最終話 掃除は続くよ、どこまでも
「……次から次へと。鬱陶しい!!もう終わりにー」
少年が逆上して、その力を無差別に解放としていた所へ幼女がインターセプトする。そして、少年のボディへ重そうな拳をめり込ませる。今までどんな攻撃でもかすり傷一つ追うことがなかった少年の体がくの字に曲がる。
「あれぇ、まだせいぜい1億人分くらいだよ?」
心底不思議そうに幼女は首を傾げる。
「お、お前何者だ?」
少年は自分にここまでダメージを与える存在に出会ったことは無かったのだろう。未知の存在に感じる感情は、決まっている。恐怖だ。
しかし、幼女は少年の問いかけを無視して、アイドルがステージを盛り上げるようなテンションで宣言する。
「次は5億いってみようか!!」
訳がわからないが、思わず「イエー!」と返事してしまった。
幼児の右足が禍々しいオーラが纏っていく。
「ま、待て!」
少年の制止など幼女にはまるで聞こえていない。ボディブローのダメージが癒えず、少年はまだうずくまっているため頭の位置が低い。それを幼女はサッカーボールよろしく蹴り上がる。
首から先が取れるほど勢いで、少年の体は空中で数回転して何の受け身も取れず地面に落ちた。
少年は呻き声をあげる。鼻血や吐血で顔は酷い有様だ。最早、満足に喋ることもできないだろう。
「ねぇ、今どんな気持ち?」
先ほどと立場が逆転した。ただ幼女が掴んでいるのは、少年の髪の毛で倒れている少年の顔だけ持ち上げている。
「う……あ……」
「訳も分からず、蹂躙される気持ちはどう?って聞いてるの!!」
言葉を発する事ができない少年を幼女は更に追い込んでいく。
「
たまらずレミが幼女に声を掛ける。まじな?確か怨塚のファーストネームだよな。ということは……
「この幼女、怨塚か!?」
「はい、不肖、怨塚呪、バズりによって受肉しましたぁ!」
幼女……怨塚は気をつけの姿勢で敬礼する。
「え?話が違ー」
「そんなことより、この畜生ですよぉ!調子に乗って7つの世界で200億人くらい殺してますから!」
大事な話を逸らされたが、確かにそちらの方が重大だった。数字が大きすぎて実感できないが。ただ、一つ疑問が。
「なんで、そんなこと分かるんだ?」
怨塚曰く、望まぬ死を迎えた人間の怨念を具現化するのが彼女の本来の能力で今回はたまたま配信者だっただけである。ちなみに怨念の恨みを晴らした所で成仏はできず、怨塚の力がより強くなるだけらしい。「嘘ついてゴメンね、テヘペロ」と言われた時は浄化してやろうかと思った。
そして、突如現れた少年の凶行が分かったのは彼に憑きまとう怨念達が教えたくれたからだと言う。化け物みたい強い少年を圧倒できるのはその無数の怨念の力を束ねたかららしい。「ひとつひとつは取るに足らなくても世界単位で集まると、とんでもないよ。要するに元◯玉のネガティブバージョンよね」と説明されたが、そのなんとか玉が分からないからイメージできない。7つ集めると願いが叶う球なんか知らない。
「で、どうするの、コイツ」
レミが少年を一瞥して面倒くさそうに聞く。
「司法じゃ裁けませんね。そもそも、怨塚さんの力が無いと拘束すらできません」
桜井は首を横に振ってため息を憑く。
『では、喰ってしまうか?』
「紅、腹を壊すからやめておけ。怨塚、殺す以外何か方法はないのか?」
司法に当てはめてみても、被害者感情を考えてもコイツは死ぬべき存在だが、一応人間である。同じ人間に我々が手を下すのは、気が引ける。それが普通の感覚だ。
「あるよ」
「そうか、ないか……。では仕方ないな。俺が汚れ役を引き受けよう」
「先輩、そういう雑務は私が」
「恨みを買うのは得意よ、私にやらせなさい」
『やはり、喰ってしまうか?』
皆、仲間を庇って美しい友情だ!
「いや、だからあるってば」
「なんだ、そういうことは早く言え」
「言ったじゃん。まあ、いいや。次元の檻に閉じ込めて200億の怨念に恨みを晴らさせるんだよ。死ぬより確実に辛いよ」
「よし、それ採用」
善は急げ。ピーピー喚く少年を次元の狭間に即送還してやった。人間の形をしていたが、7つも世界を滅ぼし、200億もの人間を殺すのは人間ではない。悪魔の類だろう。改心はまったく期待できない。慈悲も必要ない。
「さぁ帰りましょう。今回はなかなか稼がせて貰ったわ。打ち上げ代はウチが持つわよ」
レミはホクホク顔だ。配信の視聴者数がすごいことになっていたらしい。やはり、ハプニングはおいしい。
「どうせなら、コンサル料も安くしてくれませんかね?」
桜井は冷静に交渉を始める。そこからあーでもない、こーでもないと言い争いが始まった。
「疲れた。妾は甘いものを所望する!」
人の姿になった紅は駄々をこねる。
「ボクも受肉したらお腹が減ったよ。早く宴をひらこう。宴を!!」
皆ひと山超えて、ホッとしているのがよく分かる。だが、忘れちゃいけないことがある。
「待て、大事なことを忘れているぞ。周りをよく見てくれ!」
4人は一様に警戒して辺りを見回す。大丈夫、脅威はもう無い。だが、悲惨な状況だ。
「掃除だよ、掃除!!来た時よりも美しく。ダンジョンに潜る者の常識だろう!?」
ダンジョン中に各人各様の叫び声が響き渡る。皆、そんなに掃除を好きでいてくれるなんて……超一流清掃員、感無量である。
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