第2話 ATMとヘルパーさん
オレは普通のサラリーマン。
25で結婚して子どもが2人。
大金持ちではないけれど頑張って
幸せな家庭を築いたつもりだった。
でも30代後半になってから
夫婦間に溝を感じるようになった。
嫁とレス状態となり
なんとなくぎくしゃくする。
子ども達が高校、大学で家を出た。
夫婦だけになると溝が川になる。
必要最低限の会話と連絡事項だけ
言いようのない寂しさや
虚無感が拭えなかった。
でも、それはオレだけの問題かも?
奴はなんともなかったんだ。
友人とランチ、ピアノ、スポーツジム。
「専業主婦って暇がないわ」
と愚痴っていた事もあった。
ある夜。嫁を誘った。
また断られるのかなと思いつつ近づいた。
「疲れてるから」とくるかな?
どんな断り文句なんだろう。
でも嫁の反応は違った。
オレをチラっと見た奴は
「しかたがねえな」という目をした。
オレの愛情メーターはその瞬間ゼロとなった。
嫌だけど仕方ないから相手をしなきゃ。
こいつは給料を持って帰るんだから。
じゃけんに扱って働き鈍るのも嫌だし。
一瞬の眼差しがそこまでの事を想像させた。
オレは静かにベッドから離れた。
その後どうだったのか?記憶にはない。
ただ確かな事は、オレのその時の思いは
奴に伝わってなかった。ということだった。
奴はその後もオレに近づく事すらしなかった。
なんともなかったんだろう。
それとも男でもいたのかな?
今となってはどうでもいい事だ。
よく世間で仮面夫婦という言葉があるけど
うちは仮面はなんの表情もない能面だった。
「どうぞお元気で働いてください」
「はい、オレのために家事をこなしてください」
お互いの願いはそれだけ
金が枯渇しなけりゃそれでOK。
2人は仲の良い夫婦だ。
ケンカもない。愛もない。
オレはATM。
奴はオレの稼ぎで働くヘルパーさん。
オレは寂しさからネットの世界を彷徨った。
出会い系サイトを検索する。
誰か友達になってくれないかな?
恋人でなくていい、セフレは要らない
ただ純粋に愛し、愛される実感が欲しかった。
いろんなサイトを見たが多くがセフレ募集。
オレは軽い出会い、メールで(昔でいう文通)のような
やりとりがしたいな。とおぼろげに考えていた。
ある夜ネットを検索していて
「出会いチャットルーム」というのを見つけた。
男が部屋を設定し待つ。
そこに女性が「入室」ボタンを押し
2人だけでチャット(文字だけ)の会話が始まる。
あの当時、PCで映像を出すことはあまりなかった。
サイトには多くの男が待機メッセを書いて待っている。
「もう濡れてるんだろ」
「イカせてあげる」
まるで中高生のような文章が並ぶ。
こんな所で女友達ができるかな?
勇気を出して待機メッセージを書く。
「お暇な方お話しませんか?」
どれくらいあのサイトに居ただろうか?
もう忘れてしまったが、ある日の夜。
ポーン♪
女性が入室した時点で音が鳴る。
お名前「ななさん」
ふ~ん、ななさんね・・・・
「こんばんは、初めまして」
「こんばんは、よろしくお願いします」
ほんとにこれ女なのかな?
そんな疑いを抱きつつ
オレは懸命にキーを叩いた。
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