第16話 不測の事態
コンビニも喫茶店もパチンコ屋もない。
車は進んでいるんだが選挙カー並みの速さ。
あれから何も言わないが、だいじょうぶかな?
たしかコーヒーって利尿作用があったな。
さっきの喫茶店かな?
そんな事を考えてるうちにオレもヤバくなってきた。
なにげない会話で彼女の切迫感はわからないが
ガマンしているのは確かだろう。
自分からは言えないだろうな…
オレは軽く、さりげなく聞いてみた。
「ひろちゃんトイレ大丈夫?」
「ん…ちょっと行きたいかな」
「実はオレもなんだよ~どうしよう?」
「え~?仲良し~」
彼女は笑いながらオレを見た。
1車線の対面道路、左右は田畑と工場。
街の中心部から離れていくからしかたない。
オレはカーナビで店はないか?探す。
スマホの無い時代だ。知らない土地は分からない。
少しいけば交差点だな、この国道は外れたい。
そこを左へ行けば大きな団地。公園もある。
公園なら公衆トイレがあるはずだ。
団地だ。何棟もの建物を横目に公園に。
公園のトイレは小さなものだった。
男女の入口が分けられてない。
入ればほとんど誰も使っていないような
砂埃だらけの小便器とドアが1つ。
ドアには男女が並んだプレート。
え?男女兼用のトイレかよ?これはダメだ。
ドア1枚隔てて2人が用を足すことになる。
「ひろちゃん先に」
彼女に先にトイレに行かせて
オレは外で見張りをする事に決めた。
トイレがあってよかったなぁ…
オレもほんとにヤバい。
「!?」
なんだなんだ?
彼女が血相変えて出てきた。
「ちょっと」
困ったような苦笑いのような
なんとも言えない顔だった。
オレはあわてて中に入りドアを開けた。
ウワっ!
これは無理だ。
和式便器はなにかが詰まっているのか?流れていない。
茶褐色の水とトイレットペーパーが浮いている。
オレは彼女の手を取り、行こう!と促した。
「としさんは?え?いいの?」
「こんなとこでダメだよ!」
オレだけがするわけにはいかない。
焦りから怒ったようにエンジンをかけた。
また道路へ出る。
戻ってもいいのだが、渋滞があると怖いので
反対方向に車を走らせた。
おかしなものでトイレを見てしまうと
精神的に限界が。
オレがヤバい状況となった。
一本道、赤信号で停まる。
遠くに何件か?お店?が見える。
看板、ネオンサインのようなものがある。
「あそこ、なんかあるよ」
「あ、ほんとだ」
「なんでもいいからあの店にしよ。
オレもヤバい、入るからね!」
彼女も笑いながらうなずく。
きっと限界なんだ。
青だ。
さ、とにかくこの店で。
少しスピードを出して急ぐ。
が…
「……」
店の名前が読める。50mほど手前。
ハザードを付けて路肩に停車する。
ラブホだ…
「あの…知らなかったんだ、ほんと。
まさか?普通の店だと…」
なんで言い訳してんだろ?と思いつつ謝る。
「うん」
戸惑い感満載の返事。
狙い通りと思われてないだろうな?
オレは焦ってしどろもどろになった。
「としさんのせいじゃないわよ」
笑いで言ってはいるが
明らかに困惑の色が見える。
でももう限界も近かったし
この先トイレの所まですぐいけるのか
という確証もなかった。
「ごめん、入るよ」
オレは彼女に返事も聞かず
ハザードを右ウインカーに変えた。
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