第14話 君の名は
夜、ななさんからメールが来ていた。
今日のデートのお礼。
エレベーターでのお詫び
オレの逆ギレへの感謝。
守られているという実感。
出会ってよかったという思い。
そして
ベンチで話せなかった事…
信じてもらえないかもしれないが
話せる範囲でお伝えしたい。
としさんには私の事を聞いてほしい。
そんな説明から始まる長文。
きっと彼女が誰にも語れない
心に秘めていた話だった。
子どもの時からおとなしく引っ込み思案。
本と絵が好きな子だった。
成績は中くらい、クラスではモブだった。
高校・大学は女子高で恋愛とは縁もなく
男との付き合いもなかったという。
父親が医療機器メーカーの管理職だった縁から
大学を卒業し、薬剤メーカーに就職。
その後1年経たずして父親がお見合いの話をもってきた。
知り合いからの勧めで断れない。いい話だという。
相手は父の取引先に勤める30代の勤務医。
まだ23歳。あまり考えずに付き合いが始まる。
それがなんと彼女にとって初めての交際
マンガやドラマの世界で結婚というものに憧れ
医者との出会いというシチュエーションにときめいた。
高級車に乗せられデート。TVドラマでありそうな
ホテルでディナー、初体験づくめのデートに
これが大人の恋愛なんだと舞い上がった。
そして見合いから1年経たぬうちに結婚。
ということは?
彼女ははっきりと明記はしなかったが
初めての男=旦那ということになるのか?
旦那、医者なんだ…
医者の奥様。何不自由ないだろう?
勤務医でも年収1本以上はあるはずだ。
親も医者かな?将来の院長先生かもしれない。
それに比べりゃオレはしがないサラリーマン。
平均値の40歳だ。なぜオレを選んだんだ?
どうして出会い系サイトなんか見てたんだ?
?マークのまま読み続ける。
新婚当初はよかったが、子どもができてから
主人は仕事と学会で忙しく家を空ける事もしばしば。
育児なんかまったく顧みない。
そのうえ、彼女には風当たりが強くなっていた。
いつの間にか家政婦さんのような扱いに。
高圧的な物言いは経済力と社会的地位からか?
なにかにつけて命令、誰のおかげで食えてるんだ?
モラハラ夫に怯えながらの生活。
ストレスからメニエールを発症。
「どこか遠くの町医者へ行けよ。
内科医のオレに当てつけかよ?
この生活でストレス?何様だ?」
この人、私と結婚したかったの?
家政婦を求めての結婚だったの?
正直父親を恨んだ事もあったが
この結婚は父の会社のためでもあった。
それを知った彼女は幸せ芝居を続けた。
世間知らずだった。気づいた時には
育児疲れと主人に気を遣う日々。
言いようのない寂しさとイライラ。
ネットの世界を彷徨うようになった。
サイトで結婚の悩みをみているうちに
既婚者の出会い、不倫サイトを見た。
婚外カップルのブログも気になった。
そんな中、あのサイトでオレと出会う。
こんな事許されないとわかってるけど
としさんに出遭って、毎日幸せ。
こんな私ですがこれからも仲良くしてください。
「なな」改め、
ちなみに「ひろせ」は旧姓です。
としさんにはこっちで呼ばれたい(笑)
と書いてあった。
結婚に憧れての結婚。
旧姓で呼ばれたいなんて。
主人…
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