第1章

第一話

 時の流れは早く部屋に引きこもって約三年の月日が経った。

 僕は二十七歳となり、未だに無職&引きこもり。毎日パソコンやテレビゲーム機のロリゲームで癒され、ロリキャラの出る深夜アニメをニヤニヤしながら見る日々を送っている。

 酷い生活だと自分でも自覚している。だが、抜け出そうにも抜け出せない。


 あの日から僕は変わった。

 唯一の夢だった小学校の先生になる夢を絶たれ、全てに対してやる気を無くし、息をするだけの生活をしている。世間一般で言うクソニート状態だ。

 母には塾講師や中学、高校の先生になるよう勧められたが、何かを目指すことが死ぬほど怖く、何も挑戦してない。一度、僕の子供に対する熱意、教師になるための努力を全否定されたのだ。二度もあのような経験はしたくない。


 みんな「一度全否定されただけで逃げるのか」「子供に対する愛はその程度だったのか」と思うかもしれないが、僕の愛が強かっただけに現実を受け入れた今でも未だに立ち直れずにいる。

 その結果たどり着いた場所が三次元の子供ではなく、二次元の子供。正確にはロリ。

 今の僕は二次元で充分満足している。二次元という名の楽園を見つけてしまったのだ。


『小学生無差別大量殺人事件から今年で十六年。遺族や関係者が本能寺ほんのうじ小学生に訪れ、黙禱を捧げ――』


 見てられない残酷なニュースを途中で変え、僕は自分で作った朝食を食べる。

 今日は四月十六日。季節は冬を越え春。全国で桜が開花し、お花見シーズンである。

 もちろん僕はお花見などしない。家を出るなんて御免だからな。

 外の人間が眩しすぎる。僕の目には猛毒だ。


「ごちそうさまっと。我ながら、このサンドイッチ美味かったな」


 朝食を片付け、毎日のルーティンがスタート。

 僕の朝は深夜アニメを視聴するところから始まる。昼までぶっ通しだ。


 ――ちぇんちぇい、ちゅき! ちぇんちぇい、ちゅき!


 年に一度あるかないかの電話が鳴る。僕は着信音まで妥協はしない。

 まずこのロリボイスじゃないと反応できないのだ。

 僕は電話相手の名前を確認し、「はぁ……」とため息をついて出る。


「もしもし」

『もしもーし! 生きてる? 死んでる?』

「生きてるわ」

『ホント久しぶりだなー。ロリコン』

「ああ、久しぶり。熟女好き」

『熟女じゃなくてお姉さん好きな!』

「一緒だろ」

『一緒じゃねーよ!』

「はいはい」


 この熟女好き、否、自称お姉さん好きの男の名は多田野ただのかい

 僕とは幼馴染で、昔から年上の女性を好んでいる。

 子供好きの僕とは真逆の好みの持ち主なのに、今まで仲良くやってきたのは奇跡だと言える。


『まぁ春が元気そうで良かったよ』

「元気に見えるか?」

『春って生きてる=元気みたいな感じじゃんか!』

「確かに」


 とても失礼なことを言われた気がするが、今の現状的に間違ってないので肯定してしまった。

 こんなラフに話してるが、海と電話なんて何年振りだろうか。

 海とは高校までは一緒。僕が教師を目指してたため大学で離れることになり、それからほとんど連絡を取ってなかった。


 SNSアプリ――LIMEで合コンや遊びの誘いを何度か受けた記憶はあるが、教師になるための勉強でいっぱいいっぱい。

 大学時代は一切遊んでない。それどころか会ってもいない。

 だから、この電話は八、九年振りだと思う。


『てかさ、やっと春も自分をロリコンって認めたんかよ。昔はロリコンじゃなくて子供が好きなだけだし! とか言ってたくせにな!』

「自分に正直になっただけだ。ロリ最高ぉ!」

『ロリ最高は正直になりすぎだろ。本当に変わったな、春』

「お前が変わらないだけだと思うぞ」


 昔の僕は海と差ほど変わらないテンションだった。

 世間一般で言うなら陽キャ。クラスではムードメーカー的な位置にいた。

 それが今では引きこもりニートだ。自分でも驚いてるし、本当に笑える。

 人生は何があるか分からないものだ。


『そう言えばさ、おばさんに聞いたよ。春が教師を諦めたこと』

「そ、そうだったのか」

『で、今はニートだってな』

「ふっ、笑えるだろ?」

『笑えるけど……三年も電話できなかったわ』


 電話越しからでも想像できる海の苦笑い。

 僕の現状を聞いたのは三年前。ずっと気を遣ってたに違いない。

 そしてやっと今日、何か重要な話があって電話してきた。そんなところだろう。


 もしかして結婚? その招待の電話か?

 全然あり得ない話ではない。

 僕たちはもう二十七歳。結婚していても何らおかしくない歳である。

 高校時代の友達がみんな結婚していても驚きはしない。招待状が来たことは一度もないけど。

 何にしろ海の結婚報告なら、友達である僕は嬉しい限りだ。

 結婚式に招待されれば、流石に外に出ようと思う。


「それなら、何で今さら電話してきたんだよ」

『ちょっとお願いがあってな』


 まさか結婚式のスピーチ……いやいや、それはキツい。

 想像しただけで吐き気がする。

 あんなキラキラした場でニートである僕がスピーチなんて出来たものじゃない。

 なんか色々失礼だ。


「お、お願いって何だ?」

『実は……春に――』


 やはりそうだよな。ど、どうしたものか……。

 こういう場合の正しい断り方なんて聞いたことない。

 考える時間を貰い、少し引き伸ばすのが妥当。いや、結局断るなら、色々と迷惑をかけるだけだ。ここは失礼かもしれないが、ハッキリと断らせてもらおう。


『――保育園の園長になってほしいんだ!』

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