第3話 みっしょん♡乙女な部活動を探すのだ

高校入学直後の1年生にとっての一大イベントはやはり部活動の決定であろう。

明和高校では、入学直後最初の2週間を部活動自由体験期間として、自由に体験することが許されていた。

多くの生徒はここで自分の入る部活を決めるのである。


「僕は囲碁将棋クラブにしようかな…」

奥村一路は部活紹介のパンフレットを見ながら呟いた。


「ふーん…いちろーはまた地味な所行くねー」

芹沢小鳥もまたパンフレットを見ながら一路に言った。


「キザは?なにか部活するの?」

一路は木崎傑に聞いた。


「私は別に…部活はしない…かな…」

傑はあまり興味がなさそうだ。


「えー?勿体ない!?キザの身体能力だったら、運動部で活躍できそうじゃん!中学時代みたいに陸上とかは?」

小鳥は少し驚いたような表情で傑に言った。が、傑は首を振るばかりで何も答えなかった。


「小鳥ちゃんはどうするの?」

一路は小鳥にそのまま聞いた。


「アタシはね!決めてるんだ!マネージャー!」

小鳥はパンフレットから目を離すとウキウキで一路に言った。


「え?何の?」

一路は不思議そうな顔で言った。


「ん?だから言ってるじゃん。マネージャー!」

「いや、それはさっき聞いたよー。で、何の?」

「ええ?だからマネー…」


「こと。マネージャー部なんてものはないよ。何の部活のマネージャーやるのかっていちろーは聞いてるんだよ」

話が噛み合っていないので、傑は小鳥に言った。


「ああ、そんなの何でもいいじゃない?」

「!?」

「はぁ!?」

一路も傑もいつもの事とは言え、小鳥の回答に流石に呆れ返った。


「アタシはね、マネージャーがやりたいの。それで部員の皆が元気に活躍するのを陰ながら応援するの!ほら!イケてる女子じゃん!これ青春じゃん!」

小鳥はウキウキした顔で二人に言った。


「ほら!じゃないよ。こと。情けない…」

傑は心底呆れ顔で小鳥を窘めた。


「例えば…野球部とか?」

一路が渋い顔をしながら小鳥に聞いた。


「たっちゃん…小鳥を甲子園に連れてって…的な感じ」

「たっちゃんて誰?じゃあ、サッカー部なら?」

「背番号10の走る姿を私はずっと目で追っている…アイツ…もうアタシの事なんて…的な感じ」

「何?その詩みたいなの?じゃあ、バスケは?」

「ほら!君はもっと高く飛べるよ!君が高く飛べるように!私はコートの横で応援するんだから…的な…」


「あー、もういい!もういい!こと!アンタ恋愛したいなら、恋愛部でも作って勝手にやってなよ!アンタみたいなのに来られたら迷惑だよ!」

傑は耐えられなくなって、思わず声を大きくして小鳥に文句を言った。


「ええ!?何で!?私が応援する!選手成長!恋愛!モチベアップ!全国制覇!ほら!ウィンウィンウィンウィン!じゃん!」

小鳥は口を尖らせて傑に言い返した。


「とにかく、アンタみたいな不純な理由でマネージャーなんて務まんないよ!大体アンタ絶対自分で運動やりたくなるタイプじゃん!」

「む…た、確かに…やりたくなるかも…」

小鳥は言い返せない事を自覚しているのか、口をモゴモゴとさせていた。


「じゃあ、マネージャーは駄目かぁ…。アタシは恋愛も放課後女子会もバイトもしたいし、運動部で毎日ってのはやだなぁ。」

小鳥は思い描く高校生活を、頭の中で思い巡らせた。


「うーん、じゃあ、週の半分の部活とかがいいなぁ」

「じゃあ、僕と一緒に囲碁将棋クラブは?」

「えー?昔いちろーと公民館の将棋クラブに通ってたとき、おじいちゃん達から凄い可愛がられたじゃん。アタシ…。アレのイメージがあるからちょっと…」

「ああ、確かにオタサーの姫というより、おじいちゃんたちの初孫娘って感じだったよね…」

「お菓子いっぱいもらった…」

小鳥は遠い目をして昔を思い出した。


「うーん、じゃあ、茶道部?書道部とかは?」

一路はパンフレットを見ながら言った。


「いや、それ無理でしょ」

何故か小鳥ではなく、傑があっさりと否定した。


「何でよ?そんなの分かんないじゃん」

「やりたい?それ…やりたいと思うの?」

「…。思わない…かも…」

「ほら…」

「ん…」


「じゃあ!これ!演劇は!?」

小鳥は演劇部の紹介ページを見開いて言った。


「それはない」

「無理だね」

一路と傑はほぼ同時に否定した!


「な、何でよ!?アタシほら、結構背も高いし声も通るから!舞台とかで映えると思うんだよねー」

小鳥はそういうと立ち上がって舞台女優のように手を大きく広げてみせた。


「でも小鳥ちゃん。幼稚園の時も、小学校の時もいつも主役だったけど、演技凄く下手くそだったよね…」

「アンタ自分が不器用ってこと少しは理解しなよ」

一路と傑が言うように、見た目が華やかな小鳥は主役級に抜擢されるものの著しい演技力不足で、毎回ひどい出来栄えになるのだった。


「あー、ヤメて。思い出してしまう。学芸会の後の家族との冷めた夕食…。心が痛い…」

小鳥は胸が痛むような仕草をした。その演技もまた酷かったが友人二人はスルーした。


「あ!?合唱部は?何か力を合わせてこれぞ青春って感じ!」

「アンタ、音感ゼロじゃん。音楽の成績小中通じて常に1だったよね。2になった時あった?そんな人が音楽とか笑っちゃうわ」

「く!辛辣!じゃ、じゃあ、その理屈で行くと吹奏楽部は?」

「却下!」

「…。」

何となく、小鳥の入れそうな部活がないように思えた。


「あ!?これこれ!これがいい!」

「何?」

「ちょっと思ってた青春とは違うけど、家庭科部!料理とかお菓子作りとかするの!これどう?よくない?」

「ふーん。アンタの花嫁修業には丁度いいかもね」

「へー。小鳥ちゃんが作ったお菓子かぁ。ちょっと想像しにくいけど、いいかもね!」

「でしょ!?でしょ!?お菓子作ったら。二人に持っていってあげるからね!」

「うん。楽しみにしているよ!」

「アンタ。ちゃんとしたの作んなさいよ!」

「うんうん。これでアタシも女子力激上がり!モテモテ女子に近づくんだ!よーし!家庭科部へGOなのだ!」

小鳥はスタッと立ち上がると、そのまま家庭科実習室へと走り出していった。


「小鳥ちゃん。楽しそうだね」

「そうね。あの子のお菓子か…。ちょっと怖いかも…」

「あはは。本当だね。残したら怒られそうだよね!」

「ふふふ。そこは先輩たちが厳しく指導してくれるでしょ!ちょっとは女の子らしくなれるんじゃない」

一路と傑は小鳥の居なくなった教室で、小鳥の浮かれた時によくやる跳ねるように歩く姿を想像して笑った。


だが、この選択が後にこの二人に取って日常的な災いになって降り掛かってくるとは、この時の二人はまだ知らないのであった。

ちなみに最大の被害者は、一路の所属する囲碁将棋クラブの部員15名である。

この半年もしないうちに家庭科部に芹沢あり!という「悪名」は、学校中に轟くことになるのであった。

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