8話

 SAT学園は珍しく七年制度。四年目から大学の授業も含まれ、実技も高度なテクニックを要するので厳しくなる。


 普通SATのトップは四年からなるのだが、千木楽ちぎらの場合、最年少の二年の頃からなっていた。


 それは珍しく、SAT学園一二〇年の歴史の中では三年からはたったの数十回。二年からは数回しかないのだ。


 もちろん、この学園にSAT本部は存在している。

 場所は職員室の二つ隣の会議室で日夜活動している。だが防犯として普段は壁と一体化しており、本部の入り方はSAT関係者しか知らない。そこには二人の少年が話している。


「やぁ頑張っているかい? 千木楽ちぎらくん?」

「うるせーぞ。今、仕事中なんだ邪魔するな。ダンディ厨二病」


 千木楽真心ちぎらしんはキレながら、天羽凪あもうなぎに言葉をぶつけた。

「ハハハ、そんなに照れるなよ。確かに僕はダンディだからレディ達に優しく接しているし、君みたいな歳になると嫉妬することぐらいあるさ。見たところ頑張っているようだねお邪魔したよ」

 キザっぽくなぎは話す。


「あぁ、お邪魔すぎてこのSATから出て行ってほしいわ、てか早く帰れ」

「そんなこと言わないでくれよ〜。僕がこの場から去れば良いだけの話だからさ〜」


「そーゆー口調とかがウゼェんだよ! 俺と同じ歳のくせして。てか女に優しくとか言っているけど、お前、女子も男からもウザがられているって評判だぞ! 後、お前に嫉妬とかしてねぇわ!」


「えー? そんなこと言っていいのかな? SATトップの千木楽ちぎらくんがさ〜。教師に聞かれていたらヤバいんじゃないの? で〜も、いつもは仕事がだるいとか早く帰りたいと言っているSATトップだから叱れ慣れてるよね〜?」


「おめえは小学生か」


 千木楽ちぎらは呆れてツッコむ。

 無理もない凪はいつもダンディ気取りも嫌なのだが、会話は校長先生のように同じことしか喋らないのだ。


 この話ばかり聞いていたら、自殺してしまうのでと言わんばかりに千木楽ちぎらなぎを追い出そうとした。


 すると彼はこう言いだす。


「君さ、もし身近な人が記憶をなくした場合。どう対処する?」

 稀に見る真面目な顔をして千木楽ちぎらは一瞬戸惑ったが、すぐ冷静に返答した。

「さぁな、俺だったら殺すね」


「どうしてだ? 理由も問おう」

「ったく相変わらず上から言うねお前も、そりゃ役に立たねえからだよ。SATや俺らの記憶がなくなればそいつはただの凡人ひとだろ? だから殺すんだよ」


「なんか痛々しくない〜。その回答は〜」

「お前が言うなや。まぁ痛々しいといえばそうだけどさ」


「まぁ〜君がそうならいいんだ。僕だったら、いつも通り振る舞うかな。だって大切な瞳に哀を知ってしまったら困るから僕が愛を送るのさ」


 千木楽ちぎらは体をプルプルさせながら、大声を上げる。


「ケッ! 結局はお前が厨二ポエムを言いたかっただけじゃあねえかよ! 鳥肌が立つぜ」

「ノンノン、鴉色カラスいろ幸声しあわせさ」|オレンジ髪は少しハニカム。

「あっそ、時間をくってしまったが。早く帰れ。お前さ、まだやるべきことがあるだろ……?」


 千木楽ちぎらは瞬間、後悔した表情を浮かべた。

 何故なら、次にこう言うのだからだ。


「ん〜と、そうだ〜西園寺さいおんじつばきさんへ会いに行こう。なんてたってあの人の笑顔は碧光せきこうの美酒を呑んでいるような酔いに浸って……」


 なぎを言っていることを千木楽ちぎらが言い止めると。


「わかった、わかった。早くそいつにあって未成年飲酒してこい。そして捕まれ」

 千木楽ちぎらなぎを追い返す。


(全く冗談が通じるのか、通じないのか、わからないやつだな)


 なぎはそう思いながら鼻歌混じりに、西園寺さいおんじつばきを探す。


(まったく……。なんか仕事が増えたみたいで腹立つな。まぁ実力は認めるが)


 千木楽ちぎらくが「ふぅ」と一息入れるとガラッと本部のドアが開く。


「やっほぉー、シン! 仕事は順調か!」


 とあるギャルが現れた。


 金髪のミディアム、Yシャツだけでブレザーは着ておらず。

 緩んだネクタイをしており、スカートは短め。手には紙パックのレモンティーを持っている。

 名前は『永瀬春花ながせしゅんか


 SAT二年生で千木楽ちぎらの一個下だ。


 何故か知らないけど千木楽ちぎらのことをからかっている、不思議な少女。


永瀬しゅんかか、どうしたんだ? いきなり。てかよ、俺の方が先輩だから、さん付けしようぜ」


 春花しゅんかはレモンティーを飲みながら口をひらく。


「んーとね、報告報告! 報告しにきたの!」

「無視するなよ。んまぁ、報告かぁ。なんだ言ってみろ」


「んーとね、さっき四葉のクローバー見つけた!」

「そうか、それはよかったな。んで、報告は?」


「それが報告だよ。シン」

「んだと思ったよ。いい加減マジの報告出せよ永瀬ながせ


「ムッカッカー! 僕は大真面目に報告したのに!!」

「それが大真面目なら苦労しないよ。まぁ他に報告あれば俺に言ってくれ、なんとか対応するよ」


「わかった!! この僕、永瀬春花ながせしゅんかはシンに報告します! んでは対応よろしくね、バイバーイ!」

「通信機を忘れるなよ、携帯でも良いが」


 千木楽ちぎらはそれを言い、春花しゅんかは、のほほんと本部を去る。

(今日も可愛かったな春花しゅんか。いつかトップ卒業する前に春花しゅんかへ告白しないとな)


 と千木楽ちぎらは思いながら仕事に向かう。


 彼は春花しゅんかのことがすきなのだ。


 するとまた戸が開く。千木楽ちぎらはまた春花しゅんかか? と振り向くと、男の先生だった。


千木楽総長ちぎらそうちょう、この仕事終わったらこの資料もお願いしたいのだがいいか?」


「ま、まぁ良いですよ。でもその前にこの仕事終わったら、ご飯を食べに行って良いですか?」

「あぁいいぞ、押し付けてすまなかった。できる時でいいからな」


 先生は本部から去り、千木楽ちぎらは目頭を抑える。


(めっちゃ忙しいわ、だがその代わりに学園を襲うものがいなくて良かった。お陰でこうして総長そうちょうとしての仕事をこなしている。俺はまだまだ無能だからな。襲われたら俺は正しい判断できるがどうかわからない。)


 千木楽ちぎらは少し目を瞑り。


(歴代のトップの人ならどう考えるんだろう)千木楽ちぎらは考え込んでいた。

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