第23話 違和感

オレはあまり携帯を見ない。

当時まだガラケーだったのと

仕事の関係でPCがメインだったから

電話が鳴れば取る。くらいだった。


ある日、なにげに見ると

ひろちゃんからの着信。

時間は深夜の1時台だった。


たしか翌日の朝気づいたと思う。

急に電話はできない。

あわててメールで尋ねた。


返信は


「ごめんなさい、何でもないの気にしないでね」


オレは嫌な予感がした。

彼女は元々我慢強く、内気な性格だ。

言いたい事や本音は吐かない。

だからこそ、このメール何かあるな?と感じた。


でも何度聞いても何にもないという。

ちょうどその時期、金銭的にもキツかったが

オレは無理して偽出張を作り会いに行こうとした。


オレからの誘いに対して答えはNO。

時間の都合がつかなくて会えないとの事。


ますますおかしい…

彼女は会おうか?となったら時間をやりくりして

オレに会いに来てくれていた。

ダメならダメで日にちの変更を提案してきた。


心配だったが、聞きだすのは無理だろう。

そのままにして、またメールのやり取りが続く。

当たり障りのない内容、たまに愚痴、子どもの事。

いろんな話を聞く日が続く。

でもオレはあの深夜の電話の事が常に頭にあった。


それからまた何か月かして

ようやく会うという約束ができた。

8カ月ぶりくらいだったと思う。


オレはできればあの夜、何があったのか?

聞きだしたかった。



いつものホテル。1Fで彼女を待つ。

約半年ぶりだったが、再会は自然だった。


「重かっただろ?けっこう買ったのかい?」


「お寿司が安かったからちょっと多めに買ったかも」


腕にかけたデパートの袋をオレに渡す。

彼女が地下でお昼ご飯を買ってきたのだ。


エレベーターの中で尋ねた。


「髪切ったんだ?」


「分かった?変じゃない?」


分かるもなにも、セミロングがショートに。

20㎝は切っただろう。

メールでそんな話は1度もなかったが…


19Fに着いた。ここはフロントだが

いつもどおり2人分でチェックしてるオレは

なんのお咎めも無し。

部屋までのエレベーターに乗り換える。


いつもエレベーターの中では

あの出来事を思い出し、わざと眩暈のフリをして

オレにもたれかかっていた。

今回は何もなく、静かにたたずんでいる。


やっぱり何かあったんだな…

髪を切るって失恋とかの時だって言うもんな。


部屋に着いた。今日は48Fだった。

食事を終え、デザートのシュークリームを食べる。

楽しい会話は続く。いつも通りだが何かが違う。

オレは最初から疑ってかかっているから

何気ない会話からアンテナを研ぎ澄ましていた。


ここで前回のグラスの事言ったらどうなるだろう?


そんな事をふと考えた瞬間…


「としさん…」


「ん?」


「あの…ちょっと話があってね…」


来た!と思った。


「私の都合で」


「もう会えなくなるかも…」


おかしい。


直感でそう感じた。


別れを切り出した事がおかしいのではない。

それを伝えるひろちゃんの様子だ。

まるで独り言のようにオレに伝えている。


別れの理由はどうでもいい。

オレが知りたかったのは

別れようと思ったきっかけ。



きっとあの夜だ。


オレは確信を持った。






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