第9話 JKのひみつ♡ドキドキ身体測定なのだ!
「はい。芹沢さん!ちゃんと伸ばして!」
養護教諭の小倉里美は小鳥にキツめに言った。
「伸ばしてますよぉ〜」
小鳥は明らかに背筋を伸ばさずに必死に言い訳をした。
「だめ!ちゃんと背筋を伸ばす!」
「だから伸ばしてますってば〜」
「はい。172.5cm…。」
「ち!違います!絶対違います!もう一回!もう一回!」
「はぁ!?アナタ何言ってるの!!」
里美も呆れ顔で、思わず眉間にシワが寄った。
「ほらほら!先生!怖い顔しないで〜。美人が台無し〜♡」
小鳥が懇願するような笑顔で里美に言った。
「まったく…この子は…はい。しっかり顎引いて!」
里美は反論する気が失せたのか、もう一度小鳥の身長を測った。
「170…ちょっと!動かない!」
「ほら、今!今!早く!」
「…169.5…」
「はい!それ!はい!アタシの身長160cm台!!」
小鳥はさっと測りから降りてしまった。
「ちょっと!芹沢さん!」
「先生!ほらアタシの身長 169.5cmね!」
「あのねぇ。あなた達の体の成長の記録なのよ。とても大切なことなの」
里美は呆れ顔で小鳥に言い聞かせた。
「でもさ、先生。やっぱり170cm超えちゃうとさ、ちょっとデカ女って感じしない?」
「はあ?何で?」
「やっぱり〜160cm台だと女子っていう感じするでしょ!アタシは男子に「君何センチあるの?」って聞かれ時に、170cmとか言いたくないわけ!分かる?この悩める乙女の悩み」
小鳥はそう言うと、里美の肩に手を置くと深い溜め息をついた。
「はいはい。芹沢さん169.5cmね」
里美は呆れ顔でそう言った。流石に彼女の一人に時間も掛けていられない。本来10秒で終わる計測が、すでに2分ほど経っていたのだ。
この日は明和高校の身体測定件&スポーツテストの日。午前中の授業はこれに当てられる日だったのだ。
「はい。じゃあ、次。体重計乗って」
「…。」
小鳥はそのまま通過しようとした。
「え?ちょ、ちょっと!芹沢さん!え?何!?」
あまりにも自然に素通りしようとした為、危うく里美もスルーしてしまいそうになった。慌てて小鳥を捕まえた。
「あー。先生。ごめんね。アタシ宗教の関係で体重計乗れないの…」
小鳥は少しせつなそうな表情で堂々と言った。
「な…そんな訳あるかぁ!!」
普段は笑顔を絶やさない里美ですらも、思わず声を張り上げた。
「いや、マジで…。体重計に乗るとね、その分の魂が持っていかれちゃう…」
「!!?」
「ごめんね。先生…アタシ…アタシ…」
目に涙を溜めて、小鳥は里美にすがりつこうかという勢いだが、当然ながらなんとか体重計に乗るのを避けようとしての行動であることは言うまでもない。
「もうわかった!後で来なさい!」
里美は後方が大行列になっているのを見て、小鳥の体重計は後にする事にした。
里美の眉間には深くシワが寄っていた。
「よしよし!」
小鳥は小さい声でガッツポーズするとあっという間に居なくなった。
「えー。胸囲測定は無いんだー。アタシの100cmに迫るのダイナマイトボディーであることを証明できたのにー」
小鳥は悔しがったが、仮に100cm近い胸囲であったとしても、カップ数は大した事はないのではないかと誰しもが思ったが、誰もそれについては触れなかった。
「これは?」
「右」
「これは?」
「下」
「これは?」
「上」
「はい。両目とも2.0ね」
「アタシ受験の時、結構勉強頑張ったけど、目は悪くならなかったんですよ〜」
小鳥は記録員の2年の先輩の生徒に対して、自慢げに言った。
「あ、ああ、そうなんだ…」
当然困惑する先輩を小鳥は全く気にしなかった。
その後、聴力検査等も問題なく、身体測定は30分程度で終了した。
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そこからスポーツテストになった。
【第一種目 ハンドボール投げ】
「おいしょ!」
小鳥は力感無く投げるとハンドボールは大きな放物線を描きながら30メートルを遥に超えた付近にボールが落ちた。
「え!?」
記録員の生徒は思わず目を疑った。
明らかに軽く投げたのに、飛距離はダントツだったからだ。
「35mオーバー…」
記録員の生徒は唖然として答えた。そもそも35メートル以上の線が引かれていないので、何メートル飛んだのか分からなかった。
見ていた女子生徒達ばかりでなく、離れたところに居た男子生徒からも歓声が上がった
「あは、あはは、あれー、凄いマグレ!私、小学生の頃ドッチボール部だったからかな!」
小鳥は予想以上に飛んでしまったことに焦って、誰に言うでもなく変な言い訳をした。
まずいわ!これでは、また筋肉女とか言われかねない!男子達が引いてしまう!小鳥の焦りはつまりそう言うことだった。
【第二種目 立位体前屈】
「きゃあああ!」
測定している女子生徒が悲鳴を上げた。
「え!?なに?何?」
小鳥は慌てて悲鳴を上げた生徒見た。
「え、あ、だって芹沢さん、身体がペタンって…」
女性生徒は呆然としながら小鳥に言った。
立った状態でつま先より下に指を伸ばすこの測定において、小鳥の身体はまるで折れ曲がったかのようにペタリと畳まれているように見えた。
当然他の生徒達が、10cm程度で四苦八苦している所、30cmを超えてきていた。
「えへへ、そんなに凄かった?アタシ身体が柔らかいのが自慢なんだー」
小鳥は体が柔らかいことを、昔からやたら自慢していた。理由は体が柔らかい=女性らしいと言う彼女の独自の解釈による事らしかった。
「いや、体の構造どうなってんの…」
ただし、彼女の場合は少々度が過ぎるため、周りからしばしば気味悪がられたりもするが、小鳥自身は気がついていないようだ。
【第3種目 上体起こし】
「お、おおぉぉぉ」
記録員の女子生徒は、顔を引きつらせて小鳥を見た。
30秒間で測る上体起こし(要するに腹筋運動)のスピードが一人だけ異次元だった。
男子生徒のそれよりも遥かに早く、回数をこなす彼女の姿はある意味奇妙にすら感じられた。
「えっと…43回…です…」
「おー!やっぱり50回は無理かぁ!」
小鳥はやたらと悔しがったが、彼女が一体何と競っているのかは、そこにいる誰も分からなかった。さらに言えば、小鳥自身も恐らく分かっていない。
【第四種目 握力】
「あ、行き過ぎた…」
何食わぬ顔で小鳥は指で素早く自分の針を戻すと、「23kg」の握力計を係員に見せた。
だが、あからさまに自分で戻したのを皆見ていたわけで、誰も何も言わなかったが、明らかにメモリの後半まで行っていたのを見た。
「ちょ、ねぇ、今…」
「うん。80くらい行ってなかった?」
「だよね…錯覚じゃないよね」
後ろで様子を見ていた女子生徒たちは、引きつらせながら言った。
「あ、こっちも…」
手を左に持ち替えて握った針はやはり60キロを軽く超えたのを、またしても素早く小鳥は戻した。
分かりやすい不正を働いているが、誰も何も言わなかった。
小鳥の握力は右23kg,左27kgとなった。
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「あ!キザー!いちろー!」
小鳥はスポーツテストを終えた二人の幼馴染を見つけると、素早く駆け寄ってきた。
「どうだった?ねぇねぇ!いちろーは背は伸びた?」
小鳥は一路と傑に飛びつかんばかりに、彼等の肩に腕を掛けた。
「えー、僕は2cm伸びたよー。小鳥ちゃんは?」
一路は小鳥にそのまま聞いた。
「えーとねー秘密!きゃはは」
小鳥はそう言うと愉快そうに笑った。
「ちょっと芹沢さん!アナタまだ体重終わってないわよ!」
そこに突然養護教諭の小倉里美が現れた。
「えー!だから!アタシは体重計には乗れないんですぅ!」
小鳥は口を尖らせて、里美に言い返した。
「何アンタ?また体重計乗らなかったの?」
「む!キザには関係ないでしょ!」
小鳥はキッと傑を睨みつけた。
「先生、小鳥の体重。僕知ってますよ」
「あ、そうなの?いくつ?」
里美は小鳥にではなく、傑に聞いた。
「ちょ!アンタ何いってんの!ヤメてよ!」
小鳥は慌てて里美と傑の間に割って入った。
「この子の体重は68kgです」
傑は何の躊躇もなく言った。
「はぁ!?そんな訳無いでしょ!今朝は63kgですぅ!!」
「……。」
「……。」
「……!?」
「だ、そうです…」
傑は小鳥を見ずに、里美に言った。
「ちょ!ちが!違うよ〜!分かった!ホントのこと言うね。本当は55kgだったの!」
小鳥は慌てふためきながら、里美の腕を捕まえて迫った。
「はいはい。55kgね。わかったわかった」
里美は記録表に63kgと書きながら言った。
「ほんとだよ〜!先生!55kgだったの!あ、分かった。じゃあ、特別に56kgで手を打つよ!先生!ねぇ!じゃあ、57kgは!?」
小鳥の半泣きの提案を里美は一切取り合うこと無く去っていくのであった。
「せんせい〜違うの〜。アタシは168cm、54kgだよ〜」
涙ながらに座り込み訴える小鳥の姿を、傑と一路は冷めた目で見下ろしていた。
何故ならこれまでも何度も見た光景であったからだ。
ちなみに小鳥は170cmを超える身長(自称168cm)だが、見た目はかなりスリムに見える。体重が重いのはどうやら骨密度と筋肉が常人よりも非常に多いという事と思われる。
何故なら彼女の体脂肪率は10%を切っているのである。
体重こそがその全てであるという小鳥の価値観は、乙女の永遠の悩みかもしれない。そんな春先の一日であった。
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