27話

 千木楽には十一歳離れた年の離れた兄がいる。


 その兄は元SAT所属で当時は今の千木楽真心ちぎらしんよりも強かった。


 名前は『千木楽海斗ちぎらかいと』海斗は努力の天才で教えるのも上手かった。

 しかし海斗が十七にもなっても、憧れていたトップにはなれなかった。


 だが海斗には溺愛している弟がいたから「まっいっか」と気にしなかった。


 弟のためなら死んでも良いと考えるぐらい愛している。


 好きすぎて真心が四歳から六歳までみっちり叩き込まれた。しかも、そんなに厳しくなく、優しく、楽しく教えていた。


 そんな兄を最初は尊敬していたが、真心は何もしない天才で、海斗は努力を遥かに超えた天才だ。


 そんな兄に嫉妬すら湧いてくる。敗北を味わってしまう。

 当時その件で真心と海斗は初めて喧嘩をした。


 海斗が二十歳、真心が八歳の頃だ。


 喧嘩がヒートアップし、小さい真心は「家から出て行って!!」と言うと、海斗は実際出て行ってしまった。


 真心は泣いてしまったが、しばらくすると帰ってくるだろうとも思っていた。海斗はそう言う性格だからだ。


 しかし何年も帰ってこなかった。

 真心がSATトップになっても。

 真心は心の奥底で兄の幻影を探していた。


 ただ兄のような人になりたかったのだ。

 今も行方知らずのままに1日1日を過ごす。


 そのことは現SATメンバーも知らない過去だ。




 千木楽また閃く。


(ん?! 確かおばさん、その他に『一人称も変えている』と言っていたな。しかもお気に入りがいるともベラベラ喋っていた……。お気に入りだったら肌身離さず近くにいるはずだ……だとすると!)


 謎のSFはまた口を開ける。


「考えすぎだ。それじゃ銃弾の真っ赤なラタトゥイユをたっぷり味わえよ」

 千木楽は確信がつき、こう答える。


「お前、『西園寺つばき』か?」


 空気が千木楽真心の過去のように重くなる。


「違ったら小林だな……」

 勝ち誇ったように、少しニヤつく千木楽。


 謎のSFは数秒固まり、どんよりとした空気が廊下に入り混じる。


「二回も回答するな。クイズ番組なら出禁して干されるぞ。当たっているかどうかは自分で決めな」


(違った……だけどこいつが西園寺の可能性が出てきた。良かった……これで悔いはない)

(すまない春花。お前は逃げろよ)と千木楽は目を瞑る。


 すると、謎のSFの手の甲に銃弾が当たる。

 謎のSFはそっちを見て千木楽は振り向く。


 そこには朝霧司咲の姿が現れた。


 その瞬間、謎のSFは廊下奥に逃げ込み、教室内に入る。

 司咲は千木楽に寄り添い。


「だ、大丈夫ですか?! 千木楽さん! すみません……遅くなりました」

「あぁ、大丈夫だ。助けてくれてありがとうな」


「いえいえ、そういえば戦っている相手は誰ですか?」


「俺にもわからない。だけど一応謎の洗脳装置のSATメンバーってとこかな? だが俺は正体を掴んだ。こいつは西園寺だ」


「つ、つばきですか?! では私たちで戦いましょう。アイツは奥に逃げ込みました。二人で挟み撃ちすれば……」


「あなたの相手はこの私よ。元SFさん」


 光すら置かれそうなスピードで、フィアナは千木楽を引き裂いて、司咲を持って別の廊下に持っていく。


「千木楽さんすみません……一人で戦ってください! この人は私がなんとかします。肉を切っても絶対に」


 彼はそう言うと、千木楽は「わかった」と言い、謎のSF。つばきらしきものを追う。

 司咲を別の廊下へ移動させたフィアナ。


「アンタに質問する。千木楽さんを襲ったアイツは西園寺……つばきなのか?」

「……そうよ、なんて言うと思う? 自分で考えなさい。裏切り者」


「裏切り者はアンタだよ。俺たちのメンバー達を洗脳させて……、許さんからな!」

 テロリストの女は内心。(そうかもね)と思っていた。


「許さなくて良いよ。どうせ君は死ぬのだから」

 フィアナは司咲の真ん中に銃を構えるも司咲の後ろを撃つ。


 銃弾と銃弾同士愛し合う火花が舞い、そして弾けた。

 紫髪の彼が後ろを振り向くと、『天羽凪あもうなぎ』がいた。


「ふ〜ようやくヒーロー見参って所かな〜」


「天羽さん! いま千木楽さんは洗脳されたつばきを追っています。なので、この女性ひとは私たちでいきましょう」


「うん! 僕もそう思っていたよ〜。一緒に戦おうね〜。ところでそこのお姉さん。2on2でも良いかな〜。お姉さんの味方は後で来るよ〜」


 凪はフィアナに向かってウインクをする。紫髪の少年は驚く。


(2on2で勝てるのか俺は……、いや勝たなきゃ!)と司咲は拳を握りしめて考える。

「あぁ、良いわよ。でも君たちに勝てるかしらー。私だけなら二人相手でも勝てるわよ」

「へぇーそうなんだ〜。確かに強そうだしね〜」


 凪が一呼吸入れてから、こう言う。

「でも僕たちの勝利の美酒は、運命に刻まれているんだよ〜。僕の女神がそう囁いたさ。さぁ司咲くん、戦闘態勢だよ〜。ガンガタ構えて――」


 司咲は身震いした。発言が痛々しく臭かったからだ。

(……なんで俺、この人と共闘しようと思ったんだろう)


 司咲はキザな先輩の発言が痛々しくて冷や汗をかいていた。

 すると、彼らの頬に銃弾がかする。


 司咲は振り向かなくてもわかっていた。

 凪が言っていた洗脳されたSFだ。


「あの人は洗脳された永瀬さんだよ。自分で『永瀬』とそう言っていた。気を引き締めて」

 凪は小声で話す。司咲は永瀬春花が苦手な人だから緊張していた。


(……。永瀬先輩と戦うのか……。緊張するな。何故か知らないけど、俺にべったりして少し苦手だ。いつも緊張する)


 司咲はそう思量し、緊迫した空気が走る。

 凪達の後ろには、フード姿の永瀬らしき人が平然と立っていた。


「射守矢様……。この戦いに共闘します」


「ありがとうね。えーと……別名で言いましょうか。ケルビム・デュアルさん。長いからケルビムさんにするね。三つ数えたら戦闘開始にしましょう。ちゃんと零(ぜろ)まで数えるわ」


「三」


 フィアナのカウントダウンが始まると、凪は目を瞑りイメトレをする。


「二」


 司咲は惺夜のことを心配していた。


「一」


 永瀬らしきSFは、敵を殺すことしか考えてない。


「ゼロ」


 フィアナの口元が笑うと、一斉に銃音と足音が廊下中に響き、2on2戦闘が開始する。

 時刻は十三時二十四分になっていた――。

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