第19話 奥の手すら通じない!?

「うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい」


 少年は壊れたスピーカーのように一つの言葉しか発しなくなった。ひとつ発する度に、光球、光剣、氷、炎、雷、岩などで攻撃される。恐らくそれぞれがこのダンジョン自体を破壊するほどの威力を秘めているのだろう。

 恐らくと言ったのは、今は実感する事できないからだ。最後の手段として、絶対純潔領域にを明け渡したからだ。

 最早、俺は俺のコントロール下に無い。枷をはずしたのだ。そうすることで、このスキルの効果は数倍に上がり、本領を発揮する。眼前に映る穢れを全て浄化するか、もしくは活動維持ができなくなるまで止まらないのが難点だ。俺の意識はただ状況を見るだけしかできない傍観者となる。

 そして残念なことに、そこまでやっても後者の理由で俺は止まろうとしていた。

 少年には傷一つ無くまるで散歩でもしているかのように、攻撃の余波で瓦礫埋もれた俺に近づいてくる。

 こちらは満身創痍だ。余計な思考を削ぎ落とし、本能的に対応しているにも関わらず途中から攻撃全てを遮断することは叶わず、致命傷にならぬようにそらすのが精一杯だったようだ。身体中のあちこちに生傷がある。今気づいたが右腕が糸が切れた操り人形のようにだらりと垂れ下がっている。どうやら折れているらしい。痛みを感じない状態で本当に良かった。

 少年が俺の右足を掴み無造作に持ち上げる。


「ねぇ、今どんな気持ち?どうせ、自分が最強とでも思っていたんだろ?プライドズタズタにされて、どんな気持ちなんだよ!!」


 少年は怒鳴り散らしているが、どうしたって俺は答えられない。ただ、答えるとしたら"風呂に入りたい"一択だ。プライドは何の話をしているのか分からない。とにかくこんなに汚いままでは気が狂ってしまう。


「はぁー。なんだよ、全然発散にならないじゃないか。もういいや、死ね」


 少年が空いている右手で手刀を作り、俺の心臓へ突き刺そうとする。あれは間違いなく俺の体を貫通するだろう。

 そうか、俺は死ぬのか。この状態だとまるで実感はない。映画の終わりを見るような感覚だ。ある意味幸せなのかもしれない。執着や未練なく、童貞のまま死ねるのだから。


「先輩!!そのまま死んだら、床がひどく汚れます!!」


 逃げたはずの桜井の叫び声が聞こえる。

 汚す?俺がか?ありえない!

 桜井の声と同時にレザーポインタのような細い光が、少年の手刀を弾く。ドラゴンの姿の紅が放ったものだ。ドラゴンブレスを桜井のサポートで限界まで圧縮して威力を高めたのだろう。少年への意趣返しとして、上出来だ。


『自身が穢れになることを受け入れるか、キヨ!お主はそんな根性無しなのか?』


 誰が受け入れると言った!?根性なんて問題じゃない。

 俺が意識の檻の中で必死に否定しているといつのまにかレミがすぐそばに来ていた。大層な存在感を放つ剣を、俺を右足を掴んだままの少年の左腕へ振り下ろす。腕を両断するどころか傷すら与えられずに剣は折れたが、しっぺぐらいのダメージは与えられたようで、少年は怯んで俺を解放する。


「ずいぶん、散らかってるじゃない。さあ仕事しなさい、清掃員!あと、この剣すっごいレアなんだから弁償してよ!!」


 倒れそうになる俺を支えて、レミは檄を飛ばす。言われなくてもそうする!弁償は知らん!


「ははははは。アンタ、そうとう嫌われてるなぁ。この状況でアンタの心配より、ダンジョンの心配してるぜ」


 やっと与えた痛みで頭に血が上るかと思いきや、少年は腹を抱えて笑う。可哀想な奴だ。きっと国語の成績は最低水準だろう。登場人物の心情など察することなどできないに違いない。

 最早、スキルの自動制御にも見捨てられるほど残り滓となった俺は、自分の主導権を取り戻す。一気に襲ってくる痛覚が逆に気付けとなりなんとか意識を失わずに済んだ。自分の奮い立たせるため、息も絶え絶えになんとか声を絞り出す。


「俺は……超一流ダンジョン清掃員……澄川清29歳。またの名を……純潔の童貞!お前を……浄化する者だ!!」


 少年は大袈裟に肩をすくめる。


「お前、ホントうざいね。そんな状態でイキってどうすんの?他の奴らも、蝿みたいにたかってキモイわ。どうせ、みんな殺すんだから何も変わらねーよ。無駄な努力、抵抗うざすぎ」


「無駄じゃないんだな、これが!」


 場にそぐわない明るく舌足らずな声が響き渡る。声のする方に振り返ると、ツインテールの幼女が


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