第4話 あなたを待つ夜

今夜も彼女を待って待機する。


♪ 入室の音だ。


滅多にない入室だ。

ななさんか?とドキっとする。


「こんばんは」


またかよ?今度は誰だ?


「人待ちなので退室していただけますか?」

「あの、彼女さんはまだ来られないのですか?」

「え?この前の人?」

「はい。毎晩待っておられるようなので

 どうされたのかな?と心配になって」

「それはありがたいけど、退室していただけますか」

「彼女さんが来ないのは私のせいなんですか?」

「さあ?分かりませんが、とにかく退室願います」

「ごめんなさい、失礼します」


今回はすぐ出て行ったな。しつこい女だ。

そんなことはどうでもいい。やっぱりだめかな。

もうあきらめようかな。

その日、なにげに掲示板を見てみた。


「としさんの彼女さんへ」


なんで?オレの名前で伝言があるんだ?

読み進むうちにあの侵入女が書いたもの

ということがわかった。

そこにはオレに侵入した理由が書いてあった。


けっして邪魔する気がなかった。

どうか彼氏さんの元へ戻ってください。

私のせいでお2人にご迷惑をかけました。


これ、見てくれたらいいな。

でも見ても戻ってくれないかもしれない。

オレはあきらめつつも待機を続けた。


ある夜。


♪ポーン


またあの女かな?


「     」


あれ?沈黙?


「こんばんは」も何もない。


まさか?


人違いだったらヤバいなと思いつつ

ななさんだと決めつけてキーを叩く。


「ずっと待ってましたよ」


返事はない。人違いなのかな?

ヤバいなと思いつつ様子を見る。

文字が打たれ始めた。


「どうして私だってわかったんですか?」


「ななさんを待ちだから」


彼女は掲示板にメッセージを残したあとも

サイトには来ていたらしい。

オレの返信もみたが、他に仲のいい女が居るかも

と少し疑っていた。

他の男に入ろうか?とも思ったがエロメッセにうんざりだった。


でもオレは毎晩「人待ち」で待機を続けている。

どうしよう?入ろうかしら?悩んだあげく

入室して謝ろうと思った矢先

子ども2人が順番に風邪を引きインできず

そのあと自分も熱を出したのだという。

結局彼女はインするタイミングを失ってしまった。


「私が怒ってもう来ないと思ったでしょ?

 これだけ無視しておいて今更って・・・

 怖くて入れなかったんです。でも今日掲示板を見て」


彼女は掲示板で侵入女のお詫びを見たらしい。


「1つ聞いていいですか?」

「うん」

「どうして飛び込んだ人と話さないで

 私を待ってくれてたんですか?

 話したいって言われたんでしょ?」


「あなた以外話したい人はいないから」


「誰が来てもお断り。

 ななさんが好きだから、オレ」


初めて彼女に好きだと告げた。


「ありがとう」


あの当時文字だけの会話だったので

彼女の感情はよくわからなかった。


あとでの回想だが、この出来事から

オレを完全に信じてくれたそうだ。

こんなおかしなサイトでもまともな人。

誠実な人、出会ってよかった。

そう思ったらしい。


それに「好き」に胸が締め付けられた。

彼女はそう言っていた。


「好き」の2文字でときめくほど

オレ達は愛に飢えた暮らしをしていた。





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