似てるでしょ?
緊張するとすぐ声に詰まりそうになる。
でも、勇気を出して踏み込む努力をしようと自分も少し思えてきた。
夕夏ちゃんの気持ちを理解するためにも恋先輩のことを理解したい。
そんな気持ちだった。
「んー、と言われても、どんなことが知りたいの?」
聞きたいことは決まっていた。
「恋先輩が、人が苦手って...?」
最初怖かったって言ってたのは覚えてた。人の仮面が見えるのが怖かったみたいな
でも今はなんか、人が苦手って感じじゃなかった。
夕夏ちゃんとも普通に接してた気がするし。
「うん、恋ちゃんあんな感じでしょ?あ、見た目じゃないくて内面ね?学力もそうだけど人の仮面が見えるとか何とか。まぁ建前とか本性が仮面になって見えるってことらしいけど」
それは恋先輩から聞いた仮面の話。
悠里がとても多く持ってるやつでもある。
建前が多すぎる悠里がそれぞれの人と適正な距離を測るため
そして本当の自分を隠すためにたくさんこさえてるらしい仮面。
「人の本音や建前が自分だけに分かるとなんか他の人が怖く見えるんだってさ。とくにええかっこして近づく人は不気味だってね」
「はい、でも、なんか今の恋先輩って苦手ってより、人を嫌ってるみたいで...」
気になってるのはそこだった。
怖くなるのはわかる。わたしもそうだったから。
人が信用できなくなって怖くなったのに...
怖がりだったっていう恋先輩があんな活発になるのがよく分からない。
「あぁ、それは...うん。あのね悠里ちゃん。恋ちゃんってさ...いじめられてるんだよ」
奈々恵さんは机に置いた手を拳にして、ぐっと力を込める。
「はい、だから...保健室にいるんですよね」
黒薔薇の造花を思い出す。不気味で、笑顔で罠を張って獲物がかかるのを待つかのようなあの雰囲気に気分を悪くする。
たったあれだけっていうシンプルさがまた怖くさせられる。
「聞かせてください」
「うん、小学校の高学年くらいからかな?ずっとそう。その前も、やっぱり他の子とは頭の出来が違ったから友達が出来なかったんだよね」
奈々恵さんはずっと悩んでいたらしい。
幼稚園までは普通に友達が出来ていたけど
恋先輩が小学校に上がると、恋先輩の頭が良さに周りがついていけず仲の良い友達が作れなかった。
むしろ少し変な子のように扱われて特別学級にいたほうがいいとまで言われたことがあるらしい。
奈々恵さんは恋先輩のことを「嫌われてる」と一回も口に出さなかったが、本質的にそういうことだと思う。
他の人より頭が良かっただけなのに。
そうやって頭が良いと噂になったからか塾の誘いがいっぱいきたらしい。
最初は学校と同じようなことになると怖がっていたけれど、頭の良い子が通う塾だというから自分に近い人がいるかもだよって説明するとワクワクして受験なんかを全く考えず友達を作るために通うことを決めた。
ただそんな中でも恋先輩は規格外だった。
中学受験向けの全国模試、三回連続で全教科満点で一位。
本人は特別応用力が優れてたわけじゃなくて、教えられたところしか出ないのだから当たり前と言っていたらしいけど。
やっぱり他の人間レベルの塾生たちに比べたら十分規格外
そんな子は塾もどんどん優遇するから周りの嫉妬の声がいっぱいあったんだって
恋先輩が規格外であればあるほど、それが周りにも分かれば分かるほど、幼稚園の頃みたいに一緒の目線で話をしてくれる人がいなくなった。
「それに、塾と受験って実力の世界でしょ?ライバルを蹴落とす世界だからさ。そんな中で受験する気もなかった恋ちゃんがいたらね」
恋先輩は塾でもいじめを受けたらしい。
色々と勉強や授業を妨害させられるようないじめ。
最初は相手にせず気にもしてなかったけど、消しゴムをズタズタに切られたときにどうしようもないくらい悲しくなったらしい。
どんなに陰で悪口を言われていても、大人から変な目で見られても耐えることはできたみたいだけれどそこでついに爆発しちゃったんだって
その時は本当に寝るまでずっと泣いてたらしい。
「塾に入る時は勉強がんばってねって気持ちでさ、消しゴムが欲しいっていうから買ってあげたの。恋ちゃんって書き間違いとかしないんだけど、喜んでたよ」
わざと書き間違えをしたりとか恋先輩は大喜びだったらしい。
ただボールペンにワクワクするような人だっていうのはその時から変わってないんだろうな。
消しゴムで喜ぶなんて。
それだけに気持ちの落差がすごかったんだろうな
自分でもそんな大切な物を当たり前のように壊されたらきっと耐えられない
「それをズタズタにされちゃったから、本当に嫌になったみたいで塾も辞めちゃった。それを塾の先生に言っても周りの生徒は平然として知らん顔してたのも怖かったんだってさ」
「仮面ってやつですか...?」
「そうかもね。とにかくそんなことがあってあの子対人恐怖症になっちゃったんだよ。それまで普通だったのにさ、頭良い子のいじめと擦り寄る大人が怖くて仕方なかったんだって」
なんか、状況が今と重なる。
特進で頭の良い人の嫌がらせや嫌味。
頭の良い人の嫌な感じがそのままぶつかる感じなんだろうなって身体が震える。
少し、恐ろしいかも。
悠里だって嫌がらせはされたことがあるから分かる。
「恋ちゃんって繊細なんだよ?あー見えてさ」
はははと笑う奈々恵さんは自分とは大違いと言わんばかり。
ただやっぱり似てる。この人は恋先輩を、娘として人一倍愛してる。
話の節々に見せる表情からそれが伝わる。
「どんな感じなんだろうね。あたしも旦那のゆうくんも、頭が特別良いわけじゃないからあの子の気持ちを100%理解してあげることはできなかったんだよね」
その後もどんどん人と距離が離れていくのがわかったらしい。
学校でも、異端な人は村八分。
いじめられるとまでは行かないけどやっぱり天才って目の当たりにして噂をされると一線引かれちゃう。
多分その子たちに悪気はなかったんだろうけど恋先輩には響いちゃったんだ。
それに加えて近づいてくる人は何か不気味な雰囲気だったのも拍車をかけた。
奈々恵さん曰くだけど恋先輩は金髪でなくとも小さくお人形みたいでそういう人にも狙われるんじゃないかと心配で仕方なかったらしい。
「あ、そういえば小学校の時に恋ちゃんに会ってるんだって?」
「あ、はい」
別に特別覚えてるわけではないけど、会ってる。
「恋ちゃんびっくりしてたよ。好きって言われたって」
そりゃ女の子に言われたからびっくりするだろうな。
そんな気分で悠里は思い出す。
ただそんな言葉は小学校のころに多分何百回と言ってるから覚えてはなかったけど。
「優しい人もいるんだねって話してたよ。高校になった時には好きになった子もその子だって言われた。そのくらいに小学校から大切にしてきた思い出なのかな」
確認もしてなかったのに恋先輩は確信的そう言って家でウキウキとした表情を見せてたらしい。
「とはいえね?やっぱりそこであなたからもらった優しさは長く続かなくてさ。中学まで引きこもり」
そんな話を聞いてると、恋先輩と出会うのは必然だったのかもしれないと思えてしまう。
同じ引きこもり同士引き寄せられたのかも。
悠里は少し歯がみをしてあの出会いを噛み締める。
「似てるでしょ?」
すると心を読んだように奈々恵さんは言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます