17話

 ちょうどそのとき、遠くから人影が見える。

 二人は身構えるがテロリストにしては動きが、やや小走りでまるで彼らに会いたがってそうな感じだ。


 よく見ると途中行方不明になっていた。『朝霧司咲あさぎりつかさ』の姿だ。


 だが首にはチョーカーみたいなものをしており、二人は司咲に何かやられたと軽く推測する。


 惺夜せいやなぎは司咲に銃口を向け、青髪の少年は淡々話す。


「司咲、お前に会えて心底嬉しいけど本当に司咲なのか? 首にチョーカーらしきものをつけているようだが」


「えー! せっかく惺夜達をみつけて喜んだのにこの始末かよ。まぁいいぜ、このチョーカーは何かしらないけど目覚めたらつけてあったんだよ」


 司咲は言葉を返す。


「つまりテロリストに何かされたというわけってことだよね? 司咲くん」


 凪が紫髪の彼に質問する。


「あぁそうだよ、クソダンディ厨二病。あの時屋上と別館から爆発音が聞こえて俺は別館の方に向かったんだ。」


「それで別館の方へ行ったらテロリストの一人にやられ。それをつけられたと……。司咲の話は良く分かった」


 惺夜は疑っている目でこう話し続けた。


「だけどさ、俺の推測だけど敵のテロリストは何か裏があるんだと感じるんだよね。相手そっくりにできるとか、ないと考えるが洗脳する機械があるとか……」


「何が言いたいんだ? 惺夜」


「お前言ったよな。『もし俺の偽物がいたら殺せ』と……。あくまでも推測だが今お前を殺す」


「あぁ……たしかに言ってたなでも」


 司咲が言い終わる前に惺夜は容赦なく引き金を触れるも弾は司咲の頬をかすめ、少し血が垂れる。


「俺はお前に言われてねぇぞ……。騙されたな」

「なるほど……。炙り出したってわけか。発想は褒めてやる。まぁ俺の本当の狙いは、じき解かるだろう」


 瞬間、彼らは背後を振り返る。


 一メートル離れているが、そこにはテロリストの一員なのに凛としている女性が立つ。

 W・AのNo3射守矢いもりやフィアナだ。


「天羽さん、千木楽さんのとこへ行ってください。ここは俺が処理しときます」


 惺夜は小声でオレンジ髪の少年に伝える。


 「分かった」と返事し、凪はすぐさま隠し持っていた煙幕筒を放ち千木楽の方へ向かう。


 そして惺夜は視力が悪い状況ながら司咲の足と腕を狙うも外し、背後からW・Aの射守矢フィアナに銃口を睨みつけられる。同時に煙幕も晴れた。


「どうしたのボク? もしかして私達を殺すつもりだったかも知れないけど、残念だねぇ」


 フィアナは惺夜に対して大人の関係らしく色っぽく言う。


 しかし、惺夜はちょっとイラッとした。


 散々SATの生徒達を殺したテロリストの一員だからだ。彼の正義感が許せなかった。

 だがその直後、司咲が惺夜に筒先を合わせた。


 一瞬だったので惺夜にはうっすらとしか見えなかった。


「どうやらぶちゃいくな恋人を背負ってのサバゲーは難しかったようね。彼女の代わりに私がキスしてあげるわ。銃弾の熱烈なキスでね!」


 フィガナと司咲が引き金を触れる前、腕に激痛が走った。


「私のことをブス呼ばわりねぇ……。人前に立てる顔じゃないのは貴女じゃないかしら?」

 つばきはゆっくり顔を上げながら言う。


「あらら、私の美貌に嫉妬しちゃったの? 可愛いわね〜」

「なっ! 違うわよ!!」


 赤髪の少女は頬を赤らめながら叫ぶ。


「おっと二人とも言ってなかったか? つばきは別に気絶していたわけじゃない。ただお前らの様子を見ただけさ、テロリストが見かけに騙されるとは皮肉なものだな」


 そう、つばきは倒れたものの引き金を引ける体力はある。敵の不意を突くために隙を狙っていたのだ。


 これは彼女のアイデア、倒れた時、惺夜に向けて作戦を言っていた。


「ここはまずい。逃げなくてわ」と捨て台詞を吐きながら女性は逃げる。


 惺夜も後を追いかけるが、つばきが「ここは私に任せて」と言いながら青髪の少年の瞳を見る。


 そしてつばきはフィアナの方へ向かう。


(ふーん、彼女なかなか素質あるわね。もしかしたら覚醒者の可能性が……)

 色っぽい彼女は不敵な笑みを浮かべる。


(龍康殿様、私がこの子を育ててあげますからね)

 フィアナとつばきは、社会科教室近くの廊下に消えてゆく。


 その場に残った惺夜と司咲。

 正義感の強い少年は息を整えて。


(司咲……。今助けるからな! だからその分耐えてくれ!)

 惺夜は洗脳された彼を狼が威嚇するように睨む。


 時刻は一三時五分を過ぎていた。


 埃立つ廊下に日を閉ざす曇天の様な重々しい空気が広がる。


 惺夜せいや司咲つかさは間合いを見計らっていた。


「どうやら俺とお前の二人っきりになったなぁ〜、悪いが、俺は陽気な奴とポジティブ思考の奴らが一番嫌ェなんだよ!」


 紫髪の少年は猛スピードで惺夜の方へ向かった。


「何言っているんだよ……司咲! どっちも同じ意味じゃないか!」


 惺夜は司咲の手刀を右腕でかわしながら左腕を大きく動かし、腹一点で殴ろうとするも洗脳された少年に頭突きされてしまう。


 惺夜は「いったぁ……」と言いながら二丁拳銃を構えフォームを立て直す。司咲も同じく拳銃を取り出し構える。重々しさとピリついた空気が流れる。


 先に切ったのは司咲の方だ。


 目にも留まらぬスピードで両者ガンカタをお披露目し、青髪の少年の筒先を司咲の拳銃に重なり金属音が鳴る。


 そして廊下中に火薬の匂いが充満し、グルグルとディスコのように回る。


 突如、惺夜の両方の拳銃の弾が切れた。


 その瞬間を見逃さなかった司咲は惺夜の方に近づく、彼はそれを狙っていたのか、洗脳されている少年の顎に拳で殴る。


 一瞬、怯んだ隙に、惺夜は弾を上に投げて拳銃を横にしそのまま振った。


 正義感の強い少年の拳銃はリロード完了。また戦闘体制に入る。

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