第2話 みっしょん♡高校デビューするのだ
「小鳥ちゃーん!ちょっと待ってよー」
奥村一路は息を切らせて弱音を吐いた。
「こと!急ぎすぎ!もうちょっとゆっくり行こうよ」
木崎傑は諭すように小鳥に言った。
「はぁ!?アンタ達のせいでしょうが!アタシまで遅刻したらどうしてくれんのよ?アタシは優等生キャラでやってくんだから!」
芹沢小鳥は整った綺麗な顔とは裏腹に冷たい態度と顔で言い放った。
奥村一路と木崎傑、芹沢小鳥は幼稚園時代からの幼馴染だ。
奥村一路は頭脳は最高、運動神経は最低の典型的な博士というあだ名が付きそうなタイプ。見た目も中性的で、性格も頼りない超草食男子だ。
木崎傑は超絶イケメン、運動も勉強もそつなくこなす、リアルイケメン男子である。が、性格が完全な乙女だ。
そして芹沢小鳥は、スタイル抜群・超美形の女子高生。カワイイ・イケてる女子に憧れる戦闘民族の最強戦士だ。
3人共地域の私立の進学校である明和高校に今年の春入学したばかりだ。
幼稚園時代からの付き合いであるが、別々に居ると周りから完全なまでに孤立してしまうことから、何となく一緒にいると言う間柄である。
「くぅ!私はついに高校デビューを果たす!そんでね!素敵な彼を捕まえて!胸キュン♡どきどき♡青春の3年間なのだ!」
小鳥は拳を握って誓いを立てた。
「小鳥ちゃん。でも、ウチの中学校から僕ら以外に8人も明和に来てるんだよ。小鳥ちゃんの事バレるんじゃ…」
奥村一路は心配そうに小鳥に言った。
「うふふ。いちろーはその辺りが甘いなぁ!勉強はよくできても、もうちょっと世の中のこと知らなきゃねー」
小鳥は自分よりも少し背の低い一路の頭をポンポンと叩いた。
「ちょ!やめてよ。恥ずかしい!」
一路はやや不満げに言い返した。
「こと。アンタまた悪さしてないでしょうね!?」
木崎傑は厳しい顔で小鳥にいった。
「大丈夫!ちょっと、中学の卒業式の前に皆よんで、しっかり話しつけておいたから!ハ♡ア♡ト♡!」
小鳥は傑にウィンクをした。
「ふー。ほんとにアンタ、アタシたちにまで迷惑及ぶの勘弁してよねー。変に恨まれちゃうじゃん!」
傑は不満げに小鳥に意見した。
「ダイジョブ!ダイジョブ!それよりキザはどうすんのよ?アンタ高校でも隠してくの?疲れちゃうぞー」
小鳥は少し真面目な顔をして木崎に言った。
「アタシは別に…」
「ほらー!アタシとか言わない!」
「あ、う、うん…僕は…」
「キザの見た目で「僕は」とかウケる!」
小鳥は伏し目がちの木崎を見て正面から笑った。
「ちょっと!小鳥ちゃん!キザ困っちゃうよー」
一路は小鳥を窘めた。
「ああ、ごめんごめん!でもね、キザ!アンタはそのままでいいよ!アンタはアンタ!あたしゃ何が有ってもアンタの親友だよ!」
小鳥は笑いながらも真面目な声で言った。
「…。何言ってんのよ。はず…」
傑は182cmある体格を小さくして、目線をそらして言った。
「とにかく!私達は今日からが本番だよ!中学の頃の失敗は繰り返さない!分かった!二人共!」
小鳥は今一度2人に気合を入れ直した!
「小鳥ちゃーん。でも、中学の失敗って、そのほとんどは小鳥ちゃんじゃ…」
一路は小鳥に小さく抗議した。
「はぁ。甘いなー!いちろーは!アンタそんなだから、舐められるんだよ!男ならビシッとしなよ!ビシッと!」
小鳥は一路の肩をバシッと叩いた。
3人の同じ中学出身の高校生は、入学2日目からいきなり目立っていた。
この日の通学路でのやり取りは、他の生徒から見ると超絶美人と超絶イケメンのカップルとその共通の友達が楽しげに会話しながら登校しているという、誰もが羨むシチュエーションに見えたのだった。
入学式の後クラスが発表された。小鳥と一路は1年A組で同じクラスだった。木崎傑は隣のB組だった。
昨日の入学式後の芹沢小鳥は、クラスの男子のみならず女子からも注目の的だった。
一言でいうと清楚・可憐と言う言葉がまさに似合う女子高生がクラスに居たのだから。
クラスの男子たちは口には出さないが、その美しさに魅了され、女子たちは羨望の眼差しを小鳥に向けていた。
小鳥はおしとやかに、ほとんど何も話さずにこにことしていたものだから、とても好印象であった。クラスメイトたちの視線をほぼ独り占めした状態であった。
小鳥の高校での目標は、中学までの荒れ果てた日常ではなく、女子高生としての青春胸キュンライフを3年間過ごすこと。自分の可愛さに磨きをかけ、イケてる女子の追求の日々を送ることだった。
奥村一路の高校での目標は、勉強以外の自分の存在意義を見つけること。勉強以外で人に認められる立派な高校生になることが目標であった。
木崎傑も高校での目標は、まずは自分を理解してもらう環境を作ること。誰にも言えず苦しい思いをした中学時代、小鳥に助けられてばかりだった自分を、一人で何でもやれるようになるという目標であった。
3人は幼稚園から一緒ではあったが、小学校に上がるとクラスはバラバラになった。クラスメイト達は、彼らを理解してくれるものも居たが、大半は理解できずに最終的に孤立してしまった。
中学に上がると、それぞれ個性がより際立つようになり孤立はますます深まった。唯我独尊の小鳥は、全く気にしていなかったが、一路や傑にとっては生きにくい環境であり、3人で一緒にいることが唯一こころの休まるときであったのだ。
「私達はきっと上手くやれる!今までの私達じゃないんだ!二人共、最初が肝心だよ!しっかり気合い入れていくぞ!高校デビュー!おー!」
小鳥は二人に気合を入れる掛け声を上げた。
「ちょっと!恥ずかしいよー!」
「こと!ほんと、アンタそういうとこ!」
二人は前途多難を感じていた。小鳥はにこやかに軽い足取りで二人よりも少し先に走っていった。春の風は少し暖かく感じた。
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