好かれようとしただけだったの

 周りに好きになってもらう必要なんて感じない。

 自分は自分。

 他の人の気持ちに期待して対等な関係を望もうとしたからガッカリしたんだ。

 私は他の人と違うから期待するだけ無駄。

 だから一方的な関係でいい。

 だからそれを受け入れてくれる悠里が好き。

 好きでいさせてくれる悠里が好き。

 線を引かない悠里が好き。

 なのに、これは少し酷くない?




「それはここをこうして...」


 特進のカリキュラムは特別で複雑らしい。

 内容も普通科の何段階も上のことをやっている。


 最初は特についていくのに精一杯な生徒でいっぱいだった。


「それはここをこうして...」


 私にとっては早いとは思ったけれど、それほど難しい内容とは思わなかった。

 まぁ勉強で難しいと思ったことはないんだけれど。


 ただ主席の生徒ですら最初は苦戦するってことはきっとそういうことなんだと思う


「え、それよりもこっちじゃない?」

「いや、こっちをこうした方が簡単で早いわよ?」

「あー」


 主席の彼に数学を教える。


 早くて抑えきれなかったところを補完してあげる。


 ただなんか彼は不満そうに聞いたりしていた。

 悔しいって感じだった。


「じゃあこれは?」


 時々、主席の彼が試すように私に問題を出す。


「これはここを因数分解して...」


 ただそれを難なく私は解いていた。

 彼の出す問題は複雑だけど難しくはないし間違えない。

 彼は悔しそうな顔をしていたけれど、その時はそういうコミュニケーションなんだと思っていたわ。


 高め合って、お互いがお互い近い存在であると確認するための作業だと思ってた。


「え!?」


 ただ特進に入って最初の中間テストで風向きは変わった。


「満点...!?」


 一位 高杉恋 500点

 廊下の掲示板に貼られた成績上位者一覧の紙。


 自分の順位なんかを確認している中でざわついていた。


「え...?」

「うそ...あの金髪?」


 ざわざわしていたけれどテストは満点以外取ったことがなかったから私自身は別になんてことはなかった。


 特別喜ぶこともない。

 でも驚いたことがあった。


 このクラスは私に似た人、つまり私と同じくらい勉強が出来る人が集まると思ってたのに満点は私一人だった。

 主席の彼ですら487点。


 そんなものかと少しがっかりもしたけれど、その日を境にいろんな人に頼られるようになった。


「高杉さん!ここ教えて!」

「えぇ」


 満点を理由にいろんな人から質問を受ける。

 あの問題を教えてとか色々と私に追いつくためってみんな話しかけて勉強を聞いてくれた。


 ただ少し気になったのが、私を試そうとしていること。


 中学にほとんど行ってなかったから、人に会ってなかったから

 人の感情に敏感になっていたのかはわからないけれど


 少しだけ、私に対しての風当たりが強く感じる


「高杉ってすごいな。負けてられないよ」


 主席の彼のその言葉は覚えてる。

 勉強で負けたことがなかったのかは知らないけれど、悔しさや憎さみたいなのを言葉から感じた。


「私も負けない」


 でもそんなものを気にしてもしょうがない。

 気にしすぎかもしれないとは思っていたから考えるのはやめてまっすぐ向き合うことに決めた。


「はぁ、ただこのままじゃ特別推薦は高杉かもね」


 がたりと椅子の背にもたれかかって彼はそう言った。


「特別推薦…あぁそういえばそんなのあったわね」


 学費完全免除と特別推薦で大学に入れてくれる代わりに私に学校に

 学校でも不祥事さえ起こさなければ色々特例で目を瞑る。


 そんなことを言われていた。


 私なら例年の特別推薦が通らないレベルの大学にも推薦で主席入学にこぎつけることができる。

 ここの生徒でも難関である日本トップレベルの大学に特別推薦で入れた実績を作りたいんだそう


 入学前に学校の偉い人とそんな話をしたのを思い出す


「俺、特別推薦で目標の大学に主席で入学したいんだ。そうすれば就職でも有利になるだろ?」


 目をキラキラとさせている。

 学年で一番優秀な生徒一人が特別推薦の枠に入ることができる。


 その一枠をみんな求めている

 そして、それに私が内定しているのは気づいてない。


 頑張ろうとしてるんだ。


 私に比べてよっぽど高尚そうな理由だし


「そうなのね…うん、ねぇ?」

「ん?」

「特別推薦、譲ってあげようか?」


 そんな軽口を叩いてしまった。


「…えっ?」


 私は気づかなかった。

 仲良くなるため、好かれるために口走ったことだった


「私、実は特別推薦を条件に入学したの。多分校長にお願いすれば許可してくれると思うわ。この交渉はきっと私のが立場的にも有利だし、きっと上手くいくわ」


 好かれようとしただけだったの。


 本当に、それだけだったの。


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