第15話 TPOってあるよね
「アンタ、なんでそんな厄介事ばかり吸い寄せるの?」
今日はコバレミの会社に怨塚をバズらせるコンサルを受ける日で、手始めにここまでの経過を説明したところだ。その奇怪さに驚き、レミは仕事である事を忘れて素に戻っている。
「多分、俺の純潔さがそうさせるだろうな。皆、綺麗なモノが好きだろう?」
何故か場が凍りつく。そんな変な事言ったか俺。
「ご注文はお決まりですかぁ!?」
派手な配色のポップな制服の着た妙にテンションの高いウェイトレスがテーブルにやってきて救われる。
注文は紅に任せて話を続けよう。
「ご多忙なのに社長自ら打ち合わせに来ていただくなんて、光栄です」
「いえ、澄川さんからどうしてもと懇願されまして」
桜井から睨まれたので俺は大きく首を振って否定する。レストランでの一件以来、仲良くなってくれると思いきや、彼女達はやはり水と油らしい。
傍らではその紅がメニュー表を指でなぞって、ここからここまでを5枚ずつとか言っているような気がするが、幻聴だろう。
ウェイトレスが何度も注文を確認した上で血相を変えてキッチンに消えていったように見えたが気のせいだろう。
「早速ですが、ひとつ疑問が」
畏まって話すレミに違和感しかなく話にくいので、「まどろっこしいからラフに話してくれて良い」と許可を出す。桜井から「ビジネスなんですから、ちゃんとした方がいいですよ」と反対されたが、レミはそれを無視する。
人類皆兄弟だよ!仲良くいこうぜ!
「アンタの会社、会議室ないの?」
それは皮肉でもあり、心の底からの疑問でもあっただろう。
「ウチは会議なんて無駄な事はしないのさ」
それは完全な嘘だった。何故か皆会議が大好きであるから、すごく長引く。それどころか会議のためだけの資料を何日もかけて作成したりする。それでいて何も決まらない、生まれない事が多いからとても不思議だ。
「あっそう。別にそれはどうでもいいけどさ。今日は大事な打ち合わせよね?」
「ああ、そうだ」
「私が言うのもなんだけど、結構なコンサル料をもらってるわよね?」
「ほぼ、ぼったくりですね。悪徳業者ではないことを願うばかりです」
桜井は笑顔で答える。
「じゅあ、聞くけどー」
「お待たせしました。こちらご注文の……」
ウェイトレスが割り込み、大量の皿をテーブルの上に乗せる。ショコラ、クリーム、キャラメル、ストロベリーなど甘そうな料理名を呪文のように唱えながら。
各皿の上には、とても甘そうなパンケーキがタワーのように積み上げられていた。
「なんで打ち合わせ場所がパンケーキ店なの!?」
「貴様にはやらんぞ。全部妾のだからな」
紅が噛みつきそうな目付きで忠告する。
「いらないわよ!にしても、どんだけ食べるの」
「紅の胃袋は宇宙だからな。嫌いか、パンケーキ?」
「好きとか嫌いとかの問題じゃないのよ。落ち着いて話せないでしょう?」
「あれ?今をときめく敏腕社長でもできない事があるんですね!」
桜井は大袈裟に驚いて見せる。
「もがもがもが」
「紅、飲み込んでから喋りなさい」
「こんな天国のような場所に文句をつける奴は地獄に落ちれば良い」
水でパンケーキを流し込んだ紅は吐き捨てる。口の周りの生クリームのおかげで非常に説得力が増している。(皮肉)
「アンタんとこの社員はなんで皆、喧嘩腰なのよ?」
「1人は社員じゃないし、喧嘩腰なのは多分取引相手による」
「そうですよ。私はこんなに友好的なのに、ご自身にやましいところがあるから、そう感じるのでは?」
「今さら欲しがっても、絶対分けてやらんぞ」
三者三様のリアクションを示す。
「帰っていいかしら?」
「いいですけど、契約破棄の違約金は払ってくださいね。10億♪」
桜井はにっこりと笑って両手を広げて10を表現する。
「な!?そんなの契約書に無いはず?」
「こちらで多少アレンジするって言いましたよ。まさかチェックしなかったんですか?お粗末ですねー」
「……貴方、なんで清掃業者のOLなんてやってるのよ」
席を立とうとしたレミは渋々ソファに深く座り直す。彼女も桜井の有能さを認めたようだった。
「理由は小林社長が一番分かるはずですよ」
「いや、まったくもって分からないし分かりたくもないわ」
「ふふ、強情ですね」
「あのぉ……打ち合わせ……はじめませんか?」
楽しそうにやり合う二人に痺れを切らした怨塚が消え入りそうな声で提案する。
ああ、そういえば居たんだっけ。
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