プロローグ2

 合格を確信してる個人面接を終え、今日で一ヶ月が経つ。

 僕はこの一ヶ月間、次の集団面接の練習と実技試験の練習、模擬授業の準備を行っていた。

 残り三つの試験に合格すれば、僕も晴れて教師になれる。

 今のところ集団面接と実技試験は何の心配もない。だが、模擬授業だけはかなり不安だ。


 別に緊張や慣れてないという理由ではない。

 じゃあ何で不安なのか。

 答えは簡単、模擬授業には試験官のアタリハズレがあるからだ。

 僕が理想とする授業スタイルを行ったとしても、その時の試験官に刺さらない場合がある。

 そうなれば、自分の中で素晴らしい授業が出来たとしても意味がない。

 模擬授業に関しては一発合格を目指しつつ、数をこなす覚悟はしている。


 ――ピーンポーン!


 リビングでダラダラしていると家のチャイムが鳴った。

 個人面接の結果が来たに違いない。

 僕はパッと立ち上がって玄関へ行き、無表情の配達員から封筒を貰う。

 速足でリビングに戻り、ハサミで封筒を切って中を確認。中には紙が数枚入っていた。


 早速、一枚目の紙をゆっくり見ていく。

 筆記試験の発表と同じなら、一枚目の紙の中段に結果が書かれてるはずだ。

 合格してると分かっていても、この瞬間はひやひやする。何度経験しても慣れない。

 僕はゆっくり視線を下へ。受験番号や氏名などが書かれている場所を通過。

 いよいよ結果が書かれた場所に差し掛かる。


「ふぅ~」


 一度、目を閉じて深呼吸。跳ねる心臓を落ち着かせる。

 数秒後、覚悟を決め、僕は結果が書かれているであろう場所に視線を動かした。


 ――不合格


「は? ふ、ふ……不合格? なな、何で? 何でだよ!」


 結果が書かれた場所を何度も見直すが、不合格の文字は変わらない。

 夢かと思い、頬を激しく叩いたが痛い。


「ってことは……本当に不合格なのか?」


 正直、自分でも信じられない結果に頭が混乱中。

 あの時、面接官は質疑応答を一度でやめたんだぞ?

 それで受かってないとか意味が分からない。せめて不合格の理由を聞かせてほしい。

 これでは納得できない。紙を隅々まで読むと一枚目の紙の下に何か書かれていた。


『二枚目まで読んでください』


 僕は一枚目の紙を机に置き、二枚目の紙を息を呑んで読む。


『面接においてあなたの子供に対する熱意は感じられました』


 熱意が伝わってたなら、ますます不合格の意味が理解できない。

 やってる事と言ってる事が完全に矛盾している。ふざけているのか。

 少しイラつきを覚えながら先を読み進める。


『ですが、あなたの子供に対する熱意は大きく曲がっており、教師になる資格がないと判断させていただきました。面接がすぐに終わった理由としましても、一度の質疑応答で教師の資格がない判断したからです』


 教師になる資格がない?

 僕の子供に対する熱意は曲がってる?

 どういうことだ?


 子供たちへの熱い熱い『愛』。子供たちの『魅力』。子供たちと接する『未来』。

 その全てが間違ってると言ってるのか?

 あり得ない。間違ってるのは彼らであり、僕ではない。

 こんなのはふざけている。あの面接官が僕の熱意を変な方向に捉えたばかりに。


『加えて、今回の面接内容を受け、あなたが子供たちにとって危険な存在であるという判断を下し、ブラックリスト登録をさせていただきました』


 僕が子供たちに対して危険な存在? どこが? 何を聞いてそう思った?

 ブラックリストって何? そんなもの聞いたことないぞ?


『今後、あなたが教師になれることはありません。再度教員採用試験を受験した場合は強制的に不合格とさせていただきます』


 二枚目の紙はそれを最後に終わりを迎えた。


「僕が教師になれることはない? 強制的に不合格? な、何で……」


 手に持ってた紙をぐちゃぐちゃに投げ捨て、机を数回殴って頭を抱える。

 瞳からは大粒の涙が零れ落ち、子供のように声をあげて泣いた。

 泣いて泣いて泣き続けた。

 教師になれないと思うと、正常ではいられなかった。

 ここまで何年間も努力してきたのに、一つの面接でパーにされたのだ。

 しかも、子供にとって危険な存在と言われ、自分の子供に対する思いを全否定された。

 これほど悔しく、悲しく、辛いことはない。


「クソっ……、クソがぁ……」


 まだ教師の夢を諦めたくない。なのに、諦めろと言う現実がいる。

 諦めてしまったら僕には何も残らない。この夢を失った僕など僕ではない。

 涙が枯れ、声がガラガラになり始めた時、一枚の紙が手に当たる。


「ん? ごれば何だ……?」


 先ほどの封筒にまだ紙が入ってたのだろうか?

 目に溜まった涙を袖拭き、少しぼやけた視界で紙を見る。


『心療内科・精神科のご案内』

「ふざけやがってぇ!」


 僕は最後に床を殴りながら叫び、自室に向かった。

 以降、僕が部屋を出ることはトイレとお風呂、食事以外でなくなった。

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