第28話 潮時
オレ達は何のトラブルもなく過ごした。
いくら遠距離恋愛だと言ってもよくまあ…
気づけばもう15年以上だ。
お互いのパートナーがまったく関心を持たずに
暮らしていた事が功を奏してバレることもなく
この関係を続けて行くことができた。
ひろちゃん自身はどう思ってるんだろう?
彼女に聞くことはしなかったが
実はオレ自身、いつも不倫の背徳感に苛まれていた。
バレれば家庭崩壊の可能性もある。
オレのほうは自業自得、夫婦も形だけ
子どもももう独立している。
もしも?の時は開き直れるくらいだが
彼女のほうはどうだろう?
医者の奥様が長年の不倫。
当然患者さんや働いているスタッフにすれば
ショックだし大スキャンダルだな。
たまに心配になるが彼女はなにもそのへんは
動揺はないみたいだ。
主人とのトラブルもなくなった今。
彼女は平穏な生活の中オレとの逢瀬を重ねている。
いろいろあったけどこれでよかったのかな。
年に3~4回。静かにホテルの部屋で過ごす。
なにもなく、食事して帰る事も多い。
長年の思い出話に花が咲く
そんなデートが多くなった。
初めて会った駅の広場。
新幹線のホーム。
あのエレベーターで。
あの時の服装。
あの一言。
オレ、そんな事言ったかい?
オレが忘れてしまった事。
どうでもいいような事。
ひろちゃんのあの時の一言。
些細な事がお互いの心に刻まれていた。
オレはふと、過去を懐かしむ2人には
終わりが近づいているのかな?
そんな事を考えた。
子ども達が成人してそれぞれの人生を歩みだしたのだ。
うちは2人とも社会人。
彼女のほうは上が大学生だった。
「なんか複雑。嫁にでもいっちゃったら
私もいつかはおばあさんよね」
冗談まじりでそう言っていた。
たしかにそうだ、オレ達はもう若くない。
肉体的に若いとか老いたではなく
役割としてお爺さん、お婆さんが見えてきた。
いつか?かわいい孫が居て、陰で逢瀬を重ねる。
それってどうなんだろう?
オレはその日が来るまでにお別れだと思った。
オレ達にお別れはない。
嫌いになった時がお別れ。
婚約式の時、そう決めた。
だが、この逢瀬にも終わりが来る。
問題は終わらせるきっかけだった。
普通、ケンカして仲が悪くなって
ああ、あの時の言い争いが原因で…なんて。
そんな事はオレ達にはありえない。
オレはそのきっかけが子どもたちかな?
この年になると、仕事仲間から結婚の話や
孫ができたなど、ちょくちょく聞くようになる。
うちの息子はなにもないので想像はしないが
娘を持つ親は20歳超えれば結婚も頭に浮かぶらしい。
オレは子どもたちの結婚が別れのきっかけかな?
そう考えた。
おじいさん、おばあさんになって、不倫。
やはり、潮時だろう。
ひろちゃんにはまだ話はしていなかったが
オレの中で、幕引きのシナリオは大まかだが
書き終えてしまっていた。
そしてきっかけがあれば彼女に伝えよう。
そうですか?はいさようなら。なんて
パッと別れることなんかできないだろうし…
1年余りが過ぎた…
ひろちゃんがメールで重大発表をした。
娘さんが結婚を考えている。
卒業したら同級生と結婚したい。
と、同時に未知のウイルスが世界を席巻する。
オレは別れのシナリオに確定のハンコを押した。
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