第13話 小鳥無双☆レディースチームの対決②

「おい!東金!分かってんだろうな!」

氷室葉瑠は鋭い目つきで東金あずさを睨みつけた。


「ああ。分かっている。だが、仲間をやられてそのまま黙っているわけには行かない!」

あずさは怯むこと無く、氷室に言った。氷室の後ろに控える30名近いレッドローズのメンバーが笑いながら野次を飛ばした。


「星羅。頼んだよ!無理はしないで」

あずさは星羅の肩に手を置くと静かに言った。星羅の肩から彼女の震えが伝わってきた。


「ひゃ、ひゃい!!」

星羅はハッとして返事をしたが、声が完全に裏返っていた。

元々8名しか居ないホワイトバレットで今回の戦いの場に参加したのが5名だけだった。その為、喧嘩未経験の星羅や佐奈まで5名のメンバーに加えられてしまったのだ。あずさはきつく目を閉じて覚悟を決めた。


ホワイトバレット先鋒 ギター少女小野星羅。

162cm 51キロ 喧嘩経験無し。偏差値64、得意科目英語。将来の夢音楽関連会社で働くこと。


レッドローズの先鋒 特攻(ぶっこみ)重戦車こと熊沢美玲

160cm80キロ 元柔道少女。小学生の頃全国大会経験あり。大の子供好き、犬好き。将来の夢 トリマーか幼稚園教諭。

その巨体をゆっくりと揺らしてにじり寄ってくる。


「一体どうしてこんな事に…誰か…助けて…」

涙目の星羅は思わず目を閉じて祈った。


「何だお前?ビビってんのか?ははは」

笑いながら熊沢が勝ちを確信して更に近づいてきた。熊沢美玲の巨体から繰り出されたパンチはビュッという音が聞こえた瞬間にもう星羅の目の前にあった。


「キャ!」

星羅は思わず目を閉じるとそのまま尻餅をついた。

不思議と痛みを感じない。殴られた衝撃すら無かった。

ザワザワとする両チームのメンバー達の声が聞こえた。


「だ、誰だてめぇ!」

熊沢美玲の野太い声が聞こえた。


「あ、あれ…」

星羅がゆっくりと目を開けると、底に見えたのは長い髪を風に揺られて美玲の拳を素手で受け止めている小鳥の姿だった。


「せ、芹沢さん!!?」

星羅は思わず叫んだ。


「あれぇ?星羅ちゃん。ライブハウスって殴り合いする場所だっけ?ロックだねぇ」

小鳥は星羅をちらっと見て笑顔で言った。


「何だお前!?何の真似だこらぁ!?」

「誰だてめぇ!」

「ふざけんなこらぁ!」

レッドローズのメンバーから激しいヤジが小鳥に浴びせられる。


「おい。お前。何のつもりだ?ここはお遊びの場じゃねーんだよ。さっさと失せろ。殺すぞ!?」

レッドローズのリーダー、氷室葉瑠はそう言って小鳥を睨みつけた。


「えー!?だってぇ。友達が殴られそうだったしぃ〜。アタシそういうの見てらんないっていうか?そもそもホワイトバレットていうこの子の先輩がやってるバンドのライブ見に来たんですけどぉ!」

小鳥はクネクネとしながら、氷室に言い返した。


「このクソガキが…!!」

泣く子も黙るレッドローズの総帥であるこんな小娘にバカにされたのが許せなかった。氷室葉瑠は小鳥の前に自ら立ちはだかった。


「君は?星羅の友達?私はホワイトバレットのリーダー東金あずさ」

あずさはそう言うと小鳥の前に立った。

あずさも背が高い方だったが、小鳥は更に背が高かった。二人が並ぶとまるで本当に宝塚のように美しかった。


「えぇ!?アナタが星羅ちゃんの先輩?アタシ、ライブ楽しみにしてて。今日ここでシークレットライブがあると思ってきたんですぅ〜」

小鳥はそう言うと星羅を見るとウィンクした。


「ありがとう。でも、今日はライブじゃないんだ。危ないから君はすぐに帰ってくれないか。ライブはまた今度やるから…」

あずさはそう言って、小鳥の肩に手を置くとそのまま後ろに押し戻そうとした。

が、全く動かないのに驚いて思わず手を離した。


「でも、私、今日、どうしてもライブ見たかったんです。これ。終わったらライブしてくれるんですか?」

小鳥が訳のわからないことを言い出したので、あずさも星羅も混乱した。


「い、いや、君は一体何を言って…」

「芹沢さん!何言ってんのよ!危ないから早くこの場から帰って!」

あずさも星羅もまるで叱りつけるように言った。


「おいおい!いい加減にしろよ。舐めてんのかてめぇら?」

レッドローズの氷室葉瑠は、怒りをにじませながらあずさ達の前にやってきた。


「だからぁ!アタシがこの人達倒したらライブやってくれますか?」

小鳥は口を尖らせてあずさに言った。


「はぁ!?何を言って…」

「ちょ!芹沢さん!冗談言える状況じゃないよ!」


「ほぉ。おもしれーじゃねぇか…」

怒りに顔を真っ赤にした氷室葉瑠が小鳥の前に現れた。


「おい!一旦、勝負は中断。こいつをボコってから再開でいいな!」

氷室葉瑠は立会人である、青き堕天使の天塚きららに言った。


「ふふふ。構わないよ。僕は…」

天塚きららは思わずニヤついて言った。


「お前、覚悟しろ!」

次の瞬間、氷室葉瑠が小鳥の腹めがけて鋭くパンチを放った。

ドン!という鈍い音が響いて手応え十分という威力が傍で聞いていて分かった。


「きゃああああ!」

星羅が思わず叫んだ。


「うふふ。なにそれ?パンチなの??」

小鳥は微動だにせず、思わず笑いだしてしまった。


「!!?」

「え!?」

「な、なんなの…?」

「マジで!?」

「一体これは…」

泣きながらのたうち回る小鳥の姿を想像していたその場にいるすべての人は、驚きのあまりに声が出なかった。


「な、なんだお前!!?」

一番に驚いたのは、パンチを打った氷室葉瑠であった。


「いきなり殴るとかすっごい失礼じゃない?」

小鳥はわざと怒った顔をして、氷室葉瑠に詰め寄った。


「う、うわああ!」

氷室葉瑠は、思わずのけぞると小鳥の顔面にパンチを放った。


小鳥は笑顔のままでパンチを難なく避けると、そのままの姿勢で後ろにぴょんと飛んだ。


「イヤダイヤダ。ウワーなんて、まるで男の子喧嘩みたい…うふふ」

小鳥は軽蔑した目でわざと怖がるように身体を小さくして氷室葉瑠に言った。


「て、てめぇ…うらああ!」

氷室葉瑠は怒りのあまりに顔を真赤にして小鳥に飛びかかってきた。


パーン!という破裂音のような音が神社の境内に響いた。

今度は小鳥は避ける素振りも見せずに、氷室葉瑠の横っ面を引っ叩いた。

氷室葉瑠はそのまま意識を飛ばされると小鳥にもたれ掛かるようにして倒れた。


「殴るとか酷くない?男かっつーの。あはは」

小鳥はそう言うと、そのままひょいと氷室葉瑠を肩に乗せると、境内の階段のところに「よいしょ」と言って持たれかけた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る