ライバル宣言

「先輩、ちょっといいですか」


「なに?」


 昼休み、悠里より早く保健室に向かって先輩を体育館に呼び出した。

 金髪が一層キラキラとしている。また染め直したのだろうか。本当に綺麗で可愛い。

 だからこそ、残念だ。


「で?なんの用?」


 チラチラと周りを見ながら先輩はあたしに向かって言う。


「悠里とどういう関係ですか?」

「え?んー特別な関係?」


 笑って言う


 嘘だ。


 この人はあたしを試してる。

 ふざけるな。小さい癖に上から覗き込んだような目をしてる。


「はぁ、悠里の昔のこと、知ってます?」

「えぇ、昨日聞いたわ」

「昨日?」


 あぁあのとき聞いたのかな。

 なら、より強く言わなきゃいけないかもしれない。


「ずいぶん私が嫌いなのね」

「え?」


 急に話しかけてくる。

 こっちのペースで喋ってる間とは違う間隔で喋りかけてきたことにびっくりする。


 本当にマイペース


 それにしても


「なんでそんなこと言うんですか?あたし、綺麗なものとか可愛いもの、大好きなんですよ?」

「あらそうなの?私も好きってこと?」


「はい、綺麗で可愛くて大好きですよ」

「嘘ついちゃダメ」


 下から顔を覗きこまれる。

 金髪越しに見える大きな瞳にあたしは吸い込まれそうになる

 気付けばこの人のペースになっている。


 どうしよう。危険だ。


 話に飲まれる。それにしても嘘なんて


「嘘はついてないと思いますけど」


 あたしは顔色ひとつ変えずに返答した。


 そしたら先輩はくるりと回ってこちらに指を差す。


「敵意、会った時から感じてるよ」

「敵意?」


 何言ってるんだろうこの人は。天才と呼ばれる人でもこんな変なこと言うんだ。

 そうやってあたしは警戒のレベルを少し上げた。


「私は仮面が見えるの。表情の動きで私にどんな感情を向けてるのか。特技みたいなものね」

「ふーん」


 納得がいくよ。

 色んな目で見られてきたからなんとなくそうやって決めつけてるんだろうね。

 まぁでも当たってるけど


「で?なんの話?」


 また距離をとってくるりと回って、敵意を持っていると分かっているあたしににっこりと笑いかける。

 不気味な人。

 あの時悠里の地雷を踏み抜いたのを知ってるのにあたしになんでそんな笑えるんだろう


 余裕?


 凄い、なんか腹が立つな。


 まぁいいか、とにかく聞きたいことを


「先輩」

「ん?」


「あたしにも特技があるんですよ」

「へぇ?どんな?」


「綺麗な人のことはなんでもわかっちゃうんです」

「良い特技ね」


 作ったような笑顔でこちらを向く

 まだ余裕といった表情が少し鼻につく


「だから綺麗な先輩のこともわかるんですよ?」

「へぇ!どんなことがわかるのかしら」


 驚いたように見せても驚いたように見えてない。

 明るく底を見せないように振舞ってもあたしには通じない。


 あたしは聞く


「先輩、いじめられてますよね?というか、めちゃくちゃ嫌われてる。だから、ひとりぼっちなんですよね?」


「っ!...」


 笑顔がひきつった。ざまあみろ


「あたし分かるんですよ。可愛い子のそういうのは見逃さないから」

「へー」


 目を見開いて、口だけ笑って、そう答える先輩を見て優越感に浸る。

 図星なんだな。


「それが?どうかした?」


 強がってるのか分からないけど急に話しを進めにかかる先輩


「寂しいんですね。だから似た境遇の悠里に近づいたんだ」

「心外ね。そんなわけないでしょ。元々好きなんだから」


 好きとかどーとかいう先輩。

 なぜか無性にむしゃくしゃする。


「じゃあ今からでも教室戻ってみます?」

「はぁ、めんどくさいわねぇ。結局何が言いたいの?」


 露骨にイライラしてみせる先輩。

 こめかみをぽりぽりとかいてこちらを睨む


「なんで保健室にいるんですか?」

「集中できるから」


「ほんとに?」

「ほんと」


 イライラしてるのはこっちだって同じ、身長は低くても上から目線でこちらを見つめてるのが目に見える。


 なんでそんな風にしてられるんだこの人は


「じゃあ、嫌われてることについてはどう思ってるんですか?」


 この人の感覚は人と交わってる感じじゃない。嫌われてるのはわかる。これは女の勘。


「嫌われてるって、別になんとも思ってないわよ」


 傷口に塩を塗り込むようにグリグリと攻めたつもりが先輩はケロっとした表情で返す。

 まさかそんなことを聞くために呼び出したの?と言わんばかりの顔


「なんで?」

「私よりバカな人の相手してもしょうがないでしょ?興味もなければ相手にもしてない。やりたいだけやったらっていう感じ。」

「...」


 少し、びっくりしてしまう。

 本当にそう思ってるように話すから。

 強がりでもなんでもなくけろっとしてる


「あのね?特別推薦っていう別にこの学校だけの推薦制度があるんだけどね。学校はそれを使うと一般入試の得点にかなり下駄を履かせてもらえるらしいんだよね。さすが今をときめく某政治家の出身校。だから私にそれを使ってもらって良い大学に入ってもらって箔をつけたいらしいけど、周りの生徒がそれが嫌らしいの。だから色々めんどくさい嫌がらせはされたことあるわ」


 淡々と話す先輩、テレビで見る偉い政治家がここの特進出身だと言っていた。

 見下したような感じがすると思ったら本当だったんだ。


「その嫌がらせに私は悩んでるって思ってる?」

「...なるほど」


 この先輩のことがなんとなく掴めた気がする

 ただこれなら、より一層


「ならそんなあなたを、あたしは悠里には近づかせられない」


 宣言する

 これは、宣言だ。あたしは先輩と対立する。


 どんなに悠里が先輩を恋愛的な意味で好きになってもあたしが奪いとってやる。

 もう決めた。


 あたしはあくまで親友としてこの人を近づけさせるわけにはいかない

 そうだ。あくまで親友として。


 あたしの方が大切と思わせる。


 一人でいることを軽く捉えるこの人を悠里のそばに置いちゃだめだ。

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