16話

永瀬春花ながせしゅんかは音楽室とは別方向の廊下に向かう。


 目に映るのは、馴染みのある教室。


 筆記授業をサボり、ここら辺で戯れていたことを思い出した。


 ひたすら走り続ける。だが、疲れたのか息を切らせながら膝に手を置きその場で立ち止まった。


(あすかっち大丈夫かな? 無事ならいいけどこういう状況は助かってない場合があるからな……)


 飛鳥のことを考える春花。本部の指示を守るか迷っている時に放送が流れる。

 それはショッピングモールに避難している人質にとった内容だ。


 だが、春花の頭は飛鳥のことは忘れ、敵を見つけ、生徒を避難することだけしか考えてなかった。


 メンバーを犠牲にしても指示を守ろうと考える。同時に彼女の好きな人も浮かべる。


「随分前に告白すれば良かったわね……」


 春花は片思いしている人を思い、切なそうに言う。心がギュッとなった。

 その時、金髪の少女の背後に殺気が感じる。


 振り返るとフード姿の何者かが立っていた。

 フードの前はデフォルメされた天使の絵が映る。


 手に持っているものは拳銃、そいつは何も喋らないただ無言で春花に向かい撃つ。

 少女は後ろに空中で一回転しながら拳銃を持ち敵に向かって撃つも攻撃が外れる。


 そこから春花のスイーパーをお披露目した。


 春花は敵に近づき、こめかみに向かって殴ろうとするも敵に塞がれてしまう。また殴ろうとするも、また避けられる。


 それを七回繰り返し、タイミングを見計らって敵の足をしゃがんで蹴る。その刹那に敵は撃つ。春花も弾丸めがけて発砲し弾が弾かれる。


 その隙に敵は両手を使って春花の顔面を蹴りながら立ち上がった。

 彼女の鼻には深紅の空よりも赤い血が流れる。


 敵はクイクイと手を振って挑発した。


(やっばぁ、敵強ぉ……。)

 春花はそう考えながらも、拳銃をしまい、足からナイフを取り出す。


(そろそろアーミーナイフを使うしかないわね……。でもその前に……)


 春花は自身のアーミーナイフの刃をシースに収めた。


 鞘の模様は、クマやウサギのマスコットシールやLOVEという文字シールが貼られているなどの自己流アレンジが組み込まれている。


 春花はナイフを血で汚されるのが嫌いなので。鞘を収めたまま戦うつもりだ。


 春花は切れないナイフの先端を敵の喉に突きつける。怯んだ隙に左腕、右手、両太ももをナイフで叩く。ひたすらに、ただひたすらに。


 すると敵もフード内から何かを取り出す。それは春花と同じアーミーナイフ。


 敵のナイフで金髪ギャルのものを防ぐ。

 相手に合わせて、春花はナイフを振りかざす。

 右斜め上に左下、右下に左斜め上。それを繰り返し2人は防御している。


 刃切れ音は聞こえないが、疲れている春花の方が少し有利だ。


(まあまあいい感じね。このままなら疲れている僕でも倒せそうだ)


 そのとき、目の前にナイフの先端が挨拶してきた。


 狙いは金髪少女の横隔膜めがけて刺しにくる。

 春花はジャンプして空中で二回転しながら敵の後ろに移す。


「そろそろ行けるかな?」


 金髪のギャルはまた拳銃を取り出し、敵に向かって撃とうとする。


「じゃあね、誰かわからない天使さん」

 春花は凱歌がいかげる。


 一瞬、首から全身にかけて複雑骨折と切断された様な痛みを覚えた。


「痛い痛い痛い痛い! な、なにこれ……」


「時間稼いでありがとうね。お陰でいい生贄が増えたわ〜」


 春花は後ろを振り向く、目に映ったものはさっきの赤いドレスの女性。フィアナの姿だ。


「時間稼ぎ……。敵はそれが狙いで……」


「そうよ、ようやくわかって良かったわね。嬉しいわ〜」

「そうね、当たったから後でハワイ旅行のチケットが欲しいわ」


「あら、ハワイのチケットはフードの子を当てたらあげるわよ」

「ごめんね。今のぼくにはわからないよ。やっぱり好きな人と一緒に自腹で行くわ」


「いいわ、今回だけ特別にこの子のフードを取った姿を見せてあげる。貴女、フードとりなさい」


 敵はフードを外す。

 春花は天地が覆すほど驚いた。


 目の前にいたのはチョーカーをはめている。『伊藤飛鳥』の姿だったからだ。


「ど、どうして」


「さっき音楽室でやったことよ」

「音楽室……? まさか!」


「あらら、私ったらあの子に嘘ついちゃった 本当は洗脳させようと考えて、でも気づかれたら困るからあの子を殺すって言っちゃったわ〜」


「質問だけど、なんで実力に乏しいあすかっちが強くなった……?」


「それはね、弱くても強くても関係なくこのSFは強さを調整できるからよ。SATメンバーは全員捨てるものがないからね〜」


「なるほどね……」


 春花はこう言うもの納得できなく、今の状態から少し身体を耐え続ける。その間7秒。


「あと司咲くんだけフードかぶってないのはわざとなの、司咲くんの姿を他のメンバーにバレさせてその隙に私が洗脳装置とフードを被せて仲間を増やすのよ」


「仲間を増やす……?」


 疑問がいっぱいになるも春花は限界を迎える。

 意識が途切れる時。


(なんで僕はテロリストに負けてしまったんだ! 悔しい! 悔しいよ!)と少しずつ意識が遠ざかる。


 意識が途切れる際、走馬灯がよぎる。

 好きな人も気持ちが溢れるほど出てきた。


 その片思いしている人の名前は……。


「どうかしら? チョーカーをはめた様子は」


 春花はニヤリを笑いながら。


「僕の名前はW・A所属のSF永瀬春花……。龍康殿様。射守矢様。なんなりと命令してくださいませ」


「よしよし、ちゃんと出来たわね」


 フィアナは鼻歌を歌う。


「では新しく入った金髪の貴女。さっきの戦い見ていたけど、今度ナイフを使うときは鞘から出して戦うのよ。ナイフは血の味を覚えて成長するものだからね」


「わかりました。射守矢様の意思のままに……」


「ありがとうね そうだ今フードも被せるわね」

 テロリストの女は携帯していたフードを春花に被せた。


 その時フードの薄い板がバイクヘルメットの様に下がり、顔が見えない様に天使の絵が浮かぶ。


「さて、司咲くんは先にSATメンバーを見つけに行っているわ。私はそっちに向かうから、貴女達は別の洗脳した仔羊の共に行動してね。あと、ちゃんと隠れるのよ。時間が経ったら一気に本部に攻めるからね」


御意ぎょい、射守矢様。我々は待機させておきますね」

 フードを被った春花は飛鳥と共に別の方に移動する。


「そろそろ集まりそうね さぁて司咲くんのところまで行きますか〜」

 フィアナはゆっくりと司咲の方へ足を運ぶ。


 時刻は一三時三分。その頃、惺夜達は別のテロリストと戦っていた。

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