第11話 お家へ帰ろう
長い長い1日の業務がどうにか終わり、ようやく家に帰ろうとなった段階で気づく。
家なき子が1人いることに。
桜井が良いことを思いついたテンションで提案する。
「死体安置室でいいのでは?死体なんですから」
ああ、カプセルホテルみたいで丁度いいな!……ってなるか。見ろ、怨塚が
「冗談だよな?桜井さん」
「え、私何かおかしなこと言いましたか?」
「はい、桜井さんの小粋な冗談が決まった所で他に良いアイディアある人いますかぁ?」
不思議そうな顔をする超絶ドライビジネスパーソンを無視して建設的提案を募る。
「もともとダンジョンの産物なのだから、ダンジョンに帰ればよかろう。そんなことより、キヨ。早く我らの家に帰るぞ」
ああ、ホントこの人達イヤ。自分基準で考えるのやめてもらえますか?ほら、怨塚が涙目になっているじゃありませんか。
「いえいえ、野良ドラゴンこそ、早くダンジョンにお帰りください」
桜井が紅に突っかかる。ホント仲良いな、君達。
「キヨがそうしたいのなら、妾はどちらでも構わんぞ」
「なんで俺の意向を確認する必要があるんだ?紅は紅の家に帰ればいいじゃないか」
言っている主旨は桜井と変わらないが、極めて紳士的に伝える。
「キヨ、何度言わせるんだ?我らは
ですよね。そうきますよね。そんなフェアなジャイ○ンみたいなこと言ってもダメです。認められません。
「異議あり、異議ありぃ!!」と捏造された証拠を突きつけられた弁護士のように興奮して桜井が吠えている。同じ気持ちだが、桜井さん、冷静さが迷子になっていますよ。
「いや、俺は他人とは住めない。もちろん、他竜とも」
そう、俺の性質上それは不可能だ。
「……妾のことが嫌いか?」
瞳のうるうるさせても、効きませんよ。その技は見切っています。
「相手が誰であっても、だ」
そこで桜井も残念そうな顔をする。いや、なんで?情緒不安定なんですか?
「
石化の効果がありそうなほど鋭い目つきで紅に睨まれる。下手なこと言ったら、噛みつかれそうだ。
「これは紅の為でもあるんだ。俺はキレイ好きだ。自分で言うのもなんだが度を越した、な。家では食事と睡眠時以外はほぼ掃除していると言っていい。……いや、本当だぞ?こればかりは譲れない。俺の生き様だからだ」
「そんなにキレイ好きなのに、なんでダンジョンに潜るのかなぁ?」
机の上のスマホからそんな呟きが聞こえてくる。自分の住処について死体安置室かダンジョンかの2択を迫られそうになったので、恐らく抗議するためにヴァーチャルに切り替えた怨塚だろう。
「俺はキレイ好きなだけで潔癖症ではない」
「一緒じゃないんですか?」
今度は桜井が聞く。なんだぁ、みんな俺に興味津々か!さすが、純潔の童貞様だ。
「俺の中では一緒ではない。潔癖症もキレイ好きも穢れを忌み嫌うのは同じかもしれないが、前者は穢れを徹底的に避けるのに対して後者は穢れを浄化する工程こそ大好物だ。そこが大きく違う。だから、ダンジョン清掃員をやっている」
3人とも腑に落ちない表情だったが俺は気にしない。別に他者に理解してもらおうとは思っていない。
「ケッペキだかはよく分からないが、妾は気にしないぞ。キヨが四六時中、掃除していようが」
俺は絶対純潔領域の出力を臨界近くまであげる。物分かりの悪いドラゴンにお仕置きが必要になるかもしれないからだ。
「俺が気にするんだ。これ以上、駄々をこねるようなら、ダンジョンでの続きを今してもいいんだぞ?」
俺は噛み締めるように一言ずつ丁寧に伝える。
「……分かった。譲れないものがあるのは理解する。一緒の寝床とは言わない。だが、ダンジョンの奥深くに戻るのは断る。魂のつながりが物理的距離に影響を受けることは、人間にも分かるだろう?」
良かった。実力行使は俺も本意ではない。しかし、『遠くの親類よりも近くの他人』という慣用句はドラゴンにも通じるかもしれない。
「そういうことなら桜井が偶然、俺と同じマンションに住んでるから住まわせて貰えばいい」
「……それ、本当に偶然なのぉ?」
怨塚は何故か疑っているが、偶然以外にどういう理由で同じマンションになるというのか。
「いろいろ言いたい事はありますが、現状はそれが落とし所なのは分かります」
大きな溜め息をついた後に渋々といった感じで、桜井は言葉を絞り出した。
「ただし!一時的措置ですからね。1ヶ月が限度です。貴方も人間社会に溶け込むつもりなら、住処ぐらい自分で確保してください」
「妾としても言いたいことはたくさんあるが、ここはキヨの顔を立ててやろう」
どうやら、言いたいことがたくさんある女子同士の合意が済んだようだ。
うんうん、言いたいことをある程度我慢して、人は大人になっていくんだよね。人じゃない奴もいるけどね。
「なんか一件落着の雰囲気ですけどぉ、みなさん!大事なことお忘れじゃないですかあああああ!?」
怨塚が大音量で叫ぶが、桜井と紅は小首を傾げるばかりだった。
怨塚はリアルでもヴァーチャルでも可哀想な子なのでした。めでたし、めでたし。(続く)
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