第5話 膨らむ妄想とモヤモヤの日々

この侵入女事件から2人はより親密になった。


毎晩1時、2時までデート。

眠気なんてなかった。

毎晩お互いのパートナーが寝るのを

祈るように待った。


としさん40歳。

ななさん33歳。


もちろんネット上での名前だ。


なな。

かわいいかな?と思って付けたらしい。


とし。

オレはTVでお笑いコンビが出ていて

それを見ながら呼びやすいだろうと決めた。


オレ

商社勤めのサラリーマン。

子どもは息子が2人(11歳、8歳)


ななさん

専業主婦(たまに主人の仕事場でバイト)

子どもは娘5歳、息子3歳。


お互いこんなサイトで出会ったんだ。

仲良くなったとはいえ、すべては話せない。

オレが嫁との不仲からこうして彷徨ったんだ。

ななさんもきっとなにかがあるんだろう。


オレは彼女に対してつっこんだ質問はできなかった。

もし、聞かれたくない話題を振ったら

それが原因で2度と彼女はオレの部屋に来ないかもしれない。


なんせこのチャットルームが2人をつなぐツールだ。

慎重にいかなきゃ。嫌われたら大変だ。


電話番号やメールが交換できればいいのだが

それもお願いする勇気がなかった。

彼女もオレの個人情報は聞いてこない。

ということは?自分も聞かれたくない。

そういう事だと解釈した。


何処に住んでるのかな?

文字だからイントネーションもわからない。


ほんとに女なのかなあ?

年齢も嘘かもしれないし。

すごいおばさんだったらどうしよう?


向こうも疑ってるかもしれないなぁ。

キモイ男かも?とか。じじいかも?とか。

でも彼女はオレが女でもいいのかもしれないな。

女同士よけいに仲良くなるかもしれない。


オレは正直、男と話はしたくなかった。

やっぱりネット上でも女性がよかった。

嫁と精神面で縁が切れてしまったオレは

女友達プラスアルファを望んでいた。


どんな人だろう?オレのタイプかな?

芸能人に例えると?聴きたかった。

でもそれが原因で彼女が去っていったら?

その不安からななさんの実像は探れなかった。


そのうちどういう流れからだったかは

忘れてしまったが、連絡用にメールを

作ろうという話になった。

もしも?の時のためフリーメールにした。


これにより、チャットルームより

多くの情報をやり取りすることが可能になった。


そのうち住んでいる地域を話した。

~県~市、お互いこれだけを伝えた。


約500km


これが2人の距離だった。


でも彼女の住んでいる所は出張で訪れる街だ。

彼女に会える可能性はあるんだな。

そう思うとよけいにどんな人か知りたくなった。


声が聴きたいな、どんな声だろう?

背は高いのかな?


勝手なもので想像上のななさんは

オレの理想のタイプになっていった。


繊細で内気で、か弱い人。

でもそれを悟られるのが嫌で

強がってけっして自分を見せない。

芯の強い、物静かな人。

そんな人がオレの理想だった。


いつか会えるのかな?

いや、そんな事よりそもそも

オレの事好きなんだろうか?

あの時、彼女に「好きだ」と伝えたが

彼女からは1度も返答がない。


やっぱりヒマつぶしの相手なんだろうか?

でも週に3回も4回も会うかな?

あまり必死になってフラれたら再起不能だな。



オレは勝手にななさんを想像し

勝手に妄想を膨らませて悩んでいた。





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