第22話 無力
あれからメールが増えた。
彼女が辛い思いをしている報告は読んで辛かった。
それと同時に、自分が愛した女を妻としながら
嫌がらせをして喜ぶ主人に怒りと恨みを抱いた。
でも、きっと主人も結婚当初はうれしかったはずだ。
段々小さな不満やイライラが蓄積して爆発したんだろうな。
でもコップ割ったり、水や醤油を床にこぼすなんて
常人では考えられない嫌がらせだ。
暴力は絶対ダメだが、まだストレートで分かる気がする。
それに反してこの主人のするのは陰湿な攻撃。
うちの奴だったら、絶対親に告げ口して、言いふらすだろう。
ひろちゃんがそこまで辛抱するのはなんでだろう?
医者の家。金はある。そりゃ我慢するよな。
直接の暴力じゃないんだし。シカトして
コップの欠片掃除して濡れた床は拭けばいいんだし…
そんな事を思う反面、人ってそんな打算で生きてるのか?
やはり夫婦愛もあるだろうし、子どももかわいいだろう?
きっとひろちゃんも主人と仲良く愛ある生活がしたいはず。
それが叶わないからオレの元に逃げているんだろう。
オレがそうだ。ATMとヘルパーさんと言いながら
それで割り切って満足な生活かと言われればNOだ。
やはり愛されてる実感が欲しいし嫁を愛したいと思う。
その気持ちはどこかに残っていたんだ。
好きで結婚して、そのうちお互いの間に溝ができ
そのうち溝が川になり、そこになんとか橋を渡すのだが
その橋が落ちたら終わり。
仲良くしてる夫婦を見ると羨ましく思う。
妻を愛し、妻に愛され、そしていくつになっても
若い頃の気持ちで愛し合う。
そんなのオレの中でのありえない妄想なのか?
こういう考え方自体が幼稚な幻想なのか?
そんな風にも考える。
でもうちももう元には戻ることはない。
触れ合うどころか、家の中ですれ違うとき
お互いが触らないように避けて通りすぎる。
寝室も別、休日の行動も別。会話はあるが
それは雇用関係で必要な連絡事項という感じだ。
まだオレは嫁に対して意地悪や暴力はふるってない。
当たり前のことだが、それだけは絶対にやらない。
自分から結婚を乞う。その責任があると思ってる。
だから不満があっても嫁にぶつけることはしなかったのだが…
考えれば考えるほどひろちゃんの主人に腹が立つ。
彼女からのメールはあいかわらず寂しさに溢れている。
会いたいの文字を読むたびに声が聞こえるような錯覚。
でもオレの仕事の関係で彼女に会えるのは年に4~5回。
今はこうしてメールを読んで共感するしかできない。
直接主人に会って話すことなど絶対にない。
これでオレは本当に役にたってるんだろうか?
どうすればいいんだろう?
オレの存在ってなんなんだろう?
なぐさめのメールなんか何にもならない。
ひろちゃんを守るなんてやはり無理なのか?
そんな事を考えながら何か月も経った。
きっと彼女は不満のすべてをオレに話ししていない。
オレはメールの内容が当たり障りないときほど
なにか起こってないだろうか?心配になった。
その心配は程なくして現実となる。
ついに彼女の生活が限界を迎えた。
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