第20話 卑怯な女

彼女は医者の奥さん

身長170㎝セミロングの髪。

33歳 5歳と3歳の子どもがいる。

分かっているのはそれだけ。


その生活がどんな様子なのか?

また、なぜ?出会い系サイトなんかで

うろうろしてたのか?

それははっきりと判っていない。


オレがそうだから、彼女もだと

決めつける事はできないが

ただ日常生活で不満があって

逃げているのは確かだと思う。


日常生活の中で耐えられない事、嫌な事。

何なのだろう?このホテルでのグラスの件から

彼女はやっと今まで秘めていた苦悩を語る。


主人は医者だ。

医者が全てそうだと決めつけはできないが

主人は完璧主義で向上心が高いという。


いっぽう彼女は普通の人。

悪く言えば凡人なのだが

そこが主人の癪に障る部分らしい。


「私ね、ほんとダメダメなの…」


諦めたようにボソっと呟いた。


お料理もさほど上手くない

近所付き合いも内気な性格から

なかなか積極的にいけない。

日常生活でもごくごく普通なんだという。


それのどこがダメなのか?わからないが

主人からすればもっとデキる妻であれ。

そういう風に望んでいるらしい。


デキるってなんだ?

オレは具体的に浮かばなかった。


勉強もできて、教養があって

高尚な趣味を持つ医者の奥様。

家事も完璧にこなす素晴らしい妻。

それが主人の理想らしい。


ひろちゃんはマンガも好きだし

バラエティもドラマも大好きだという。

ふつうの30代の女性だ。


それが主人には気に入らない。

もっと学びのあるものを見ろという。

NH〇を見ていたらご機嫌だそうだ。


彼女のする事は普通なのだが

主人にすればそのすべてが幼稚で

程度が低いのだという。

医者の妻として失格だというのだ。


じゃあなんで結婚したんだ?と

オレにすれば文句を言いたいくらいなのだが

彼女は自分がダメだと思うらしい。


そのプレッシャーからメニエールを発症。

彼女は小さなミスを繰り返す。


その度に主人が罵る。

最初は怒鳴るだけだったのだが

そのうち物を床に叩きつける。ぶつける。

コップの水などをわざと部屋や台所でぶちまける。


そしてグラスを投げつけて割り、怒鳴る。

彼女は恐怖からフリーズしてしまう。


子どもの居る時、両親の居る時はやらない。

2人だけの時だけ、普段の不満をコップの水に

醤油に、ソースにぶつける。


でもちゃんと考えているのか?

わざとだぼだぼとこぼすのはフローリングの上。

コップなどもちゃんと誰も居ない場所に投げるらしい。


怒鳴るのも2人だけ。

なにかにつけ2人だけの時。

激昂するではなく冷静に睨みながら

コップの水をぶちまけ、割る。


誰にも言えない。

言っても信じてもらえない。

密室のいじめが続く。

確信犯なのだ。


「よく辛抱してるよな」


「でもね、としさん…」


何とも言えない表情だった。


「経済的に守られてるから我慢してるの

 考えたら最低だよね。お金目当てなんて…」


「ちゃんと生活できるから居るんだ、私。

 嫌な主人でもいう事聞くの。生活があるもんね」


「でも思わない?卑怯な女だな?って…」


彼女はその美しい手を見つめていた。


どこか?欠片で傷つけたのか

少しだけ指先に血がにじんでいた。

 











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