第16話 コバレミ先生のバズり方講座

「まず最初に断っておくけど、必ず配信がバズる方法……」


レミは間を置く。皆、次の言葉を固唾を飲んで待つ。


「そんなものは存在しないわ」


 拍子抜けだった。高いコンサル料を払っているのに、いきなりできませんと言われた気分になりちょっと面白くない。

 怨塚なんかショックで泣きそうだ。紅は……休むことなくパンケーキを食べ続けていて聞いていない。一体何枚食べたのか、怖くて途中で数えるのをやめた。


「私はそちらの方面に詳しくないですが、そんな怪しいものは無いと容易に考察できますので、求めていません。そんな前置きはいいですから、早く本題へ」


 いやいや全然容易じゃないよ。才女だけで話を進めないでくれるかしら。我々パンピーにも分かるように説明してくる?

 ほら、怨塚の頭の上にもハテナマークが浮かんでいるぞ。紅は……もういいか。


「まあお待ちなさいや、桜井さん。貴方以外は説明して欲しそうな顔してるわ。空気の読めない女はモテないわよ」


 レミはおどけてみせる。


「余計なお世話です、社長様。別に私は貴方と違って不特定多数にモテようとは思っていません。……ですが確かに私だけが理解すれば良い話ではないですね。続きをどうぞお話しください。私はしばらく黙って聞いていますね」


「ふふ、謙虚で聡明な人は好きよ。ウチで是非働いて欲しいわ。さて、弊社が"これさえやればバズり確定"みたいな胡散臭いものを提供すると思っていた可愛い子ちゃん達。想像してごらん。もし、そんなものが本当にあったら貴方ならどうする?」


 レミは楽しそうだ。ドSだから、一つ上の立場から教えたりするのが大好物なのだろう。


「その方法で配信するだろうな」

「私も……」

「そんなことより、おかわりだ!!」


 一頭だけ大食いチャレンジしている。


「そうね、皆その方法を採用するでしょう。そうなると似たような配信ばかりになるのは分かるわよね?」


 俺と怨塚はウンウンと頷く。


「さて、ここで問題です。類似品がたくさんある配信がバズるかしら?」


 俺と怨塚は示し合わせたように首を横に振る。


「そうよね、みんな見たことがないものが見たいもの。お決まりの展開を求められるのは大手になってからよね。でも、おかしくない?絶対バズる方法で配信するはずなのに、バズらない事が目に見えてる」


 俺と怨塚はハッとする。完全にレミの手のひらの上で踊らされている。


「分かった?絶対バズる方法なんて言われて広まるモノは、広まってしまった時点で既にバズらないものになるのよ。だから、仮に私がその方法を知っていたとしても、誰にも教えないし、ここぞという時にしか使わない。つまり、そんな方法は誰にも教えてもらえないの。教えてもらえないものは存在しないのと一緒でしょ」


 俺と怨塚は感嘆して思わず拍手してしまう。さすが、元カリスマ配信者、現敏腕社長である。


「まあ、私はホントにそんな方法は知らないわ。そんな方法無くても正攻法で、のし上がって来たもの」


「正攻法?」


「クオリティの追求とマーケティングよ」


「な、なんだか……難し、そうですね」


 怨塚は腕を組んで考え込んだ。


「安心しなさい。普段のコンサルなら、それを愚直に徹底的にやるけど、今回は一回きりのバズりで良い訳だから、邪道でいくわ」


「でも、必ずバズる方法は無いんだろ?」


 俺は首を傾げる。


「必ずバズる方法は無いけど、バズる配信の傾向というのはあるわ」


「お、教えてください」


 怨塚は前のめりになっている。気持ちはよく分かる。彼女が聞かなければ俺が聞いていただろう。プロデュースを生業としているだけあって、レミは人を乗せるのが上手い。


「ふふ、慌てなくても教えるわ。バズる要素のひとつ。それはずばり、ハプニングよ」


「「ハプニング?」」


 怨塚とハモってしまう。


「さっきも言ったけど人は見たこともないモノを見たいのよ。結末が予想できるドラマとかは途中で見なくなっちゃうでしょ?次にどうなるか分からないドキドキ感が、人を夢中にさせるの。ハプニングはその際たるもの。配信主すら何が起こるか分からないんだからね」


「なるほど、理屈は分かる。ただ、ハプニングは偶然起きるものだろう?それを悠長に待つのか?」


 レミは俺の言葉に驚愕した表情でフリーズする。


「先輩にしては的を射た鋭い指摘ですね」


 桜井の言葉にレミは激しく同意する。


「ホントびっくりして、言葉を失ったわ」


 君達は俺をなんだと思っているのかな?一応年上なんだぞ。敬いなさいよ。


「清の疑問は尤もよ。ハプニングをとにかく待つ。そんな提案するコンサルが居たら、殴っていいわ」


「レミがもし本当にそう言ったら、本当に小突いていたかもしれんな」


「あら、女性に手をあげるなんて最低ね」


 いや、アンタが殴って良いって言うたやん。という言葉が喉まで出かかったがギリギリで思いとどまる。今は話を進めるのが優先だ。


「いい?私クラスになるとね、ハプニングは待つものじゃ無くて起こすものなのよ」


 普段は腹の立つレミのドヤ顔だが、今はカッコいいとさえ思ってしまった。


「おい、おかわりはまだか!」


 ただハプニングは現在進行で起きているのかもしれない。

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