3K底辺職と雑誌特集されちゃうダンジョン清掃員の俺、超一流なんで最強ですけど、配信の邪神と豪語するVTuberに振り回されていたら、モテモテになるが極度の綺麗好き故に自身の純潔さを守るのに必死です。
第10話 清潔感のある格好ってどういう格好ですか?
第10話 清潔感のある格好ってどういう格好ですか?
「改めまして……怨塚……です」
メイド少女は至極控えめに自己紹介した。その内容に内心驚きはしたが、リアクションは取れなかった。虎と龍からの必死に逃亡したせいで、その体力が無いのだ。
彼女曰く、配信の邪神なので人間に憑依した上でのリアルな会話に慣れていなくこんな儚げな雰囲気になってしまうらしい。
ちなみに虎には懇切丁寧に経緯を説明した上でフルコースの前に映画も奢ることでご納得いただいた。しかし、桜井がそこまで映画が好きだったとは知らなかった。
龍の方には、有名なパンケーキ屋で好きなだけ食べて良いと約束して引き下がっていただいた。あの行列に並ぶのは今から気が滅入ってしまう。
しかし、このメイド少女に怨塚が憑依しているとしたらご本人様はどうしたのだろうか?
「ええと、どういうことか説明してくれるかな?」
俺は怨塚をテンパらせないように優しく話しかけた。
「あの……そ、その桜井さんが、えっと、い、言っていいのかな」
少女はゆっくりとひとつひとつの言葉を確かめるように話す。ハイテンションに早口で話すバーチャルの怨塚とは似ても似つかない。
とにかくこれでは要領を得ないので桜井に代打をお願いする。
「簡単な話です。体だけを用意したんですよ」
桜井は聞き逃せない事を淡々と話す。
「体だけを用意するって、ど、どうやって?」
その辺の
「過去に我が社が回収して期限までに身元引取人が現れなかった死体を蘇生しただけですよ。期限が過ぎているので魂は復元しないから丁度いいでしょう?」
まるで、「じゃがいもとニンジンと玉ねぎが適量残っているから、カレーに丁度いいよね」的な気軽さで桜井はそう言った。
業務を遂行するにあたって桜井は、非常にドライになる。だからこそ、仕事がデキるのだがちょっと怖い。
しかし、死者蘇生なんて弊社でも1人しかできなかったはず。
「よくアイツが承諾したな」
「あぁ私、あの人嫌いなので自分でやりましたよ。少し勉強したらできるようになりました」
またまたサラッと桜井は言うが、一夜漬けしてノーベル賞取りましたと言ってるようなものだ。この後輩、本当に底がしれない。俺が言うのはお門違いだとは思うが、清掃業者の一社員でいるのは正直勿体無いと思う。一度、転職もしくは独立を勧めた事があるがガチギレされてしばらく口を聞いてくれなかった。
なぜ、そこまでキレられないといけないのかと最初は怒りが湧いてきたが、桜井が俺と同じように清掃を愛してくれていると思う事で心の平穏を保ったものだ。
「しかしなぁ、赤の他人の肉体を勝手に使うのはなぁ、ちょっと気がひけるというか」
「先輩が教えてくれたんですよ。ダンジョンでは何があっても自己責任。命の危機でも誰も助けてくれないし、仮に死んだとしても、馬鹿にされるだけ。馬鹿にされるならまだ良い。最悪なのは死体も見つからずに行方不明者として忘れ去られることだって。この子は折角死体が見つかったのに、最悪なパターンになってしまっている可哀想な子。きっと誰にも探してもらえなかったんだと思います。だから、肉体ぐらい有効活用してあげないと」
倫理的抵抗感はあるが、桜井の言うことは尤(もっと)もだ。清掃員の不断の努力でダンジョン探索がエンターテイメントと化しているとは言っても、それはバンジージャンプを飛ぶようなものだ。命の危険があることを文面で示されて、そこに応諾の署名をした上でないと潜れない。多分、弊社のことだ、誰も読まないような小さい文字で死体の活用についても明記しているのであろう。
メイド少女の身体の持ち主も、その書面にサインしたであろうから、今のこの状況には文句は言えない。
ただそうは言っても普通の人間はそうは簡単には割り切れない。割り切れる人間は、大人の社会で高い地位を獲得できる者達だろう。やはり、桜井にはその素質がある。
「その点についてはこの桜井とやらに同意するぞ。弱いから死んだのだ。強者の糧になることに文句は言えまい」
流石、現在進行形で弱肉強食の世界に身を置くドラゴンの言葉は身に沁みますなぁ!
「わ、私はやっぱり……抵抗があります」
良かった。一般人の感覚を持つ邪神が居てくれて!
「じゃあ、代案はあるの?」
桜井の目つきが鋭くなる。
「……ありま…せん」
「代案無き否定は、"ワガママ"と言うの。そして、社会でワガママを無理に通すことを"迷惑行為"って言うの。覚えておいて。そして、何より貴方のためにやったのよ。感謝こそされても、そんな悪魔を見るような目で睨まれる覚えはないわ」
相手は子供なんだからそんなに詰めなくても、と止めに入ろうかと思ったが、見た目が子供なだけで人間ですらないことを思い出す。
腐っても神なんだからもっと頑張れ、とエールを送るに留める。け、決して桜井が怖いから二の足を踏んだわけじゃないよ。
そして、思い出す。こんな乾き切った砂漠のような話よりも確認しなきゃいけない事があったんだ、と。
「体は良いとして、何故メイド服なんだ?」
「ああ、それは私の趣味です」
桜井は悪びれる様子も、恥ずかしがる様子も一切無く怨塚を詰めていたトーンと同じトーンでそう答えた。
「あ、そうですか。趣味なら仕方ないですね」
俺はパンドラの箱を開けないように事務的に答えた。
「え!もしかして先輩もメイド服好きですか!?じゃあ、明日着てきます!」
今さっき死体の有効活用について語っていた人物とは思えないほど、はしゃいでいる。
「いや、好きじゃないし、着てこなくていい」
と俺が言っても聞こえないくらい、はしゃいでいる。どうやら箱は開いてしまったようだ。
「なんだ?キヨが好きな
いや、サイズが合いませんよ?主にその主張の激しいお胸が入りませんよ。
「2人とも落ち着いてくれ!!俺はメイド服、好きじゃない!」
会社で絶対言わないであろう台詞ランキング上位に食い込む台詞を大声で叫んでしまった。
「じゃあ、どんなのがいいんですか?」
「では、どんな装いが好きなのだ?」
ニュアンスこそ異なるものの、二人に同内容で詰められる。実は仲良いんじゃないですか?魂の共鳴をしてるのは、この二人なんじゃないですか?
俺は清潔感のある格好が……と正直に答えたが何故か2人はがっかりした。「そんなモテる女の模範解答みたい曖昧な答え求めてない」桜井がそう呟いたのを聞き逃さなかった。
じゃあ最初から聞くなよ!という俺の心の嘆きは誰にも届きはしないだろう。
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