黒薔薇の造花
特進クラス、四階にまとめて全学年分の教室が存在する。
特進と言っても授業の内容とかが特別だったりするだけで、外見的にはちょっとメガネの人が多いだけで他のクラスとあんまり変わらない。
それにしても一階の保健室から四階の保健室まで行くなんてしんどすぎる
そりゃ恋先輩も運動不足になるわけだ。
だから行かないのかな。
そんなことでいろんな可能性を感じてるわたしがいる。
知りたい、早く知りたい。三年の教室を探そうと思いながら一段一段階段を上っていく
どんどん降りてくる人が減っていく。
特進の生徒はあまり普通クラスのいる下の階に降りてくることはとても少ない
だからどんどん違う世界になっていく感じするよね。
「ふぅ」
四階に着くと、意外なことに普通クラスの昼休みの風景とあまり変わらなかった。
みんな笑って談笑したり、男の子同士で固まって暇をつぶすためにトランプで、大富豪かな?あれをしたり意外と普通な感じがして少し拍子抜けした
「三年生…」
クラスの札がかかるところには「一年」「二年」「三年」とだけ書かれており
わざわざクラス分けするまでもないというなんか普通のクラスとは違うんだって意識させるように吊るされてる。
なんか…普通クラスとほんとに違うんだな。って思わされる
とにかく三年の教室に向かう。とにかく知りたい。
恋先輩のことを
「ははははは!」
笑い声が聞こえる。三年生の教室からだった。
クラスを覗いてみると恋先輩はいなかった。
先生が言ってたしまぁそうかとも思ったけど、それ以上にもう受験シーズンだって言うのに楽しく笑ってお話してる人が結構な数いた。
もう推薦のお話が決まってるのかな。
うちは進学校だし二年のころから受験のことを少し意識させられるのに余裕がある。
まぁでもまだ一学期で直前って感じじゃないしこんなものなのかな
中間テストが終わって、ちょうど期末テストと間くらいの時期だし。
「あっ」
そういえば…どうしよう忘れてた。
「恋先輩のこと…わたしが聞かなきゃいけないんだ」
とても…まずい。いつもはこういうの夕夏ちゃんがやってたから。
知らない人と話さなきゃ…
恋先輩とか養護教諭の先生とかと話したりとかしてなんとなく、他の人と話すのは怖くはなくなったけどやっぱり慣れないことは不安で、あんまり勇気が出ない
「あ、あの…」
でも頑張らなきゃ、勇気を出して話しかけなきゃ。
でも、流石に男の子は無理、だから今教室を出てきた女の子の先輩に声をかける
「ん?なに?…二年生?特進じゃないんだ。どうしたの?」
なんでいっぱい話すの?
わたしまだ二文字しか話してないよ…
「え、いや、あの…恋、いや、あの」
要領を得ないわたしの言葉を目の前の先輩は待ってくれる
冷たいと思った特進クラスの先輩、意外と優しい。
話さなきゃ…
「あ、あの!わたし、高杉先輩のことが知りたくて…」
「高杉…?あぁ」
急に顔つきが変わる。
「知らない」
続けてそう言ってどこかへ行ってしまった。
どうしたんだろう。わからなかったけどあまりいい雰囲気でなかったのは伝わった。
特進クラスの人に恋先輩の名前はもしかしたらキラーフレーズなのかも
「…」
ちらりと教室を覗くと
不自然だ、不自然に花瓶が置かれてる。
黒い…薔薇?教室の隅にある机の上に黒い薔薇が置かれてる
<きーんこーんかーんこーん>
その薔薇にわたしは目を奪われた。
不自然で不気味でだけど綺麗な黒色をしたその薔薇に
たった一輪挿されてるその薔薇は、まるで…
「なにしてるんだ」
「え?」
すると先生が立っていた。
「次は移動教室だろ早く…って君は二年生か。チャイム鳴っただろ?早く戻りなさい」
リボンにちらりと視線が落ちる。
先生の目もあまり見れずわたしはうろたえる
「え、あ、はい…」
「おーい!次は移動だから、鍵閉めるぞ!早く出るように!」
ガタイのいい、わたしの知らない先生はそうやってクラスの中に声を掛けると
特進の生徒はざわざわとわかりやすく音を立ててみんな移動の準備を始める。
「あ、あの?」
「なんだ」
早く行けと言わんばかりの視線を向けながらこちらに話し掛ける
「あの教室の…あれ」
「あぁ…あれは特進の生徒の席だよ」
「そうじゃなくて、あれなんですか?」
「造花のことか?」
造花なんだ。それにしても黒の薔薇は…
「なんか…不気味ですね」
「あぁ、でもあの席の生徒が好きなんだって。変わってるよな」
「え?」
「いつでも戻ってきてってメッセージを込めてあんな風に常においてあげてるんだってさ。今の子ってお菓子とか置いたりするんだろ?」
…そういうことだったんだ
「戻って…」
「いろんな事情があって、教室で授業を受けられないんだよ。保健室で勉強してるんだ」
心の中の予感が的中する。
やっぱりあの席が恋先輩の席なんだ…
でも、いや、わたしってやっぱり恋先輩のこと何も知らなかったんだ。
好きなものも知らない…お花だって知らない。
ボールペンが好きな女の子だと思ってたけどそんなことはなかったんだ。
「それって恋先輩…」
「はいはい、この話終わり、早くしないと開始の予鈴がなるぞ。ほら三年特進も!早く移動する!」
そう言うと鍵を持ったまましっしと手でわたしを払う仕草をして追い返すように先生は言う。
仕方ないから戻るしかない…教室で夕夏ちゃんにどこに言ってたのか聞こう。
トボトボと戻ろうするとぞろぞろと出てくる。教室から出てくる人は比較的にメガネが多かった。
「そういや聞いた?」
特進の生徒が話しながら教室を出てくる。
「なに?」
特進の人って基本的に何を話すんだろ。
ボールペンの話かな?
わたしはあの時先輩が買ったボールペンをいつも胸ポケットに付けてることを思い出しながらついつい耳を傾ける
「高杉が保健室から出てきたらしいよ」
「マジで?まだいたんだ」
恋先輩の名前が挙がる。
するとざわざわのなかから自然とその話だけピックアップされるように自然と耳に入ってくる
後ろ向きで耳を傾ける。
「いや、知らないけどさ。さっき体育館の前で見たって、あの金髪だよ?間違えねえでしょ」
「早く辞めりゃいいのに、天才なんだろ?ここじゃなくてもいいじゃん。いくらでもやり直せるスペックあるくせになんだよ」
「だよなー、特別推薦目当てでこの高校来てそのために頑張ってたのに最悪だよ。しかもオール満点。やる気無くすわ、競う気も起きないっつの」
「早くやめてくんねえかなぁ。高杉もわかってるから保健室に引きこもってんでしょ?菊の花の代わりに置いてみたら急に保健室だもんな!」
「まぁでもそろそろやめんじゃね?」
「そしたらやる気も出んだけどなー」
はははと笑いながらその声が遠くなっていく
よくわからない、よく整理できてないけど、なんとなく悠里は身体が強張った。
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