第26話 号泣

オレは辛うじて泣くのを堪えた。


オレは力になれない自分を悔んだ。

自分が愛した人を守れない悲しさ。

どんな慰めも彼女の心の傷を癒す事はできないだろう。


でも、泣いてる場合じゃない。

説得しなければ、彼女は本気だ。


真面目で我慢強く、自分で何とかしようとする。

責任転嫁もしないし、誰にも相談しない。

そんな彼女が限界を越えたら解決方法は死となる。

些細な事が引き金になって、あっさり人は逝くものだ。


主人のレイプまがいの行為で自死なんて。

そんな幕引きなんて見過ごすことはできない。


でもどうすればいいんだ?

オレは暗闇の中考えた。

とにかくカーテンを開けよう。


「ひろちゃん、開けていい?眩しいけど」


「うん、顔ボロボロだし直そう~」


ひろちゃんはお化粧直しで洗面へ。


ドレープカーテンを開ける。

このどん底の話をリセットするように

西日が部屋に差し込む。


オレに全てを話した事で気が楽になったのか

お化粧直しが終わった彼女はいつもの様子に戻っていた。



「ごめんねとしさん」


「なに言ってんだい?話してくれてありがとう」


「としさんに会えて毎日が幸せだった」


「オレも、ひろちゃんに愛されて幸せだよ」


「いつも思うの、もっと早く出会いたかったって。

 せめて大学とかで知り合いたかったな」


「オレ、バカだし、ひろちゃんと同じ大学は無理だよ」


笑いながらそう言いつつ、ふと思った。

そうだ!お互いの過去は変えられないけど

未来はまだ決まってない。これからなんだ…


「ねえ?ひろちゃん、オレ達、来世で結婚しよう。

 小中高、大学、どこかで巡り会ってさ」


思わずうれしくなった。

そして、咄嗟にアイデアが浮かんだ!


慌てて冷蔵庫からミネラルを出しグラスに注ぐ。


ひろちゃんの手をとり2人で窓際に立った。


不思議そうにする彼女にオレは言った。


「ここで婚約式をやろう」


「え?」


「48Fだし、少しは神様の居る天には近いだろう」


「やり方とかわかんないけどさ

 2人で神様に誓おう。結婚するって」


ひろちゃんの手を取りグラス片手に

窓の方を向き、空を見上げて言った。


「えっと…誓いの言葉だな…

 まず2人は別れない。絶対に別れません」


「2人が別れる時はお互いが嫌いになった時

 広瀬さん?よろしいですか?」


はっ、ハイ。

と言う感じでコクっと頷いた。


「私、(本名)は、ここに居る広瀬愛実と

 来世において必ず結婚します。

 絶対に一緒になることをここに近います」


そういいながらグラスの水を少し飲む。

やっとやっている事が理解できたのか

彼女もグラスに口をつけた。


オレはそのグラスをテーブルに置くと

両手を取り言った。


「オレと結婚してください、予約します」


「いいの?私でいいの?」


また泣き声になった。


「私がいいの!」


オレは笑いながら薄い背中を抱きしめた。


2人の婚約式が終わった。




彼女が泣き止んで2度目のメイク直しが終わる頃

街は夕焼けに染まっていた。


帰る時間だ。


本当の最後がやってきた。



「としさんごめんね… バカな事言って」


「なに言ってんだい?」


「また困ったら急に電話していい?」


「また?」


「うん… また… これからも」



「え?」



「私、これからも、としさんと生きていく」


「わーん」




今度はオレが号泣した。








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