31話

 龍康殿が来る少し前。

 首を切ろうとしていたSFのアーミーナイフを千木楽の拳銃のマガジンで止める。


 その後数十滴も泣いていた。フードを取り目の前にいたのは、『永瀬春花』だったからだ。

 フィアナの発言は嘘をついていた。


 最初から千木楽と戦闘していたのは自分の想い人。

 徐々に精神的消耗していき、口が震えだす。


「永瀬、お前だったのか」と言いながら。


(洗脳されたんだな。俺はやっぱりトップ向いてないよ。仲間も無理矢理殺したし)

 とも千木楽は思っていた。


「ようやく正解したね。ぼくは永瀬春花だよ。次は愛の告白してみないか?」と言いながら拳銃を出す。


 千木楽は泣きながら銃舞を構えた。そして動き出す。

 春花と千木楽の乱舞はまるで愛の絡みであるかのように見える。


 とても切なくて気持ちいいそして温かい……そんな絡み方だ。


(春花、洗脳装置の外し方知らなくて、ごめんな。今からお前を俺の手で仕留める。)


 その瞬間、千木楽の足が撃たれる。熊に食われたような感覚だ。その後、彼は倒れた。

 だが、それが千木楽のまぁまぁある前頭葉で思考した作戦。


 背水の陣……、刹那を練って、春花の脳天を一旦集中させる。

 千木楽にとって、最悪の作戦内容だ。


(この隙に外し方を知らないと春花は死ぬ。早く最悪の作戦の前に気づかなければ……)


 千木楽が、精神を脳の湖に飛び込むと、春花は千木楽に向けて、銃口でピロートークを話す準備をしている。


「千木楽……真心。今まで楽しかったわ、じゃあね。君の内なる仔羊をW・Aに捧げて……」


(……! そうだ! 洗脳装置は体の部分にあるとすれば、刹那を巡ってその装置へ撃てる。だけどどこにあるかわからない)


 SFは相手の首にセットしているが、千木楽はフードを外してもその装置は見えなかった。

 彼は春花の身体中を撃ちまくったがSFは外れず、ただ想い人を傷つけるばかり。


 金髪の彼女は撃たれても少し間を置いてから千木楽の前に立つ。


(どこだ、どこだ。洗脳装置は)少し思考を巡らせてから閃いた。


(そうか! 首だ! あのおばさんも洗脳装置にボイスチェンジャーしていると言っていた。頭部なら今頃俺にも見えているからな。よし! これで春花を助けられる!)


 千木楽は春花の首を狙う。

 だが、少女は彼の手を撃った瞬間に、発砲したので狙いが外れた。


 弾の先には春花の脳天が狙われた。


(まずい、まずい、まずい、まずい! 気づいた矢先これかよ! 俺のせいでまたSATメンバーは壊滅に……)


 千木楽は走馬灯を浮かべる。




 それは去年の春うららかの五月。

 当時の千木楽は本部で仕事していた。


「シン! シン! 本部で、何してるのー」ギャルみたいな見た目している春花は黒髪の少年に話しかける。


「春花、いたのか。もう本部へ遊びに来るなと何度も言っただろ!」

「だってー! 暇なんですものー! まぁ、報告もあるけどねー」


 千木楽は眉をひそめる。


「ほぉーどんな報告だ? SAT関連だといいが」


「えーとね……、近くで美味しいドーナツ屋さんが出来たから一緒に行かないかって言う報告ー」


「はぁ……、だと思ったよ。全く俺の一年後輩だからといって、仕事に関連のないことを報告しに行くなよ。はぁー。」千木楽はやれやれと思っていた。


「んじゃ、報告はおしまい! それじゃーね、バイバーイ! いつかドーナツ食べに行こうよ、シン教授!」


「あっそ、それじゃ俺は仕事に戻るからお前も銃舞スイーパーを練習しとけよ」


「はーい! わかりましたー。シン教授さんお仕事頑張りたまえ!」と言い、本部から去る。


(……ったく、いつもいつも、本部へ遊びに行って。まぁ、俺は嬉しいんだけどね。そう言う春花も好きだからさ、いつかは告白できるといいな。トップ辞めたら告ろうか)


 本部の引き戸を閉めて、春花は小声でポツリと呟く。


「──なんで、ぼくは本当に愛しているって、言えないんだろ……。ぼく、好き過ぎて心が切なくなるよ」


彼女は握り拳を胸に寄せる。


(いつか告白したら、私の体を好きに使ってもいいからね。シン……私の命が失っても愛している。私の身体を差し出しても愛している。愛している、愛している、愛し……てる)


 春花は泣きながら、次のガンカタ授業の準備をする。


 ──千木楽と春花は両想いだったが、お互い言えず仕舞いだった。




 千木楽は目を瞑る。


(お願い! どうか……どうか首に命中してくれ。このままじゃ)


 少しずつ目を開ける。そこには春花が倒れていた。


「首にやったか?! もしかしたらやられているフリだとか。もうそれでもいい! 俺が死んでもいい! だから、春花は……」


 彼女の近くまでいくと、黒髪の少年はまた強く目を瞑る。千木楽は悔しかった。



 千木楽の銃弾は……春花の脳天に入っていた。


 額から深いキスをするための口紅よりも赤い血液を流し、目は上を向き、ピクリとも動かない。


 まるで凍りついた水のように硬く冷たく。

 千木楽は天使の羽を奪う詩人の様な感情が沸いていた。




 ──即死だった。




 また、少年は泣き出してしまった。


「外し方を知っても、こう言う結末かよ……!」


 彼は目に透明な体液を流しながら叫ぶ。


「なんで俺洗脳されたメンバーを殺そうと思ったんだよ! なんで俺! 春花を西園寺だと思ったんだよ! なんで俺こんなやつなのにトップになったんだよ! なんで俺! 春花を守れなかったんだよ……、ごめんな。本当……ご……めん」


 その後、彼女の手の甲に口づけをする千木楽。


「春花……俺は貴女を愛していた。俺の生きがいとなってくれてありがとう」と涙を流す。

 彼は一秒呼吸を止める。そして。


「もういいや、もういいんだよ……。も、もう終わりにしよう。もう、総長として、人として失格だからさ、早く楽になりたいよ」


 千木楽は自分で持っている拳銃を口の中に入れてから。


「気持ち悪くてごめんな……。俺も春花のところへ行きたいよ春花……。こんな無能でごめんな。また会えたらちゃんと告白するよ。そして天羽……、お前は俺の代わりにSATのトップとなってくれよ」


 彼は引き金に指をかける。

(お前のことは陰ながら応援しているさ)


 凪のことを千木楽。


 彼が引き金を引こうとした瞬間、首に激痛が走る。走馬灯すら見えていた。


「今は十三時二十七分ですね。ふぅー、危ない、危ない。貴重な仔羊を守れないと思っていました。君は生きていいんですよ。さて私たちのために捧げてください」


 千木楽の後ろには龍康殿がいた。


(これは洗脳装置か……?! まぁ、もうどうでもいい、どうでもいいんだ。俺は生きてはいけなかったんだ。俺はただ、お兄ちゃんや春花を……守りたかっただけ。でも両方守れなかった)


 すると意識を失いながら。


(俺はただ春花と時が止まるぐらい話したかっただけなんだ……)と彼の心情が遠ざかる。


 龍康殿は腕時計を見ながら淡々と話す。


「さて名前は何で言うんですか? 勇敢な仔羊さん。君にはW・AのNo2になってもらいたくてですね」


 千木楽は少し間を置いてから言う。


「私の名前はスレイブファイターの千木楽真心……。龍康殿様、射守矢様。何なりとご命令してください」

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