第3話 大切な人ができたのに

ななさんとの会話はスムーズだった。


おかしな待機メッセが多い中で

オレはまともだと思ってもらえたようだった。


彼女も寂しくてお友達募集。

2人とも目的が同じだったようで

話は初回から弾んだ。

どれくらいの時間話をしたかは

忘れたが話を終わらせるのが嫌だった。


話をしていて心地いいな

また来てくれたらいいな・・・

そう思いつつ毎晩彼女を待った。


ななさんも毎晩オレに会いに来てくれた。

でも最初はサイト自身が胡散臭いものだったから

お互いを探りながらのような空気があった。

最近のTVの話、趣味の話など

当たり障りのない話題が主だった。


あまり2人に共通点はなかったように思う。

でもオレ達は家族があるのに寂しい状況

同じ痛みを抱えた者同士だった。


出会ってどれくらいだっただろう?

その日もななさんを待った。

彼女が来るのは23時以降。

お互い相方が寝るのを待ってのデートだった。

オレの待機メッセージは「人待ち」


ななさん待ちと名前を書くと

なりすましてイタズラするバカが来る。

その防止のために名前は出さない。




「こんばんは」


誰だ?


入室した瞬間に分かった。

こいつはななさんではない。

2人には合言葉があった。

最初にそれを打ち込むのが決まりだった。


「すいません、人待ちなので出てくださいますか?」


「ええ、承知してます。すいません・・・」


侵入者は女だという。

このサイトで話し相手を探しているが

おかしな奴ばっかりだ。

オレ達がカップルだと知って羨ましかった。

ちゃんとしたカップルになりたい。

その方法を教えてください。


勝手な話だ。オレはななさんを待っている。

彼女は今「入室中」となっているオレの部屋を

見ているはずだ。


じゃまなんだよ。と打ちたかったが

丁寧に断らないと後々、こいつがアラシとなって

また侵入してくるかもしれない。

オレはなんとか説得して退室させた。


さ、ななさんを待とう。


だが、その夜彼女は来なかった。

何か来れない用事でもできたかな?


オレは翌日も待っていた。

でも彼女は来なかった。

なにかあったのかな?


このサイトにはカップルになった者同士が

連絡を取るために掲示板があった。

なにか伝言を書いているかもしれない。


伝言板をクリックした。

いろんなメッセージがある中に


「私以外にお話しする人が居られるんですね?

 また機会があればお話ししてください」


宛名もなにも無い書き込みだった。

あきらかに周りの文体とはテンションが違う。

日時を見れば、あの日の 11:39となっていた。


やっぱり彼女見てたんだ。


オレは見知らぬ奴に侵入されたんだ。

待っているのは君だけだ。と、そこに書き込んだ。


翌日も、ななさんを待つ。

もちろん待機メッセージは「人待ち」


待ったが彼女は来なかった。

掲示板にも書き込みはなかった。

ほかの男と出会って仲良くなったのかな?

もうオレの部屋には来てくれないかもしれないな。


オレは彼女をあきらめられなかった。

ケンカでお別れならそれでいい。

でもただの勘違いじゃないか?

こんな事で終わってたまるか。


オレは大切な人を失いたくなかった。


そして毎夜、待機を続けた。

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