5話

「でもなぁ、『千木楽ちぎら』さんには敵わないよ。だってあの人の動きはガンアクション映画に出てくるような動きで、素早く敵を処理できているんだもの。過去に出場していた模擬戦もぎせんしか知らないけど、あれは芸術レベルだよ」


司咲つかさはニコニコしながら語る。


「あぁ、あの人はSATのトップになるぐらいの人だからな。そりゃそのくらいの実力はあるよ。いやぁーすごいよな……同じ実力の『なぎ』とは大違いだぜ」と青髪の少年は比較するように言う。


 千木楽ちぎらとは『千木楽真心ちぎらしん』のことであり、なぎとは『天羽凪(あもうなぎ)』のことだ。


 千木楽真心ちぎらしんは黒髪の細目で身長が一八〇センチ弱もあるこの学園のトップでもあり、リーダーでもある。仕事が忙しくあんまり見かける人は少ないが、過去の模擬戦の時は優雅で人を魅了するスイーパーさばきをするのだ。だが誰も千木楽ちぎらのプライベート情報は知らない。


 天羽凪あもうなぎはオレンジ色の髪をしており、容姿端麗の垂れ目で千木楽並みの実力があるが、とても痛々しい人であり、言わばキザである。自分からダンディだと言っているが、言うほどダンディではなくむしろ痛い人と思っている生徒が多い。

 

 男女問わずには優しく接しているが、みんなからウザがられている。

 罵倒として『ダンディ厨二病』と呼んでいる人もいたりいなかったり。


 そんななぎにも好きな人がいる。それは……。


 つばきは少し感情を入れ混じりながら。


「えぇ! そうよね天羽あもうさんとは大違いよ! あの人はなぜか知らないけど私を口説いてくるのよ! 本当にイライラするわ!」と感情込めて言葉を吐く彼女。


「まぁまぁ」と惺夜せいやはなだめ、フォローをした。


「でも気持ちわかるぞ、俺もあいつ嫌いだからな。大体みんな呼び捨てだろ? そう言うことさ、実力は確かだけど」


「でもね、何でもかんでも口説けばいいってもんじゃないわよ。私もあんなキザなセリフ聞いただけで鳥肌から北京ダック作れそうだわ」


「なかなか独特な表現だね」聞いていた司咲つかさは呆れる。

 惺夜せいやはクスッと笑い。


「なんかなぎには悪いが楽しいな、こう会話も。この時間がずっと続くといいのになぁ」


 二人は惺夜せいやに続き、笑う。


「楽しいわね。でも別の話題で楽しもう? 流石に天羽あもうさんにも悪いし、そうだこの前、新しいドーナツ屋さんができて……」とつばきは話題を変える。


 3人は小さな青春を謳歌おうかしていた。

 平和の象徴である鳩でさえ喜ぶような平穏な時間。

 とても幸せそうだ。


 しかし、学園を遠目から見ていた数十人の男女達。


 服には【Alluring・Angelアルアリング・エンジェル】と小さく書かれている。それは新米のテロリストの名であった。


 メンバー内では通称W・Aダブル・エースと呼ばれている。

 動きやすく血のように赤い胸元を開いたドレスを着ている女性はテロリストのボスに話しかける。


龍康殿りゅうこんでん様、我々の晴れ舞台の場所を見つけましたがどうしますか?」

 その女性の名前はW・AのNo3『射守矢いもりやフィアナ』


 顔立ちはモデルも嫉妬するほどの美形でスタイルも良く、胸元には小さなほくろがついている。足もスラッとしていて、まるで痩せたカモシカのようだ。


 龍康殿とは本名『龍康殿徹平りゅうこうでんてっぺい』W・Aを設立したボス。

 上品な臙脂色えんじいろのスーツを着ているアスリート並みに筋肉質な髭の生えた初老のダンディな男性。新米テロリストのボスにしてみれば肝が据わっている。


 龍康殿りゅうこんでんは少し悩み。


「ふむ、晴れ舞台にしたら、この獲物は不作の仔羊にすぎないが……」

「ですがこの学校は金持ちで有名な私立校。これを逃しては我々が餓死してしまいます」


「そうですね。結局見つけられず、仲間同士で食い合うのは痛手。我々にとっては不作でも親金かみ家畜共いけにえは日々飢えている獣に過ぎないです……」


 と龍康殿は少し考え。


「みなさん、痩せた生贄は好きですか? 私は大いに結構」


 と髭をさわり、少し笑いながら言う。


 そしてW・Aのメンバー達は答えるかのように柊惺夜ひいらぎせいやのいる学園に向かった。

 

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