第四話

「もしもし、僕だけど」

『誰ですか?』

「僕だ」

『ボクボク詐欺ですか? キャーこわーい!』

「詐欺られたのはこっちなんだが。お前が送ってきた場所に保育園なんてないぞ?」

『あるだろ?』

「ねぇーよ! なんかアロエ荘ってところだったんだけど」

『そこが保育園だ!』

「いや、こっちはそこの住人に違うって言われたんだよ」


 大きなため息が聞こえ、『バ、バレてしまったか』と謎の言葉が聞こえてきた。

 それと『どーしたの~?』と言うセクシーな女性の声も。

 海の奴、年上女性と朝っぱらから遊んでやがる。僕がこんな目に合ってる時に。


「なぁ説明してくれ。ここはどこなんだ?」

『ほ、ほほほ、ホントウにホイクエンだよー』


 棒読みの分かりやすい嘘に、ため息を漏れる。

 ふざけるのもほどほどにしてほしい。


「だからさ、ここはアロエ荘って場所なんだ! 僕で遊んで楽しいか?」

『違うって、本当に保育園だぜ?』

「話聞いてたか? それともまだ僕で遊んでるのか?」

『ガチなんだって! そこはアロエ荘であり、本当の名が合法ロリ保育園なんだよ!』

「合法ロリ保育園?」


 合法ロリ保育園って何だ?

 この世界に新しくそんなものが出来たのか?

 もちろん僕は合法ロリを知っている。

 合法ロリとは、姿は幼女でありながら、実年齢が十八歳を超えてる女性だ。

 どう考えても保育なんて必要ない。十八歳を超えてるのだから。


『合法ロリ保育園にはな、色んな合法ロリがいるんだぜ』

「それは知らん。とにかくアロエ荘はただのアパートってことでいいよな?」

『そう……じゃなくて、合法ロリ保育園だ! 春にはそんな合法ロリたちのお世話をしてほしい』

「は? 何言ってんだ? 合法ロリは十八歳以上だ。お世話はいらんだろ?」

『いるから合法ロリ保育園を作ったんだ。それぐらい分かれ!』


 なぜか逆ギレされた。滅茶苦茶なこと言われて逆ギレされたよ。

 キレたいのはこっちのほうだというのに。

 僕は保育園の園長になるためにここに来たのであって、合法ロリ保育園の園長になるためにここに来たわけではない。それに僕が愛してるのはロリであって合法ロリではない。


『これは春ためでもあるんだぜ?』

「僕のため?」

『そうそう。いきなり春が保育園の園長になってみろ。間違いなくロリの体に許可なく触れて警察沙汰になってるはずだぞ』

「……」


 それを言われたら何も言えない。

 僕はさっき日高さんを園児だと思い、勝手に体を触って高い高―いをしたのだから。


『今の時代、子供でも嫌だと感じたら親に言う。親はそれを性的な方面で捉える。そうなれば春は一瞬で犯罪者だ』


 ついさっき犯罪者になりかけたこともあり否定できない。間一髪、通報を免れたが。


『だから、保育園ではなく、合法ロリ保育園にしたってわけ。合法ロリも一応ロリだからな』

「なるほど」


 僕にとっては合法ロリはロリではないがな。

 日高さんには完全に騙されたが、あれは合法ロリの中でも別格。仕方ないとしか言いようがない。だとしても、ロリコンとして恥ずべきことだ。反省はしている。


『ということで、今日から合法ロリ保育園の園長を頑張ってくれ』

「普通に嫌。何のために僕がここで働かないといけないんだ? メリットがない」

『合法ロリと触れ合えるというメリットがある』

「合法ロリはロリではない。だから、メリットではない」

『そう言わずにさ、頼むって! またニートに戻る気か? おばさん悲しむぞ?』


 海の奴、ニート&母で脅してくるとは卑怯な奴め。だが、僕にその脅しは効かない。

 ニートになることも母を悲しませることも慣れている。

 優しすぎる母に罪悪感をまた抱くが、二次元ロリが癒してくれるので問題ない。

 クソニート生活の脱却に失敗して数日前の僕に戻るだけ。ただそれだけだ。


「別に構わない。というわけで、この仕事は止めておくよ」

『あ、ありが――えっ、う、うそぉ……』


 僕が脅しに屈せず、断ったものだから海の口から変な声が出る。

 海の頭の中では、僕が嫌がりながらも引き受けてくれる予定だったに違いない。


「嘘じゃない。僕は本気だ」

『ん……そうか。なら、次の園長が見つかるまでの間だけでもやってくれないか?』

「やらねぇーよ。それぐらいお前がやれ!」

『俺、年上好きだからさ、ロリはちょっと……』

「合法ロリだろ! ったく、年上好きならキャバクラとか経営しろよな」


 僕が吐き捨てるようにそう言うと、鼻を啜る音がした。

 続けて弱々しい声で『そ、そうだよな……ごめん』という言葉が僕の耳に入ってくる。

 もしかして海の奴、泣いてるのか?


『おばさんに春が引きこもってるって聞いて、これならロリコンの春が社会復帰するきっかけになると思って……迷惑だったよな』

「えっ?」


 海は僕のためにわざわざ合法ロリ保育園という意味不明な経営を始めてくれたのか。

 なのに、僕はそんな幼馴染の優しさを察しられず、適当な言葉や酷い言葉を並べて断り……何て最低なんだ。

 僕が引きこもってた三年間を、海は僕を社会復帰させるために使ってたというのに。

 それを無駄にしようとしてたなんて……恩知らずにもほどである。


『本当に悪かった。帰って――』

「さ、さっきの言葉を撤回させてくれ。やっぱり僕が園長になる。僕が合法ロリ保育園の園長になるよ」

『うぅ~、やっほーい! マジでサンキューな!』


 僕が了承の返事を耳にし、海はいつものテンションに。


 ――これ絶対に上手いこと言いくるめられたよな?


 それが頭を過ったと同時に、電話越しから女の声が聞こえて来た。


『カイっち! いつまで電話してるのぉ~よ! 早く続きしよ~』

『はいはい、待ってね。春、また何かあったら連絡してくれ。またな~』


 それを最後に電話は切れた。

 海は朝から何をしてるのやら。ある意味、海の仕事なのかもしれない。

 クソッ……派手に騙されたものだ。

 保育園じゃなて合法ロリ保育園。かなり卑怯な後出しである。騙される僕も僕だけど。


 海の「保育士資格がいらない」という怪しい言葉があったにも関わらず、クソニート脱却とロリと触れ合えることで頭がいっぱいになっており、騙されるとは思ってもなかった。

 僕がロリコンでニートという点を上手く使われてしまった結果だ。


「はぁ……」


 雲一つない空にため息をこぼす。

 正直、全くやる気が出ない。当然と言えば当然か。

 海の優しさを無駄にしたくない思いで、合法ロリ保育園の園長になっただけなのだから。

 まず合法ロリ保育園の園長って何だよっていうのが本音。どんな仕事をするのかさえも分からない。分かってるのは合法ロリ(大人の女性)がいるということだけ。

 考えても仕方ない。もう逃げられないのだから全てこの目で確かめるしかない。

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