日本家屋のパンクな女の子

 え、これって、どういうことなんだろう。


 わたしは今は和室に正座している。


 今の時代珍しい日本家屋の和室に正座をさせられている。


 畳に机があって床の間に高価そうな掛け軸が掛けられてるのを見るとここが応接間にあたるところだと思う。


 というか時代が時代ならというかやり口が完全に誘拐と同じ、というか誘拐だったらどうしよう

 連れてこられて、ご飯作るから待っててって言われて今に至るのだけど。


「あ、あのー」


 そう言っても無情に響く感じがする。

 誰かいるのだろうか。

 何部屋あるか分からないほど多い部屋の数。


 それにしてもどうしよう。

 恋先輩いないのかな?


 というかこんなところにいるのかな?

 恋先輩はもっとこう…パンクな感じだと思うんだけど。

 

 本当に…恋先輩の両親?


「あ、いた。ほんとに連れて来ちゃったんだ」


 そんなこと考えたら恋先輩がまたラフな格好でフスマを開けてやってくる。

 白いTシャツに黒のハーフパンツ。


 本当に恋先輩の家なんだと少し安心する


 ただそんな格好に加えピアスと金髪の姿は和の雰囲気を完全に壊してる感じがする。


 もっと、ネオンカラーの壁紙とかのが似合う気がする。

 これだけパンクな見た目だと少なくとも畳は似合わないかな


「ご飯食べた?」


 恋先輩は座ってるわたしを見下ろしてからしゃがみ込んで目線を合わせる。


「え、あ、はい。食べました、夕夏ちゃんの家で」

「やっぱり、この時間だもんね。お父さーん悠里ご飯いらないってー」


 わたしがご飯を食べたことを伝えるとスタスタと立ち上がって恋先輩は別のフスマを開けて行ってしまう。

 

 時計を見ると八時を回ってる。


 まだ恋先輩は食べてないとなると結構遅めな夕食な気がする。

 それにお父さんが料理作ってるのかな。

 

 色々と疑問点が生まれるけどそれは頭の隅に放置。


「はぁ、それにしても本当に連れてくるなんてね。ごめんなさい悠里」

「あ、いえ...」


 また別のフスマを開けて入ってくる。

 この家は本当に部屋が多いんだろうなって思う。

 こういう環境で育ったから恋先輩は何するかわからない突拍子もない性格なのかな


「変わってるでしょ。私の両親」


 「先輩ほどではないですよ」と言いたいけれど、わたしの近くまで来て今度は立ったまま見下ろしっぱなしの先輩が気になる。


「こっから見下ろすのもいいわね」


 先輩はなぜかわたしの足の間に足を入れて言葉を繋げる。

 そこからまたしゃがみ込んでわたしと目を合わせる。


 近く、絡まる足に意識が集中する。


「普段は下からしか見えないから上から見る悠里、新鮮ね…」


 そう笑って顔を近づける。


「キスしていい…?」


 脳裏にあの光景が蘇る。

 ちらつくのは、夕夏ちゃんの真剣な顔と物憂げな表情で首に包丁を当てていたこと。


 どうしたいかわからない。


「っ!」


 わたしは思わず顔を逸らす


「どうしたの?」


 いつも、いや最近は慣れてたはずの恋先輩の距離感を怖いものとして引っ込んでしまう。


「なんかされたの?」


 恋先輩はからかうように笑う。

 何が面白いんだろうって思うけど恋先輩が笑うと少し安心する。

 

 弱っていたわたしは、もう喋ってしまいそうなその時


「恋ーご飯」


 奥から恋先輩を呼ぶ声


「はーい」


 そしてそれに反応する恋先輩。


 なんか、なんだろう


 学校にいる恋先輩はすごい特別な感じがするけれど、ここにいる恋先輩は普通の高校生って感じがして可愛く見える。


 全て話そうと決意して溜めた息はそんな恋先輩を見るとため息になって出てくる。


「来る?一人にするのも悪いし、お父さん板前だからご飯美味しいわよ。食べれちゃうかも」

「え、あ、こ、ここでいいです。それに本当お腹いっぱいなので大丈夫です。食べて来てください」


 わたしは待つ。

 お腹いっぱいで走って、連れてこられて多分ご飯をみたらどんなに美味しそうでも体調を崩す気がしちゃう。


 それでもなんでか分からないけど、すぐ帰ろって気にもならなかった

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