24話

 時刻十三時十七分、惺夜は保健室でボーッとしている。


 ソファーから立ち上がると倒れなくなった。

 完治したようだ。


 その時「ヤッタァー!」と声が出てしまう。

 咄嗟に口を手で押さえる惺夜。恥ずかしくて床に手を置く。


 するとソファーの下に何かの物を見つけた。

 暗くてよくわからないがとりあえず触ることにした。


 カチャッと音があるとソファーが横に移動し床から爆弾類が出てきた。


 保健室で何があった時のための火薬庫だ。


 とりあえず惺夜は改造グレネードを五本回収し、それをブレザーの内ポケットにしまう。

 床から小さいレバーが見えていたので、それを押すと火薬庫は普通の床になり、ソファーがずれて定位置に戻る。


 惺夜は「この爆弾が何か役に立つといいな……」と思い、保健室を後にする。



 その頃司咲つかさは本部までたどり着く。

 フィアナ達はまだ現れなかった。


 だがSFスレブブファイターのSATは着々と増えていき、本部まで二メートルの時は六人以上に増えていく。


 どこを見渡しても洗脳されたメンバーばかりだ。

 司咲はそのことに気づかなかった。


 理由はSATしか知らない裏ルートを使って本部までたどり着いたからその様子がわからなかったのだ。


「わたくし、朝霧司咲あさぎりつかさ。本部まで戻りました」


「おう! よろしくな朝霧あさぎり。あれ? お前だけか? おかしいな……。全員に伝えていたのに……。まさか?!」


千木楽ちぎらくん……もしかしてSATメンバーほぼ全員洗脳させた可能性もあるねぇ〜。まぁ千木楽の伝えた判断は間違ってないさ〜」


「……そうか、ありがとよ。ダンディ厨二病。」


 ケッと凪に向かって黒髪の少年は嫌な顔をする。


「まぁ朝霧一人来るだけでも嬉しいわ。来たからにはちゃんと戦ってくれよな!」


 千木楽は司咲にニコッと笑う。

 後輩の少年は心底悦ばしかった。


 憧れている人からの言葉は、どんな精神薬よりも効果があるからだ。

「……はい、来たからには充分戦いますよ。あとで柊惺夜ひいらぎせいやが加入します」


「柊か……。あいつの理由は不純だが、その割には戦闘センスがズバ抜けていな。最初の模擬戦の時、天羽との対面で勝率が五分五分だったから、心底やばいと思ったよ。俺も柊と対面した時、何度か負けそうになったからな。結果、勝ったけどね」


 あこがれの人が急に惺夜のことを褒めるので司咲は悔しそうに握り拳を作る。

「あとは普通の人が二年かけて覚える体術や技術をたった二ヶ月半で八割マスターしているからな。俺や天羽なんて一年でやっと半分だ。あいつは本当の天才だよ」


 紫髪の少年は胸が苦しいことを抑えながら耐える。

 少し泣きそうだった。


「だけどなぁ、流石に朝霧……、お前には勝てないぜ。あいつは『何もしていない天才』だとすると、お前は『努力を超えた天才』だ。どんなやつでも努力している天才には勝てないんだぜ。俺も味わったからな。」


 千木楽は目線を下に向け、曇る。


「お前について詳しく言ってなかったな。お前はたった三日で全ての体術と技術を覚えて一番恐ろしかったよ。一生分の冷や汗を流したかな? そのぐらいだ。あとお前、放課後さ二時間ぐらい体術や技術練習しているだろ? 俺こっそり見ていたんだよね」


「実はいつも七時間練習しています。朝は三時から起きて、登校時間まで四時間練習し、放課後に二時間。夜一時間それを毎日やっています。これが楽しいんですよ。やってみませんか?」


 司咲は嬉しそうに語る。


「おっ! やっぱりそれ以上やっていたか、嬉しいわ。俺は仕事嫌いだし、面倒だと思っている。だけど休みの時は十七時間もやっているぜ。平日は四時間しかやってないがな」


「……やっぱり千木楽さんはすごいですよ。私も千木楽さんになれるかな」


「うーん……今はスイーパーの動きが硬いけどなれるさ。俺が保証する。お前は俺のNo3だ。未来のトップになろうぜ!」


 千木楽はニコッとこれまで以上にない笑顔をしていた。


(No3……か。惺夜も言っていたな、俺のことはNo1だって。俺はそういう資格ないと思う。俺は……惺夜と違って何もしてない天才じゃないからだ)


 努力している紫髪の少年は額に手を置き、

(俺は努力しているんじゃなくて、技術を楽しんでいるだけだから。ただひたすらに遊んでいると同じさ)と考えている。


(俺も惺夜みたいに何もしない天才が良かった。何もしないで俺と五分五分なのは精神的に参るよ)精神が参る少年。しかし、気になることがあった。


(千木楽さんが言っていた。『俺も味わった』ってなんだろう? 聞かないようにするけど、きっと天羽さんのことかな? まぁ、そうだったら、ますます天羽さんに嫉妬するなぁ)

 司咲の目から光が失う。千木楽はそれを見る。


(お前も考えすぎるタイプなんだな。やっぱり朝霧は俺に似ているよ。だから無能の俺よりもお前や天羽がトップ似合っているさ。俺を越えるように応援しているぞ)


 千木楽は心の中でエールを送る。


 司咲は言わなくても感じていた。そして二人に見えないように少し笑う。

 すると、凪が彼らに近づきこう言う。


「ふーん。司咲くんがNo3だとしたら僕はNo2かな〜。いつもありがとうね千木楽くん〜」

「ダンディ厨二病は、ワースト1だ。覚えておけ」


「おやおや〜。また照れ隠しかい? ダメだぞ〜、僕に照れ隠しわ〜」


「違うと思いますよ、天羽さん。普通に嫌がっています。やめた方がいいですよ」

「うーん、司咲くんがそう思っていても、僕には千木楽くんが照れているだけだと思っちゃうな〜」


「照れてないわ!」千木楽は目を丸くする。

「そうかぁ〜、それじゃ司咲くんに『あのこと』言うよ〜」


 あのことに耳を立てる千木楽。


(まさか?! 春花しゅんかのことを?!)


「ねぇ知っている? 司咲くん。実は千木楽の好きな……」


「やばい、やばい! 話している場合じゃない! 敵が来る! 絶対来るぞ! 何がなんでも来るぞ!」

「……動物はドドンボだって、おかしいよね。それは名前だから動物じゃないよといつも言っているのに」凪はくすくすと笑う。


 ドドンボとは象をモチーフにした絵本の主人公であり、三十年も発行し続けている作品である。


「へぇー、象が好きなんですね意外です」司咲は「なるほど」と納得した。

「……へぁ?」千木楽は変な声を出す。


「で、でも敵来なくってよかったな。安心したぜ。」ハァハァと犬の体温調整のように息切れをする黒髪の少年。


「あれれ? なんで千木楽くん驚いているの〜。そんなに恥ずかしかったのかなぁ〜?」

「ま、まぁ高校生にもなって、象が好きって恥ずかしいからな……」


「まぁそうだよねぇ〜僕は動物好きでもいいんだけどね。まぁ好きな人がいても……ね?」

 凪は千木楽に向かってウインクする。


(ウッ?! 完全に俺のことからかっている! だから俺はお前が、まあまあ嫌いなんだよ。実力は認めるけどな……)


 少しして空気が一変する。そうさせたのは司咲だ。


「ところで、こんだけ話しても、大丈夫なのでしょうか? 敵にバレたりとかは……」

 紫髪少年は心配する。


「あぁ大丈夫だ。一応職員室のように戸を閉めたら、壁に擬態できるシステムだからな。しかも防音もされて、本部からの音は聞こえない仕組みだ。学校内ならバレないが流石に外から丸見えだけど……」


「そうなんですね。もしかしたら敵が外から様子を見ている可能性もあるので」


「それもあるな。まぁ安心しろ。俺と天羽も戦闘態勢へ入っている。気にするな。自分のことだけ集中しとけ。お前のことも信用しているからな」


「そうですか……ありがとうございます! でもさっき敵が来ると言っていたんですが、大丈夫なら心配しなくてもいいんじゃないですか?」


「あ、あ、あれは俺のミスだ。すまない、忘れてくれ。いや?! 十三時前に敵が本部に乗り込んできたからだ……だ!」千木楽は目を瞑る。


「そうそう、言い忘れていたが」


 千木楽は本部内の窓に振り向き、銃口を窓に向ける。

 瞬間、窓に銃弾がひと突きの槍のように刺さった。


 SFの一人が、脳天撃たれて、蛙のようにひっくり返っている。


「こっちはお喋りしながら見えているんだぜ。トップを舐めるなよ」


 捨て台詞を吐く千木楽。


「千木楽くんは流石だね〜。喋っていても戦闘態勢は崩れないから〜。まぁ僕もだけどね」


「外からバレてるってことは本部の場所バレたのか?! 天羽! 朝霧! 裏ルートを使って挟み撃ちにしろ! 正面は俺がやる!」


 彼らは「了解」と言うと同時に裏ルート経由で本部外に行く。

 只今の時刻は――。

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