第13話 守ってあげたい

「あ~振り向いた」


顔を見たら恥ずかしくて話せないというのだ。


「もう~としさん、むこう向いて」


かわいいなぁと、にやけてしまう。


「もう~笑うなら話さない」


「ごめんごめん、あまりにかわいくて

 笑うというより笑みが零れてしまうんだ」


オレが笑ったのが嫌だったのか

ななさんは、またメールで説明すると言った。


「チャットでね、話したことあったでしょ?

 主人と仲良くないって…またメールで」


少しの風で聞き取りにくくなるほどトーンが落ちた。

一旦は話そうとしたがやはり言いにくいのだろう。

オレは聞きたかったが無理に聞くのはやめた。


主人の話でこのまま気まずくなるかもしれない。

オレは何の脈絡もなく話題を変えた。


「それはそうと、次のデートどこへいく?」


「そうね~どうしよう?

 としさんは行きたい所あるの?」


主人の話から離れて次のデートの相談をする。

相談だけで行ったような気分になる。

アッという間に時間が過ぎる。


時間は3時すぎ。

4時すぎには保育園のお迎え時間がある。

彼女も帰る算段をしなければならない。


「じゃあ、ななさんそろそろ…」


「まだ大丈夫よ」


「いや、余裕をもって帰ろう。

 駅までゆっくり歩けばいいじゃん」


「やさしいね」


そう言いつつ照れるのがかわいい。


ナチュラルメークで地味

一見冷たい印象を抱かせるが

話せば明るい女の子という感じがする。


薄幸のイメージがつきまとうのは

主人のせいなんじゃないかな?

そんな想像をしてしまう。



さ、行こうか?

ベンチを立った瞬間。

目の前を自転車が通り抜けた。


オレの左で立とうとしていた

彼女はとっさにオレの左腕を掴んだ。

道幅は2mほどあったんだが

オレが死角となって彼女の目には

急に飛び込んできたように見えたのだろう。


さっきのエレベーターの感触がよみがえる。


「だいじょうぶ?」


「うん」


ななさんは静かにオレの腕から手を放した。

オレは勇気を出して言った。


「手つないでいい?」


彼女はコクっと頷くと、その美しい手をさしだした。

まるで花嫁をエスコートするような気分だ。

オレの手に導かれて彼女は立ち上がる。


「隠さず言うとさ」


「うん」


「手つなぎたかった。でも怖くて言えなかった」


「言ってくれたらよかったのに…」


照れて彼女はそこから黙ってしまった。


オレ達はぎくしゃく歩いた。


駅に着く。


人も多い。その手は自然と離れた。


「じゃあ、また!」


「としさん…」


「ん?」


「守ってもらって…うれしかった」


「え?うん」


「守ってもらって」なんて。

赤い顔でモジモジしてる姿に

オレまで照れてしまった。


「じゃまた!」


ごまかすように声を張る。

彼女は改札に消える。

オレは駅を離れ少し歩く。

大丈夫とは思うが駅で別れて

時間差で電車に乗ることにする。


「守ってもらって」か…


あれで守った事になったかな?


主人と仲が良くない…


短い言葉に隠されている

彼女の苦悩を想像する。


遊歩道まで戻る。

独りで歩くのが辛いと感じた。


命に代えても守るよ。

いや、何言ってんだ?

そんな事できっこない。

でも、そう返事したかった。



何かオレができることはあるはず。


辛い生活なのかな?


守ってあげたい…

ユーミンじゃないけど

本当にそう思った。








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