課題と報酬(本日の三題噺 2/11 『昼寝』、『デイリーミッション』、『チョコレート』)

「福原くん。これが君のデイリーミッションだ」


 プリンタで刷ってきたばかりのA4ペライチ1枚完結の資料を突き付けてやると、新入社員の福原祐司ふくはらゆうじは露骨に顔をしかめた。


「何すか、デイリーミッションって」

「君が社内で毎日こなすべき作業のリストだ。君にもわかりやすいように、ソシャゲ風にしてみた」


 うーん、と唸りながら、福原はペライチに目を通す。ネット上で見かけるスクリーンショットを参考に、ソシャゲ風のフォントや飾り枠を探してきて、見よう見まねでこしらえた一覧表だ。

 出来は悪くないと思っている。が、福原は不満げに口をとがらせた。


「タイムカード打刻とか、朝礼参加とかはわかるっすよ。でも何すか、この『昼寝』って」

「居眠り対策だ。……あまり言いたくはないがね、昼二時頃の君の状態、周りの人間が知らないと思っているのかね。十数分程度の昼寝でも効果はあるというぞ」


 この困った新入社員は、昼過ぎになると毎日のようにうとうとし始める。社内の士気にも関わるから早急に対策しろと、部長からの厳命が下っていた。


「業務時間内に昼寝していい、ってことっすか?」

「そんなわけがあるか。昼休憩を使え」

「センパイ、休憩は従業員の自由時間っすよ。指図する権限はセンパイにはないっす」

「……それならそれでもかまわんぞ、代わりの眠気対策があるならな。コーヒーを飲むなり早寝するなり……対策はなし、勤務態度も直さない、は認められないぞ」


 福原はしばらく考えた後、言った。


「センパイ。このデイリーミッションの報酬は何っすか? ミッションには当然報酬があるはずっす」


 自分から訊いてくるあたりが図々しい。だが、そこは織り込み済だ。

 私は自分の机から、金色のロゴが箔押しされた黒い紙箱を取った。


「資料にも書いたが、『ゴディゾフ』の高級チョコレートを一粒。口の中でとろける美味うまさ、私の大好物でな……私のポケットマネーで特別に――」

「断るっす」


 即答だった。


「チョコでガチャは回せないっす……昼休憩は『ファイアレッドファンタジー/グランドオーダー』のデイリーミッションの時間っすよ。毎日の魔宝珠五十個は逃せないっす」

「……帰ってからやりなさい」

「無理っす。帰ったらギルメンとレイドバトルだから、デイリーこなしてる余裕はないっすよ」


 嫌な予感を覚えつつ、私は訊かずにはいられなかった。


「そのレイドバトルとやらは、何時から何時頃までやっているのかね」

「毎日、夜十時から十二時くらいまで……長引いたら二時や三時になることもあるっすね~」


 おまえの居眠り理由、やはり、それか。

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