23話

 本部に向かっているフィアナ達。その時、春花はくしゃみをする。

 テロリストの女性は少し心配していた。


「大丈夫? 永瀬さん。無理は禁物よ」

「ええ、分かっています。誰かが噂していたんですよ。」


「もしかして、永瀬さん迷信を信じるタイプ? そういうことはないんだよ。でも悪くないことね」


「そうですか……、まぁいいです。ぼくも戦闘態勢になります」


 春花の目がフード越しで鋭くなる。獲物を見つける前の鷲のような目つきだ。

 そして春花は柄のついた鞘を、その辺に投げ捨てる。


 フィアナは疑問に感じる。


「永瀬さん。なんで鞘捨てたの?」

「射守矢様、これは僕にとっていらないものです。どうせ、このナイフで傷付けるなら、鞘ない方が有利ではないでしょうか?」


「そうね、でもナイフの手入れはした方がいいわよ」

「わかっています、手入れ用は一応所持していますから」


 永瀬はSAT特製のナイフ手入れをフード内に隠す。

 そうこうしているうちに、本部まで近くなっていた。

 時刻は一三時二〇分前になる――。



 龍康殿りゅうこんでんは校長室のセキュリティ装置を壊してゆっくり入る。

 校長の『殻星博成からほしひろなり』は驚いた。


 龍康殿は殻星博成の足に向かって銃弾をお見舞いする。校長は足が焼けるように痛む。

 何故、校長なのに逃げ出さなかったのは理由がある。


 それは上からの命令だからだ。

 SATを設立した会長の命令で校長はSATを管理している。


 そして校長への指示は『何があっても校長室から出るな』と言うものだ。


 テロリストのドンは必ず校長室に来ると思い、そこで時間稼いでくれと言う意味でもある。

 しかし何故、偉い校長なのにテロリストの時間稼ぎしなきゃいけないのか。まずいのではないかと感じる人もいるだろう。理由はある。それは――――。


 校長は命の危機が襲っていた。


「では楽しくお喋りをしましょう。紅茶かコーヒーは淹れられるかな?」とテロリストのボスが言う。


 彼は足に銃弾が溜まり歩けない状況。


「誰だ?! あなたは一体!」


「名乗り忘れて申し訳ありません……。私は『龍康殿徹平』と申すものです。私は貴方様に聞きたいことがありましてここに来ました。ところで貴方の名前はなんでしょうか?」


 校長の腕はガタガタしていた。


「ワシの名前は殻星博成からほしひろなり。貴方の目的はなんですか……?」


 そのとき、銃口が光り輝くと同時に、校長の両腕に銃弾が入る。


「最初に私達の目的は銭財と言いましたが実際は貴方達の仔羊……獲物が欲しかったのです。学園兵隊とそれを喰うための“か弱い獲物”を」


「な、なんで腕も撃った……?! ワシは何もしてないのに!」

 校長の喉にも銃弾が入る。

 砂漠で数日間彷徨っている人の唸り声のようなのが校長室に響く。


「まぁまぁ、慌てず聞いてくださいませ、殻星殿……。私は優秀な仔羊をW・Aの物にし、か弱い仔羊を神にするべく命の有り難みとして祈りを捧げるのです。この拳銃で、か弱い仔羊を神にするのです」


(つまり目的は“殺戮”ってことか?! なんてやばい奴なんだ……)


 校長が龍康殿の目線を逸らすと、今度は銃弾で両目をつぶされた。


「すみません……無断で貴方を傷つけてしまって、貴方を神にしようと思って傷つけてしまいました」


(この男、狂気に満ちている。なんでワシここの影武者にしたんだろう……)



 ――学園SATの本当の校長は誰も知らない。

 千木楽や教員さえ……。


 SATを創立させた会長は校長を敵に殺されてはいけないと思い、学園内には影武者を提案した。

 いくつもの校長が殺されるも全員金で雇った影武者なので学園SATは痛くも痒くもないのだ。


 会長は冷酷で残忍な性格。SATという概念が生きていれば、他はいらないのだ。

 どんなのが敵でも校長が影武者でも本当の校長でも。



「私はそろそろ貴方を神にしたいです。神は素晴らしい存在です。何故なら弱い存在でも神になれますから」


 龍康殿は、一瞬、校長の失った目を見てこう言う。


「貴方……偽物ですよね。だから私は救おうと思っていまして神になるための準備をしていました」


 校長は心の中で震えていた。龍康殿の狂気なる威圧感と何故言ってもないのにバレたのかプレッシャーで心が折れそうだ。


「少し私の過去を話そう。私はいま四七歳だが三十年前……一七歳の頃、私は元々別の組織に入っていた。そこには弟も加入していて、弟はその時一四歳だった」


 龍康殿は唐突に過去を語る。


「私はその組織で優秀な腕前を残している。弟もそうだった。私たちは優秀な兄弟で十年以上……二十年だったかな?名を轟せていた」


 過去を語る龍康殿をただ聞くしかない校長。


「しかしある日事件が起きる。私たちはいつものようにターゲットを皆殺しするようにボスは仕向けた」


 龍康殿の瞳孔が開く。


「しかし、弟がターゲットの女に恋をしてしまったのだ。最悪なことに、そのせいで組織は壊滅し、私たち兄弟だけは生き残ったのだ。私は泣いてしまった。私たち以外は神になってしまった……と」


 龍康殿は怒りが抑えきれないのか握り拳を作る。

 今にも感情が溢れそうだ。


「その女の名は『柊伽耶ひいらぎかや』今でも憎しみしか出てこない」


 柊伽耶ひいらぎかやとは――柊惺夜ひいらぎせいやの実母である。


 つまり龍康殿にとって裏切り者はその弟の家族……惺夜たちのことである。

 惺夜は龍康殿からしてみれば忌み子であるのだ。


「その後、弟は名前を変えて柊家に嫁いだのだ。だから組織を裏切った弟を神にするのではなく、始末する様に。そいつの場所を探すも、すぐその場から去るように、逃げ出すのだ。未だに弟達を始末できない」


 ムカついたのか、龍康殿は拳を自分の頭めがけて力一杯数発殴る。


「最近分かったことだが、高校生の子供も居るそうだ。この地域にいるらしい。そいつを見かけたら殺そうと思っている……絶対に!」


 龍康殿は腹を一発殴る。

 殴った影響か「ウッ」と声が上がる。

 少し龍康殿の怒りが落ちつき。


「辛い過去を話してしまい申し訳ありません……」と目を涙目にして謝罪する。


 そのとき、校長は息がなくなりそうだ。


「ありがとうございます。殻星殿。私の話を聞いてくれて、本当に貴方を尊敬しています。素晴らしい人柄でした。それでは貴方様も神になりましょう」


 そういうと龍康殿はリロードし、校長の心臓目掛けて季節外れの霰のように撃ちまくった。

 校長は息を途絶えてしまう。


 龍康殿は泣きながら。


「ありがとう……本当にありがとうございます……。やっぱり貴方様は神になれる才能がありました。私も天使として学園兵隊やか弱い仔羊を神にします……。殻星殿は偽物でしたが私は生徒を成長させる立派な校長でした」と龍康殿はリロードし校長室を出るのだった。

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