第7話 18年前の飴

駅中の喫茶店へ行った。

店内は広場の雑踏から

信じられないほど空いていた。


どこに座ってもよさそうなものだが


「お2人様ですか?」


ウェイトレスに聞かれた。

頷くと、店の奥に案内される。

隅っこの小さな2人かけのテーブルだった。


注文はオレがコーヒー。

彼女はミルクティだった。


注文が終わると、ななさんはしきりに


「だいじょうぶですか?」


と尋ねた。


「チャットルームで文字の会話と今の自分

 想像と実物、夢壊したりしてませんか?」


「あまりの美しさに驚いた

 宗教の勧誘じゃないか?と心配しましたよ」


彼女はびっくりした顔で聞き返した。


「こんなに地味で暗いのに?」


もっと華やかでスタイルが良くて

セクシーなのが理想だった。

峰不二子のようになりたかったと

真顔で言うのでオレは爆笑した。


竹久夢二の絵から飛び出したような人が

峰不二子だという。


「じゃあ、ななさんって呼ぶのやめて

 ふじこちゃ~んにしましょうか?」


「じゃあ,としさんもルパンに改名します?」


笑いながら返してくれる。


文字の会話とはいえ、延べにして

何十時間と話をした2人。

初対面なのにお互いが仲良し。

すぐに打ち解け話は弾んだ。


オレは彼女に安心をしてもらいたかった。

これからの付き合いに不安を抱かないように。

そのためにもこれからどうしようか。

お互いの本名や個人的な事をどうしよう?

そんな相談をした。


彼女は「としさん&ななちゃん」でいいという。

今の現状を自分は喜んで生活していない。

あなたと会う間は現実を忘れて話がしたい。

としさんが許してくれるなら当分このままで。


オレはもちろんそれで構わない。

必要以上の詮索はしない。そのほうがいい。


この話の流れからオレ達は2人のルールを作った。


お互いの家庭、生活を最優先に無理はしない。

もし体調不良など急な事態が起こったらすぐ連絡する。

お互いケンカになったら話し合いで解決する。


たしか?この3つだった。

付き合いが深まってからは

もう1つ追加されたが・・・


1時間がアッという間だった。

もっと話をしていたかったが

始めに決めた約束。守ろうと思った。


時計を見てななさんにお別れを告げる。

彼女は悲しげな顔をした。(ように見えた)


店を出る。


「じゃ、ここで。またルームで」


彼女はアッという顔をして

あわててバッグを覗き込んだ。


「あの、子どもみたいだけど」


申し訳なさそうに何かを出した。


小さな袋に1個づつ入った飴が

5つほど恥ずかしそうに手の平に。

白い手に赤や緑のコントラストがきれいだ。


「オレなにも持ってないですよ」


「私も何も用意してなかったから

 なにか無いかと思ってごめんなさいね」


「いやいや、オレうれしいですよ。

 大事にしよう!この飴」


「ただの飴ですよ」


「誰に貰ったか?で価値が違うから」


彼女は意味を察したのか

恥ずかしそうに頷いた。


「じゃ、また!」


飴をコートのポケットにねじ込んで別れた。


出張先で何個か食べた。

でも1つだけ残しておいた。

家に帰って自分の部屋に仕舞って置いた。


ただの飴にすぎないがオレにとっては

彼女に初めてもらった大切なものだ。


今もあの飴は机の中で眠っている。


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