第8話 社交辞令かマジなのか?
初デートから3か月後、オレ達は再会した。
「オレ、今度〇〇県で出張があるんだ。
ななさんとこで途中下車すれば会えるけど」
「途中下車できるの?」
「改札から出ずにホームに居ればいいんだよ
新幹線何本か見送ったら時間とれるし」
「としさんが面倒じゃなかったら会いたいな」
「オレ行くよ」
「いいの?うれしい、少しでも会いたいね」
チャットルームでの相談は即決だった。
約束の日は3月の中旬、暖かい日だった。
駅に着いた。
ホームで電話する。
「今降りたよ、うん、東の改札、中で待ってるから」
「うん、入るね」
もう服装を説明しあう必要はない。
オレは改札手前でドキドキしながら電話を閉じた。
改札の向こう側、人の流れを必死で見つめる。
入場券で入ってくるはずだ。
来た。
今日は濃いレンガ色のセーター
やはりパンツだ。長身だし似合うな。
「無理言ってごめんね、だいじょうぶ?」
「うん、私こそおねだりしたみたいで」
第一声は挨拶じゃなかった。
会話も話し言葉になったのがうれしかった。
さ、時間もない。
空いてるベンチに座る。
新幹線が入る度に2人の会話を妨げられる。
お互いの声を聞き取るために少し身体が近づく。
その度に花の香りがした。
身体がくっつきそうになって思った。
これって恋人同士だよね?
これだけ近づいてるんだから。
でもななさんはどう思ってるんだろう?
オレの事ほんとに好きなのかな?
手とか握ったら嫌がられるかな?
そんな事を考えながら時間が過ぎる。
20分くらい経っただろうか?
あまり到着が遅れてもマズい。
次の新幹線に乗ると告げる。
「あ、としさん」
そういうと彼女は傍らに置いたバッグに
顔を突っ込むようにした。
また飴かな?
そう思ったオレに彼女は言った。
「これ、遅くなったけど、Vt Day の」
照れくさそうに小さな紙袋をつまんで
オレが手で受けるのを待っている。
「あ!そうか先月だった。Vt Day だ。
まさかチョコもらえるなんて
どうしよ、オレ何も用意してないよ」
「いいの、気にしないで」
そう言いながらオレの手に水色の紙袋。
小さな雪だるまが雪のように舞っている。
その絵が前もって買っていたことを想像させた。
中を見ようとしたらホッチキスで止めてある。
「あ、それ、中で」
あわてて阻止された。
新幹線の中で開けろというのだ。
恥ずかしいのかな?
そう思いつつ頷く。
新幹線が来た。
「じゃあ、着いたらメールするよ」
「うん」
ドアの所で立ったままお別れ。
照れくさいが軽く手を振る。
彼女は小さく胸の辺りで手を振った。
そのしぐさが皇室の女性に見えた。
よけいに手の届かない人に感じた。
ドアが閉まり2度目のデートが終わる。
愛しい人は左側に消えていく。
席に着く。
あわてて紙袋を開けた。
中には白い小箱。ブルーのリボン。
4つ折りの紙が差し込んであった。
優しい文字が目に飛び込んだ。
としさん
いつも傍に居てくれてありがとう
あなたが好きです
ななより
社交辞令かもしれないな。
オレは彼女がマジでない場合の
保険を掛けていた。
「義理だよ、義理チョコだ」
そう言っておきながら
オレは出張中、何度も何度も
この手紙を読み返していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます