32話
──千木楽が洗脳された直後。凪はどこかの教室で気持ちを落ち着かせていた。
(はぁはぁ……嘘だろ。まさか僕が戦っていた相手は西園寺さん……。しかも足を負傷させてしまった。でもこの調子だと避け続ければいけるな……)
目をつぶり、呼吸を整える。
(西園寺さん。君に謝りたいことがある。さっきの件もそうだが、実は僕の中学生の頃好きだった人を浮かべて想いを寄せていた。あまりにも室井さん、いや『モカ』に似ていたから……)
『
乳飲み子からの付き合いで、中学まで一緒だった。
彼の中学校はSATがある地域から遠く、何もないところ。
その頃の凪は今のキザっぽい感じではなく、もっとオラオラ系で不良あった。
当時不良の中で有名では無かったけど、知る人は知る人物だ。
彼はいつものように不良をボコして、その帰りにコンビニまで歩いていた。
「ったくよー。雑魚どもが、イキってるんじゃねえんだよ。磯辺揚げ共」
凪は「でもまぁ俺の仲間が守れて良かったぜ。スッキリスッキリー」と誇らしげにいうと。
「何が『スッキリー』なんだよ! ナギてめぇ!」オレンジ髪のヤンキーは驚いた。のほほんと歩いていたら、急に横から『室井モカ』が現れた。
モカの容姿はほとんど『つばき』に似ているが、性格はサバサバしていた。
「おれっちいつも言っているんだろ? 喧嘩はするな仲良くしようって!」
「アイツらと仲良くできるかって言うんだ畜生!」
「畜生言うな! おれっち、十三時間ぶりにキレるぞ!」
「『〜ぶり』って使い方おかしいわ! 久しぶりじゃねえよ! 慣れ親しんでいるじゃん!」
少ししてから二人の夫婦漫才は落ち着いてくる。
「とりあえず、お前の暴力は自分の大切な人を守るために使え。これはおれっちとの堅い友情の約束だからな」
「友情……? 俺たち幼馴染じゃないのか?」
「まぁ幼馴染だが、友情に近いだろ?」
凪は「まぁそうだけど」と言うと。
「お前には暴力で解決いてほしくないんだ。おれっちは、考えるんだよ。これ以上それで解決していたら、凪はお前ではなくなる。だけど仲間を守るためならしょうがないから使っても良いぜー」
「いや、俺は今回仲間守ったけど……」
「毎日そうか? それって三ヶ月に一回だけだろ? お前はほぼ毎日喧嘩して、んでその理由は『俺自身を馬鹿にしたから』が多いんだろ? それをやめろって、言っているんだよ」
「だからといって、喧嘩はするなは違うだろうよ〜。俺は誰かから馬鹿にするのが許さないんだ!」
「あっそ、そうかじゃ勝手にしとけ。おれっちは大学生になったら、普通に都会に出てその後成功するからな」
「確かお前数学者になりたいんだっけ? 無理、無理、無理、無理。性格上もそうだが、高校から数学難しくなるんだぜー。三毛猫のオスが生まれる確率によぉー」
「わかんねぇだろ? そう言うのは。どうであれ、おれっちが決める」
「勝手に決めとけ。俺はどうするか決めてないが、まぁ中学卒業後フリーターに勤しもうかな。まぁ無理だけど学園SATに入学しようとも思っている」
「どうせ、テロリストと戦えるからだろ? そんなのいないって」モカは呆れる。
「まぁ興味本位さ、学生兵隊は面白そうだしよー」
「そうか……。まぁおれっちは別に良いけど、数学以外興味ないし、お前が自己中になってなかったらいいよ」モカの言葉に安心感を覚える凪。
オレンジ髪は彼女に質問してみた。
「なぁモカ。俺さ、好きな人がいるんだけど、それ言ったら気持ち悪いと思うか?」
「んぁ? 別にぃー、いいんじゃねえの? てかお前に好きな人いるんか。意外だな。誰だよ」
誰もいない通路。人影すらない場所で、少し沈黙の時間が深海よりも深くなり彼の重たい口を開ける。
「お前だよ。幼馴染だけど、小さい頃から好きで……」
「へぁ? お、おれっち?! お前は弟だと思っていたから、なんかショックだな。まぁ気持ち悪いかどうかって言うと気持ち悪くないけど、興味がないかなー。好きになるのは別に良いけど、断るぜ、すまんな」
「……知っていたよ。お前の好きなタイプがキザっぽいダンディな厨二病だからな……いつ聞いても無茶苦茶だな……、まぁお前が好きって言ったのは嘘だけどな。言えんが、別の人だ」
「はぁ! お前、おれっちを騙したのか! まじでそう言うやつ嫌い! くたばれ! 不良からボコられてしまえ!」
「すまんすまん。ちょっとからかいたくてさ、めっちゃ面白かったわー」オレンジの髪の少年は爆笑していた。
「ふざけるな! お前さ、おれっちいなくなったら、誰かをからかいそうだな。そう言うのはないが」
「当たり前だろ? 天地がひっくり返っても、お前がいなくなるわけない」
「んじゃ、もしおれっちがいなくなったら、凪はおれっちが好きなタイプのキザキャラになってもらうからな! 一人称は僕にするんだよ!」
それを聞いた凪は驚く。
「はぁー? 俺はそんなことしない。いなくなるって何だよ。都会に引っ越すのか?」
「あぁそうだよ!」
その時空気が変わった。
「おれっち、中学卒業したら都会に引っ越すんだ……。最近この地域にも通り魔が目撃しているし、親がこの場所は危ないと考えて引っ越すけど、おれっちはわがままを言って中学卒業まで待ってほしいと頼んだんだ」
「中学卒業って……あと四ヶ月しかないじゃん! 俺たちの友情はどうなるんだよ!」
「いや『ツーシン』があるじゃん。メッセージアプリの」
「あっそうだったわ。じゃ連絡手段取れるなー」
「あはは、そうだね。だからさ、おれっちのために喧嘩はなるべくやめて欲しいんだ」涙目になるモカ。
「あっ! おれっちがいなくなっても、キザキャラにならなくても良いぞ。あれは冗談だ」
「本気だったとしても、キザキャラはやらねぇぞ。喧嘩はほどほどにするけど」
ちょうどコンビニ近くに着いた二人。
「んじゃ、おれっちは家に帰って数学するから。お前も、喧嘩やめろよな」
「あぁ、わかったぜ。じゃあな。夜道には気をつけろよ」今の時刻は十七時五十七分。辺りも暗くなっていた。
モカが奥の通路に消えるとオレンジ髪の不良は考えていた。
(本当はお前が好きなんだ。冗談ではなく本気で。引っ越す前に思いを伝えようかな。いやいいや、この恋は無くした方がいい。永遠に友達のままでいいんだ。その方があいつもそう願っている)
凪はそう思いながらコンビニに入る。この地域のコンビニは立ち読みOKで雑誌を読んでいた。
三十分後。コンビニの窓から包丁を持った人が走っていた。包丁には血がべっとりと付着していたが凪は気づかない。
彼がコンビニから出ると、外は大騒ぎしていた。何だと思い様子を見に来たら青天の霹靂。
室井モカが血だらけで倒れていたからだ。
胸に六箇所、腕は二箇所、お腹に七箇所、足に四箇所。傷穴があった。そこから火山のマグマのような血液が垂れている。
少年は泣いては無かった。ただ放心状態。虚無になる。
ただ思っていたことは(俺が守っていれば……)と。
数時間後、犯人がわかった。
『
その人はモカの他、老若男女関係なしに包丁で刺していた。
無論、凪の叔父である夫から三歳児まで、モカの両親も殺している。
瑠李奈が捕まった後、彼女は首筋を切り、犯行理由も言わずに自殺。
その気に凪のお父さんが、この地域の人々から責められ続けていた。
ある日、オレンジ髪の少年が帰ると、父は首を吊って死んだ。
母も気を病んでいき、どこかへ消えてしまった、蒸発だ。
凪はこの地域から逃げることにする。彼も地域の人達から言われていたから。
人の温もりのない家の中でオレンジ髪の少年は。
(モカ、瑠李奈おばさん、親父、お袋……。俺はダメなやつだ。自分のことばかりで誰も守れてなかった。だから今度は誰かを守る。俺が死んでもな。)少し間が空いて。
「俺、ここから逃げたら、モカの好きなタイプになるよ。そうすれば死んだモカが『似合ってねぇ』と言って笑ってくれるからな。他人からウザがれてもいい。ただお前に笑ってほしいそれだけでいいんだ」
凪は持てるものを持って、この地域から逃げるように去る。
少年は学園SATがある地域まで行った。
不良の肩書きは捨てて、そこに住んでから少し経ってその地域は凪のこと「うざいな」と思っている人もいるが、老若男女信頼されていてその地域の人気者、もちろんSATに入学した。
入学してから二年後の春。
凪はSAT学園三年の頃。体育館で学園説明会が行われていた。またもや青天の霹靂。
少年はモカに似ている人を見つける。
『西園寺つばき』だった。オレンジ髪の元不良は泣き出してしまう。
だけど流すのをやめ。
(モカ、すまない。俺はこの人を好きになるかも、俺は本当に酷いよな、亡き人を他人に寄せるなんて……。いや俺じゃない僕だ。今まで僕って言っていたり、思ったりしていたが、びっくりして昔に戻ってしまった。でも大丈夫。その人も守るよ、モカ。守り続けるからな)
と、まぶたを閉じ、夢を寄せるように考える。
凪はつばきのことが好きになった。
──突如、教室からガタッと音が聞こえる。
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