第12話 小鳥無双☆レディースチームの対決①

「何でこんな事に…」

涙目の小野星羅は激しく狼狽していた。一刻も早く逃げ出したい気分だ。


彼女は今、自ら所属するレディースチーム「白い弾丸(ホワイトバレット)」とこの地域最大にして最強と言われるレディースチーム「赤き薔薇(レッドローズ)」の5対5のタイマン勝負のホワイトバレット先鋒として、80kg位はありそうな巨大な女と対峙している。


小野星羅は今年、明和高校に入学したばかりだった。

同じ中学からの親友の佐奈に誘われてたまたま顔を出したライブハウスで意気投合した相手が、ホワイトバレットリーダー、東金あずさだった。

まるで宝塚の男役のようなキリッとしたあずさに心奪われた。


ホワイトバレットは10名も居ない弱小チームで、元々は爆音のバイクなどで走る所謂暴走族とは異なり、音楽系やダンス系の女子たちが集まりチーム化した団体だ。それ故その存在を良しとしない他の暴走族やレディースチームからは疎まれ目の敵にされていた。


火花は水面下で散っていたものの、これまで大きな衝突はなかった。

だが、先日ホワイトバレッドの副リーダーが、レッドローズのメンバーに襲われ3人がかりで病院送りにされた事で今回の争いに発展した。

伝統の巨大極悪レディースチーム「赤き薔薇(レッドローズ)」7代目総帥、氷室葉瑠は地域最強にして最悪と恐れられた不良少女でこの巨大組織の統括であった。

彼女は敵対したホワイトバレットのあずさに提案した。


「5対5の勝負で決着をつける。負けたらチーム解散というものであった」

まともに喧嘩をしたこともない集団のホワイトバレットに対し、余裕の提案ということであった。あずさは戦力的に勝ち目はないので、この提案に乗ったのだ。


「はじめ!」

立会人であるレディースチーム「青き堕天使(フォーリンブルーエンジェル)」の第3代目総長 天塚きららの掛け声で始まった。


「おらああああああ!」

「いけえええ!」

「ころせええ!」

レッドローズの大勢のメンバーのおよそ乙女の声とは思えない低い声の掛け声がかかる。星羅はその恐怖から最早逃げ出す勇気すら無くなってしまったのだった。


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小野星羅は音楽が好きで部活は軽音楽部に所属している。

ギターを片手に登校していると一目でバンド少女だと分かる。彼女はJPOPやKPOPなども好きだったが、何よりもハードコアな音楽を演奏するのが好きだった。担当する楽器はギターだ。


「え〜!星羅ちゃんってバンドしてるの!?ねぇ?ライブハウスでもライブするの?」

星羅は突然クラスメイトに声をかけられた。

声をかけてきたのは学年中の注目の的と言っても過言ではないスクールカースト最上位、特別枠のような芹沢小鳥だった。

彼女は男女誰にでも声をかけるが、今までちゃんと話しをしたことはなかった。


「うん。するよ」

星羅はその整った顔立ちと陽キャオーラにクラクラとしながら答えた。


「えーすごいね~!アタシね、音楽よくわかんないから、音楽詳しい人尊敬するよー。ねぇ!オススメ教えて!」

「あ、うん、いいよ…」

星羅は小鳥の存在感に圧倒されつつも、音楽の話ができることが嬉しかった。

小鳥とはこれをきっかけに音楽の話をたまにするようになった。入学当初からあまりクラスメイトと話す機会のなかった星羅にとっては、小鳥の存在は少しありがたく思えた。


そんな穏やかな日々は、ある日突然崩れ去ることになった。


「星羅、佐奈。アンタたちウチのチームに入らない?」

唐突に、あずさに言われた二人は思わず顔を見合わせた。


「え?あずささん。チームってなんですか?」

星羅はライブハウスの帰り道に寄ったファーストフード店で思わず聞き返した。


「あー、いや。まぁ、サークルみたいなもんだよ。アタシ達路上でライブとかパフォーマンスとかやるから、その仲間の集まりみたいなもんだよ」

あずさはそう言ってパフォーマンスの映像をスマホで見せてくれた。

10代の少女たちの路上ライブやパフォーマンス集団と言ったところだろうか、二人は音楽が好きで自分たちも演奏をするのでチーム入は即決だった。


「あとさ、うちらの仲間はファミリーだ。ファミリーのためならなんだってやる。それだけは覚えておいて」

あずさは真っ直ぐな目をして、二人に言った。二人は異様な雰囲気を感じつつもコクリと頷いた。


ホワイトバレットというチーム名は元々あずさがやっていたバンド名だった。彼女がボーカルを務めライブハウスや路上でのライブは結構な人気があった。


ある日、あずさ達が路上ライブをしている時だった。

バイクが3台爆音を発しながら、路上ライブを邪魔してきた。

ライブを邪魔しようという意図は明確で、理由はバンド活動をしているあずさに惚れたという男が、このレッドローズの総長の意中の男だったという理由だった。


当初無視をしていたあずさだったが、あまりに執拗に邪魔をしてくる相手に話し合いを求めた。その時、偶発的に喧嘩が起こり元々武道をやっていたあずさともう一名でなんとかレッドローズのメンバーを追い返した。

これを機に、何となく一緒に居たメンバーがチーム化して、ホワイトバレットという名前が定着した。だが結果的にこれがチーム同士の戦いに発展してしまうことになるのだった。


機会を伺っていたレッドローズ総帥、氷室葉瑠は頃合いを見て副リーダー襲撃を命じた。思惑通りに挑発に乗ってきた東金あずさを叩きのめし、この街から追い出すことにしたのだった。


対決の場は、街外れの人気の殆ど無い小高い山の頂上にある神社だった。当然星羅や佐奈もその場に行くことになった。


「ねぇ!ねぇ!星羅ちゃんてば!」

「え!?あ、ああ、ゴメンナサイ!ボーッとしちゃった…」

小鳥に呼ばれた星羅はそう言って無理やり笑顔を作った。


「どうしたの?なんか顔色悪いよ。心配事?」 

「え?ほ、本当?そ、そんな事無いよ…」

消え入りそうな声で、星羅が言った。


「そお?ふーん、なら良いんだけど…それより今度の土曜日の夜って、ホワイトバレットていうバンドのライブするんでしょ!チョー楽しみ!」

小鳥はちょっと小首を傾げる仕草をしたが、すぐに笑顔で言った。


「あー、ごめん。芹沢さん。その日は急に予定が入っちゃって…皆参加できなくなっちゃったの…私もちょっと…」

星羅は小鳥の顔を殆ど見ないようにして言うと、自分のスカートをギュッと掴んだ。


「えー、そうなんだ…残念…」

「ごめんね。本当に。でもすぐまたやると思うから!」

星羅は無理やり明るい口調でそう言うと笑顔を作った。小鳥は少し不思議そうに星羅の顔を見ていた。


「そっか、じゃあさ。このアプリ連携しない?友達アプリ!色々共有できるんだ!ライブ情報とか共有してよ!絶対行くから!」

小鳥はそう言うと、急にスマホを取り出すと星羅に見せてきた。


「え、う、うん。別にいいけど…」

星羅は言われるがままに、小鳥のアプリをインストールしたのだった。

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