高杉奈々恵
夏に入ろうしてる日の夜は、少し蒸し暑く、悠里はパタパタと手で顔を仰ぐ。
大きな日本家屋の広い空間は少しでも風通しを良くしよう考えられてるからか涼しそうではあるけど実際はさほど涼しくない。
「悠里ちゃん、はい、ごめんね。お茶。恋ちゃんまだ食べてるから待っててね」
「あ、ありがとうございます...えっと、恋先輩の...お母さん...??」
「奈々恵(ななえ)さんって呼んでいーよ」
「おばさんとか言われるの嫌だから」そう言いながら笑って机を挟んで向かい側にが座る。
冷たい麦茶をいただいて、奈々恵さんを観察する。
どう見てもお姉さんにしか見えない。
初対面から強引なところとか恋先輩にそっくり。
それに先輩のファッションセンスはこの人譲りなのかなという風に思えるくらいの見た目がいいから許されるような首元だるだるのシャツ。
そこから見える胸元に女ですらドキドキさせられる。
先輩とこの人で唯一違うところはそこかなと見ていると奈々恵さんは口を開く
「あのさ、恋ちゃんと付き合ってるってほんと?」
「んぐっ!ゲホッ!」
吹き出しそうになる。
本当に似てる気がする。
いそいそとこちらまで来たけどまさかこれを聞くためにいち早くここに来たのか
「あ、ごめんね?大丈夫?」
「い、いえ。付き合ってるって誰から?」
「恋ちゃんから」
「先輩...」
ケロリと返す母親に悠里は戸惑いを隠せない。
「付き合ってないです」
「あぁそうなの?恋ちゃんが好きな子と結ばれたって聞いたからそうなのかと」
あの先輩は...
呆れることしか出来なかった。
「女の子同士で、変だよ」
夕夏ちゃんに何度も言われたことを思い出す。
そんな夕夏ちゃんはそれを全てひっくり返して告白してきたわけだけどやっぱり変だ。
女の子同士でこういう感情を持つことは変なことなんじゃないか。
だから悠里は答えに迷ってる。
友達同士でも相手が男の子なら悠里は多分気兼ねなく振っている。
ただ女の子同士の感情の持ち方が分からないからこれだけ苦しいのかもしれない
「お、女の子同士なのにノリノリですね」
「そんなの関係ない。あの恋ちゃんが人を好きになったって言うんだからあたしは応援するよ。犬と付き合いたいと言っても……うん、まぁできる限り応援するかな」
おどけながらとびきりの笑顔を向けてそう言うけれど、当の奈々恵さんは男の人と結ばれてるわけで
というかなんでこんなこと聞いちゃってるんだろう。
ただなんかこれを聞いて不思議なことに少しモヤが晴れたすっきりとした気分になる
「いや、応援って言われたって…」
「恋ちゃんって人が苦手だから好きな人出来て、仲良くなれたって聞いた時本当にびっくりしたんだよ」
奈々恵さんが恋先輩のことを話す時はなんか嬉しそうで、聞いてる方まですこし嬉しくなる。
「あたしと同じくらいの背丈で、恋ちゃんの一個下の学年で髪型はセミロング。最初は前髪をすごく長くしてたけど最近切ったのだけど自分で切ったから斜めの前髪になってる可愛くて目線の合いにくい、いつもおどおどしてる優しい女の子。見た瞬間にすぐ悠里ちゃんってわかったんだから」
だから連れて来たのか。
多分ほぼ後半で確定したんだろうなってすこし複雑な気分になる。
こんなお母さんの元で育ったから恋先輩もあんな感じの明るい性格になったんだな。
ここにきて恋先輩のいろんな部分を知ることができてなんか少しワクワクする
あれ
というか考えたら恋先輩のことをよく知らないような。
そういえば恋先輩がいつも話すことは最近見つけた好きなものや嫌いなものだけ。
あの映画が良くて、あの食べ物があんまりでとか場当たり的な周りのことしか話さないし、悠里に話させてばかりだった。
悠里はすこし目線を外しながらも初めて奈々恵さんの目を見る。
「あ、あの、な、奈々恵さん」
「ん?」
「恋先輩、恋先輩のこと聞かせてくれますか?」
緊張するとすぐ声に詰まりそうになる。
でも、勇気を出して踏み込む努力をしようと自分も少し思えてきた。
夕夏ちゃんの気持ちを理解するためにも恋先輩のことを理解したい。
そんな気持ちだった。
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