。モカ)と思慕の情に、もだえる。
(相変わらずウザいが、この場合は、おれっちを囮にしてやった方が良策だ。キザみ海苔頼んだぞ)
そう考え、走ってケルビムの横を通り、グラウンドの真ん中に行くシンジ。
ケルビムがシンジの方角へ振り向き、その隙に凪が走る。手加減した張り手を彼女の腹部に当てようとした。
しかし、シンジの方を向きながら、アーミーナイフで張り手を止める。
凪の手からホラー映画の犠牲者みたいに血が垂れる。
「隙を見せたと思ったでしょ? 残念、ぼくはそれを予想していた」
「ふ〜ん、じゃあこれは?」ホルスターから取り出す刹那、凪の手の甲に向かい、銃弾を発砲する。
威力が半減するが、銃弾はSFの腹部に命中した。
低いながらも少し痛そうにするケルビム。
「この技法は昔読んでいた漫画から取ったものだよ〜。ンッン、これは著作権取られちゃうかもね〜」
「あぁ、恥知らずだな、盗作野郎」
「大丈夫だよ〜、そう言うときは、著作料払うからね〜」
そう言うと心の奥底では、(ごめんね、モカ、西園寺さん……)とシェイクスピアの悲劇を見たように、悲しげな感情を抱いていた。
戦いは続く。ケルビムは彼に近づき、体を捻り回し蹴りしたあと、二発目の蹴りをお見舞いする。
凪はそれをガードし、少女の足を止め、傷つかない程度に攻撃をする。なるべく重傷を負わないように護衛術を使う。
(身を守る立ち回りで相手の武器を奪うしかない! いま僕にはこれしか役割がないな……)
ケルビムの足を止めると、彼女はアーミーナイフを取り出す。
凪はそれを読んでいたのかフードを被った少女の足を離し、ケルビムのナイフを持った右腕を凪の左腕で止める。
そして右手で強くチョップすると手からナイフが落ち、キザな少年はそれを持つ。
「はいナイフは没収です、取り返したかったら僕の方まで来てね〜」
凪は苦し紛れの鼻歌をし、内ポケットにケルビムのナイフをしまう。
(ひとまずはナイフを奪えた……次は拳銃二丁だな)
まだ凪とケルビム……つばきとの戦いは続きそうだ。
シンジは走ったおかげか校門まであと十メートルだ。
「あともうちょいで逃げられるな……、ありがとうキザみ海苔」すると後ろから何者か現れる。
それは数人のSFだった。
彼はこのフード姿の人がSATメンバーだと知らない。
(誰だこいつら……、いやおれっちはわかる。こいつらテロリストの仲間!)
シンジは怒鳴り散らすように。
「やい! テロリストの仲間! まさか、おれっちを始末しようとしているが、そんなのは問屋が通さないぜ!」と言う。
続けて、「おれっちはな、超絶強いんだぞ〜。小さい頃、注射打たれてもピンピンしていたし、怪我しても唾つけとけばなんとかなった! だから強い!」と強がりを言いまくる。
シンジの発言はまるで子供みたいだった。それを見つめるSF達。
「何言っているんですか……」ボイスチェンジャーの声が非力な少年の耳に響く。
突っ込まれてカチンと来た馬鹿な男の子。
「なんだと! おれっちは大真面目だ!! お前らの攻撃なんて屁でも……」
シンジの話を遮り、SFの一人が口を開けた。
「俺たちは始末に来たんじゃない“護衛”しに来たんだ。強いのは充分わかったさ」
「んへぇ?」シンジはイキリ散らしたハエよりも情けない声を出す。
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