第6話 待ち合わせはマンホールの上で
オレ達がネットで会ったのは6月だった。
そして実際に会ったのは12月だった。
もし?実際に会ったら?
何度も出た話題だった。
でも彼女自身、その気はあるけど
実際会うのは・・・という感じだった。
「実際に会って幻滅されたら嫌だから」
これが断りの理由だった。
オレは無理強いはしなかった。
誘う事でこの関係が壊れるのが怖かったから。
でも、そんな断り文句を聞いたあとでも
もし会ったらどうだろう?
デートするならどこへ行く?
そんな話題で盛り上がることもあった。
そのうち、彼女が会いたくない理由がわかる。
会いたくないのは自分が大きくてかわいくないから。
高身長がコンプレックスだという。
オレは彼女がショートヘヤーで小柄だと
勝手に想像していたから以外だった。
尋ねてみるとセミロングに170cmの長身だという。
自称169㎝だが、今は計るのも嫌だと言っていた。
オレは180㎝だから大丈夫だよ。と伝えると彼女は驚いた。
170㎝くらいでメガネだと想像していたからだそうだ。
あとで知ったのだがそのイメージは彼女の旦那からだった。
「2人並んだらちょうど釣り合うと思うけど?」
オレの一言で会うことが決まった。
次の出張の時、ななさんの街へいく。
時間はあまりない。お茶して1時間くらいかな?
そんな取り決めをした。
彼女の地元から少し離れた駅で会おうと決めた。
JRの駅だ。駅前に大きな円形広場がある。
雑踏の中、そのほうが人目につかない。
でもお互いの顔が分からない。
お互い電話番号を交換して当日話しつつ
目印を決めて待ち合わせをすることに決めた。
「ななさんですか?」
「はい、としさんですか?」
初めての電話。心なしか声が震えた気がした。
こんなに緊張するとは思わなかった。
とりあえず今日のスーツとネクタイ、コートを伝える。
彼女も今日の服装を教えてくれた。
どこで会おうか?考えて目の前の広場を見る。
よく見ると、広場に中心を表す直径3mほどの
マンホールのような模様がある。
「広場の真ん中、大きなマンホールみたいなの
あるんだけど?今居る所から見えますか?」
「ごめんなさい、広場から少し離れた所にいます。
とにかく広場の真ん中へ向かいます。
あ、としさん、見て逃げないでくださいね?」
「こちらこそ、ななさん嫌でも辛抱してくださいよ!」
笑いながら広場を見つめる。
オレは少し遅れて中心を目指すことにした。
広場の真ん中で立ち止まってる人がきっと彼女だ。
ドキドキしながらゆっくり進む。
「長身でセミロング、コートコート、白いコート」
歩きながら呪文のように唱える。
ななさんは笑い声で返す。
広場の真ん中5mほど手前。
女性が電話しつつ背を向けている。
白っぽいコート。長身に肩を超す髪。
この人かな?
恐る恐る聞いてみる。
「ななさん、振り向いてくれる?」
「え?」
きれいな黒髪が揺れる。
オレは目を見張った。
半年間、文字のみで繋がっていた人は
まるで竹久夢二の絵のようだった。
あまりに儚く美しい。
宗教の勧誘じゃないのか?
こんな素敵な人が?
ほんとなのか?
オレは彼女との距離を縮めることもできず
恥ずかしそうにガラケーを畳む人を見つめていた。
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