第17話 もたつく2人
久しぶりだなぁ…
嫁と結婚前に来たから…
トイレから戻ったオレは
部屋をうろうろしながら
そんな事を考えていた。
彼女はバツが悪そうにソファに座っている。
中年の男女がラブホで沈黙。
トイレも行けてスッキリなのに
なぜか重苦しい空間だった。
「ひろちゃん、慌てて飛び込んでごめん」
「ううん、いけてよかったから」
オレは謝りながらも彼女が帰る時間を計算していた。
ここから駅まで30分はみておかないと。
お迎え時間を考えたら30分くらいは居られるかな?
お風呂・ベッド・帰り支度・・・無理だな。
なんの計算だよ?でもラブホだ当然の想像じゃないか?
でも誘ったら「時間が…」で断わられるだろうなぁ…
何もなくトイレだけで出ていくカップル。
トイレだけで4500円。世界一高いトイレだよ。
「ねえ、としさん?」
「ん?」
「メールね、隠さず書いたけど…」
急に申し訳なさそうに切り出した。
彼女はあのメールが愚痴のようで反省してるという。
結婚は自分も承諾したのだ。いわば自業自得。
生活もできて子どもも居るのに境遇を嘆いている。
嫌な話を聞かせた。としさんに嫌われるかも?
心配でしかたがないという。
「そんな事言ったら、オレもそうじゃん?
嫁にもらったんだから。オレこそ自業自得だよ」
「嫌いになってない?」
「嫌なら会ってないさ、こうして一緒に居ないよ。
って?誰かのセリフだったよな」
「もう~」
そのかわいい声がきっかけを与えた。
オレは隣に座った。
「誰でもボタンの掛け違いはあるさ。
メールで書いたけど、オレも仲悪いしさ」
「私ととしさん、似てるなぁって思っちゃった」
「でもひろちゃんとこうして繋がることで
オレ、ほんと人生バラ色なんだよね。
だから嫌うもなにも、君がいなきゃオレダメになるよ」
そう言って手を取った。
「私、そんな…」
「ほんとだよ、オレひろちゃんの事ばっかり
考えて暮らしてるもん」
「としさんの役に立てるならうれしいな」
「君はオレの心の支えだよ、
ありがとうほんと感謝だよ」
「私ね、そんないい事ないよ。役立たずだもん」
その瞬間、涙がこぼれた。
役立たず… そう言われてるのかな?
酷い話だ。オレは嫁と終わってるけど
ヘルパーさんとしては感謝している。
「泣いちゃだめだよ、これからお迎えだろ?」
「としさんが泣かすからよ」
「おいおい!オレのせいかよ!」
泣き笑いでバッグからハンカチを出す。
泣き止むのを待つ間、時間を確認。
そろそろ帰らなきゃ。
笑顔が戻った。と同時に帰る支度。
ドレッサーで泣き顔の確認。
「目が腫れても、元々ブスだし大丈夫」
「オレの彼女の悪口止めてくれるかな?」
「もう~」
恥ずかしそうにオレを叩くふりをする。
その手を取って言った。
「抱きしめていいかい?」
返事は無かった。
なにも言わずにしがみつく。
また花の香りがした。
「愛してるよ」
うなずくと同時に目を閉じた。
その夜のメール。
生まれて初めての背伸びに
まだドキドキが止まりません。
いつまでもあなたの傍に居たい。
私を離さないでくださいね。
としさん愛しています。
メールでは言うんだけど
実際はなかなかなぁ…
キスまで1年かかった。
それだけ大切な人なんだ。
改めて自分に言い聞かせた。
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