第4話 番長の憂鬱★ハラパン①
東都西高校は大荒れの学校であった。
所謂不良少年たちの巣窟であり、近辺の高校の中でも群を抜いて無法地帯になっていた。毎年行われる新入生の喧嘩祭りである「一年闘争」の覇者がその王位への道を歩く第一候補とされる重要なイベントだった。
そのイベントを圧勝したのが、小鳥たちの同じ中学出身である柴崎武蔵であった。
柴崎は180cmを超える背の高さと体重100キロ近くある正に重戦車のような男であった。
「何か東都西高校の一年生のなんちゃらイベントの優勝は柴崎君らしいよ」
一路はどこかの噂を聞いたのか突然話しだした。
「何それ…くだらない…」
木崎傑はその話に興味を全く持とうとしなかった。
「ええ!?マジで柴崎くん出世したんだねー!今度サプライズでお祝いしてあげようか?」
芹沢小鳥は脳天気に微笑んだ。
「小鳥ちゃん…それ多分やめた方が良いと思う…」
「同感…アンタ…マジでちょっと空気読んで…」
一路も傑も全否定した。
「はぁ?何でよ!?アタシ結構仲良しだったんだどなぁ…」
小鳥は不満げに言った。
「!!?」
「え!?」
二人共驚いた表情を見せたが、諦めたのか何も言わなかった。
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「おい、お前ら舐められんじゃねーぞ!」
柴崎武蔵はその大きな体躯で肩で風を切って歩いていた。
「はい!柴崎さん!」
「オス!東都西の柴崎さんに喧嘩売るやつなんて居ないでしょ」
柴崎の舎弟3人と一緒に柴崎は街を闊歩していた。
令和のボンタン刈りと称して、悪そうな高校生を見つけると片っ端から喧嘩を売りその勝利の証として、ズボンを奪うという事をここ2週間やっていたのだ。
ただし令和のこの時代は、ボンタン(太めの学生ズボン)の時代ではないため、実際には倒した相手のズボンを奪うというだけの悪趣味なルールなのだが、それでもこの2週間でおよそ40本のズボンを狩ったのだ。
「でも、柴崎さん。ここんところ噂が広まっちゃってもう街に、不良が集まらないですよ!」
「そうですよ。東都西の柴崎って言えば、もう有名ですからね」
舎弟達は柴崎に向かって人が居ないという現状を伝えた。
「たりねー!たりねー!俺の血が騒いで収まらねぇ!」
柴崎はそのあふれるパワーを持て余していたのだった。
柴崎達4人が繁華街の外れに差し掛かると、前方から6人組の若者がやってきた。
柴崎と若者はすれ違いざまに、お互いわざと肩をぶつけた。
「ほう。話が早いな!」
柴崎はニヤリと笑った。
「お前!東都西の柴崎だな。俺の仲間が先日世話になった」
目の前の男が柴崎を睨みつけた。
「じゃあ、そこの海浜公園でも行こうか?人目につかねーからな」
「はん。おもしれー!相手になってやる」
若者たちはにらみ合いながら、公園に向かった。
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柴崎はぼんやりと空を見上げた。
「弱い…弱すぎる…」
眼下には、先程の因縁をつけてきた6人組が全員転がっている。
喧嘩が始まると最初の数秒で柴崎は二人を倒してしまった。
舎弟達も東都西の学生だけありかなり腕のたつメンバーだった。
柴崎達は圧倒的な強さで人数の多い6人を倒してしまった。
「ククク、おい。もういい。ズボンもらっとけ」
柴崎は倒れている6人を無視するかのように舎弟に命じた。
舎弟達はズボンを剥ぎ取ると、それを畳んで人目のつく通りに並べるのであった。
「柴崎さん!強すぎっす!流石っす!」
「マジ、惚れそうですよ!あのパンチエグいっす!」
舎弟達は柴崎の強さに酔いしれていた。
「もうこの街に、俺の相手は居ないかもしれん…」
柴崎は舎弟たちに言った。
「おい。お前ら。俺はいよいよ2年と事を構えようかと思う」
柴崎は舎弟たちの反応を見るようにじろりと睨みを効かせた。
「ま!?マジっすか!?ついに下剋上ですね!」
「柴崎さん!やるなら!つていきます!」
「俺も一年全部に声かけますよ!」
舎弟達は柴崎の覚悟を知り、感情の高ぶりを抑えられなかった。長い不良の学校の伝統の中で、かつて1年でトップに立ったと言う伝説の男が居たという。
柴崎はついに2番目の伝説になると決めたのだった。
その時だった。突然柴崎の悪夢が始まったのだ。
「やっほー!柴崎くーん!久々ー!ていっても数カ月ぶりかぁ?」
突然柴崎に声を掛けた女が居た。
柴崎は嫌な予感を感じつつ、ゆっくりと気安く声を掛けてきた人物を振り返った。
「げぇ!せ、せ、芹沢!?」
柴崎はその大きな体を大きく後ろにのけぞらせて驚いた。彼にとって嫌な予感は的中した。そこにはニコニコとした顔で立つ、芹沢小鳥と複雑な表情の一路と傑が居た。
「し、柴崎さん。誰ですかこの女?」
舎弟は怪訝な顔で小鳥を見た。
「おい!女!お前誰だと思って声かけてんだ!?」
舎弟の一人は小鳥に対し、凄んでみせた。
「お、おい!だ!黙れ!!ちょっと待て!!」
柴崎は慌てて舎弟達を止めると、小鳥に向かって無理やり笑顔を作った。
「ひ、久しぶりだ、な…ねぇ。こんなところに何の用だ…い?」
柴崎は引きつった笑顔のままで小鳥に聞いた。
「え?いや、たまには海でも見ようかってなって歩いてきた」
小鳥はさも当たり前のように答えた。
ふざけんな!?何でこんな何にもない時期に、海見たいとか言ってんだコイツ?馬鹿じゃないのか!?歩いてきたとか?頭湧いてんじゃねーのか!?とにかくさっさとコイツラを行かさなくては…
心のなかで叫ぶと柴崎は頭をフル回転した。
「て、言うか聞いたよ。アンタ大出世したんだって?何かのお祭りで優勝したんでしょ?凄いじゃん?何?ダンス?相撲?何のお祭り?」
小鳥は遠慮なく柴崎ににこやかに質問した。
「お、お前!まさかウチの一年闘争の事いってんのか?!」
舎弟の一人はバカにされたと思い、小鳥に文句を言いそうになった。
「ちょー!!!っと違う違う!!違うぞー!せりざわー!ちょっとコイツ何言ってんのかなー。あはは!」
柴崎は慌てて舎弟をヘッドロックで抑え込むと慌てて取り繕った。下手に刺激すると参戦するとか言い出しかねない事を柴崎は知っていた。
「あー!そうだ!俺たちもう行かないと!じゃ、じゃあな!実は結構急いでんだよなー!あはは」
柴崎は小鳥に慌ててそういうとその場を離れようとした。
「えー?せっかく会えたのに、寂しいじゃん。じゃあ、ちょっとだけウチらもついてくね!」
小鳥は笑いながら無邪気に言う。
このアマ!?わざと言ってんのか!?まずい!まずいぞ!舎弟にこのバカ(小鳥)とのやり取りをこれ以上見られるのは非常にまずい!俺の威信に関わる!
心のなかで柴崎は、小鳥たちから早く離れたいという思いでいっぱいだった。
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