鉄板焼き~ヒロシマ・オオサカ~


AIたちにテーブルやグリルの用意をするように指示を出すと、壮介を含めた5人は食材を準備するため厨房に向かう。

ハルロはメラニにカトラリーの用意を頼むとローラも彼女を手伝い始めるが、流れに取り残されたリーゼルたち現人もとびとは暇を弄んでしまう。

「今夜は私たちが夕食の準備をするので、皆さんはのんびりとお茶を楽しんでいてください」

アテナとミーナがエリーゼを巻き込んでお茶の支度を始め、現人もとびとたちに紅茶を薦めている。

ソフィアとアサヒは4万ルーメンの超高効率光充電式投光器を複数セッティングしていき一斉に点灯させ暗い部分がないか確認した。

この投光器は防弾防塵防水性に優れており、スイッチ一つで防犯対策にも有効なため辺境伯家の敷地全域に取り付けたままにする腹積もりである。


厨房では、野菜や肉の下準備を進めていく。

雅は、まず広島お好み焼きの生地作りから始めた。

ボウルに生地に焼き色をつけたり、伸びをよくする効果のあるみりんと冷水を入れ、薄力粉とカレー粉少々を振り入れる。泡だて器で粉玉をボウルのふちで押しつぶすようにし混ぜていく。

粘りが出ると生地が伸びにくくなるので、混ぜすぎに注意しながらなめらかでトロトロの状態になったところで少し冷やした状態で生地をサブスペースで寝かせる。

次に大阪お好み焼きの生地用の出汁を引くため、サブスペースからストックしている昆布水を取り出し鍋に注ぎ、コームのむね肉とともに火にかけると出てきたアクをとりながら煮込む。

10分程したところで、むね肉を取り出すと鰹節を入れて同じようにアクをとりながら10分程火にかけ煮出していく。

煮出し終えたら布巾を敷いた笊で漉し、塩適量を加えて冷やす。

冷やして馴染ませている間に生地のベースを準備する。

小麦粉、ベーキングパウダーをボウルに入れ、ホイッパーで大きなダマがなくなるようにしっかりほぐしながらよく混ぜる。

出汁を半量入れ混ぜていき、ダマがなくなったところで残りの出汁を加えホイッパーで持ち上げたときにさらさらした状態にすると、摺り下ろした山芋を加えてホイッパーで持ち上げるとドロッとひっかかってから落ちるようになるまでしっかりと混ぜて生地を完成させる。

お好み焼き用のキャベツの千切りや青葱青オニールの小口切りをはじめ、野菜の下拵えは龍が担当している。

用意した焼き野菜は茄子、南瓜、ししとう、玉蜀黍、ピーマンにパプリカ、玉葱、アスパラガス、薩摩芋、馬鈴薯など豊富だ。

魚介は龍が得意としているが今回はリアムの担当だ。

殻付きのままの帆立と鮑、壺焼き用の栄螺、鮪に七光鱒は厚めに切りステーキ風にし、豪快に縦二つに切った伊勢海老に加え、現人もとびとたちが悪魔の手下と言い口にしない大型で地球では初夏から真夏が旬の岩牡蠣と活雲丹も食材として用意する。

「雅、烏賊なんだけどさ。最初、丸焼きでもいいかなって思ったんだけど焼きそばやるならそれ用に下拵えするよ、どうする?」

バーベキューとお好み焼きだけでも、常人であれば十分なボリュームだがユキやシラユキの古竜姉妹を筆頭に大食いが多く、余った分はストックさえすればいいので雅は即答で頼むとリアムに答えた。

ラーシュと壮介は肉のカットや下味、つけダレを担当している。

鉄板焼きに向いているバフローオークスのリブロース肉を厚めにカットし、ストックしていたニンニク醤油に同量の酒、味醂、砂糖を加えて煮立たせ、冷やしたタレに漬け込む。

ナグーのバラ肉をコチュジャンと唐辛子ベースの辛味ダレに漬け込んだものも併せて用意する。

網焼き用にはナグーの肩ロースを塊で用意し、筋切りをするとそこに大量の塩と胡椒で下味をつける、シンプルな塩コショウのみのステーキだ。

コームのモモ肉は2種類の味付けを用意する。

一つ目はタイム、イタリアンパセリ、ローズマリーを合わせたハーブソルトとレモン汁、青葱青オニールにオリーブオイルを混ぜ合わせたタレに漬け込んだものとタンドリーチキン用に予め肉に塩コショウし、プレーンヨーグルト、カレー粉、ケチャップに摺り下ろしたニンニクと塩、ブラックペッパーに漬け込んだものだ。

漬け込みの時間は小一時間で済むものから半日ほど寝かせたほうがいいものとあったが時間経過の技能スキルで強制的に処理した。

これら以外にも、ストックしていた牛タンや豚トロ、ホルモンなど複製レプリケーションし、用意しておく。


 一方、中庭では、AIたちによってテーブルがきれいに並べられ、すべての物を用意し終えるとその場にいた者全員でお茶を楽しんでいた。

 ジョゼッタやイリスたち現人もとびとの女性陣が茶菓子を欲したが、食事前に甘い物を食べると血糖値が上がり健康によくあらず、特に女性は糖化現象による肌の劣化が起こることをわかりやすく説明すると、やはり綺麗な肌のままでいたいのだろう。甘い物を欲しいと誰も言わなくなった。

日も傾き始め暗くなり始めた頃合いを見て投光器を発光させる。

魔道具に比べて圧倒的に光軽くその昼のような明るさが持続している事に感心しきりだ。

「閃光と同じぐらいの明るさなのに、それがずっと続くなんてすごいわ」

「閃光の魔術は一瞬だけの目くらましですし、ダンジョンで用いる光源の魔術は持続力はあるけれどもっと暗いですものね」

ダンジョンと聞いて目を輝かせた者がいた。ソフィアだ。

悪い癖は抑えてはいるものの心は既にダンジョンにあるようだった。

「へ、ダンジョンなるものがあるのですか? やん、雅、私行ってみたいわ! ヤバい、キュンキュンしてきた!」

「皆さん、お待たせしました」

そこにタイミングよく、雅たち4人と壮介が食材をこれでもかと乗せたワゴンを押してきた。

その後ろにはひかりを抱いて微笑んでいるネリィの姿もある。

「辺境伯、この辺りだとダンジョンはどのへんにあるんですか?」

聞けば王都に一箇所未踏破の地下へ潜るダンジョンがありその階層は300階層あるのではないかと言われているそうで、現在の踏破層は半分に満たない129階層で探索が止まっているとの事だ。

130層の扉番の魔物が強敵らしく、何度も撃破に失敗しているとの話だった。

「ソフィア、取り敢えず現段階では王都は通過点なんだ。各所の封印を解いて戻るまでは暫く我慢だぞ」

「わかってますよ。任務を成功させたら絶対に連れて行ってね、あなた」

「ちょ、雅さん、私も連れて行ってくれますよね?」

エリーゼは置いていかれると思ったようで不安げな表情で雅に問いかける。

「ねえ、カレシ。網はわかるけど、なんで鉄板とこの炭の上に乗っけてる石みたいな板と分けてるの?」

「 ああ、これは熔岩の石を切り出したやつだよぉ。肉なんかの余分な脂は落ちるし食材を置きっぱなしにしても焦げにくいしねぇ。何より遠赤外線効果っていって肉の表面はパリッと歯ごたえがよくて内側に旨味が閉じ込められるんだよぉ」

「その代わりタレに漬け込んだ肉とか焼くとよ、焦げ付いてまずくなんだ。だからそっちは鉄板を使うっつうわけだな」

大量に用意した食材は、どれも好評なようであっという間に減っていた。

特にユキとサミの二人が競い合うようにがっついたことで減ってしまったようだった。

ここからは雅のステージとなった。

鉄板を一度、きれいにし油を敷くとおたまで生地をすくい鉄板に流し入れる。

おたまの背で、素早く丸くクレープ状に広げていき20センチ程の大きさにすると魚粉を生地に万遍なく振り掛け、旨みの隠し味としておぼろ昆布を広げて敷く。

その上にたっぷりのキャベツを押さえつけないようにしてふんわり乗せ、さらにもやしを乗せるとかるく塩、胡椒をふり蓋をして蒸し焼いていく。

こうすることでキャベツが甘くなり、キャベツ同士に隙間があることで蒸気の通り道ができ、早く焼けるからだ。

暫くして蓋を取り、イカ天を割って乗せ、さらに豚バラ肉を縦に3枚川の字に乗せて二本の大きなヘラを使って、手首のスナップをきかせてためらわずに手前にひっくり返すとヘラさばきに歓声が上がる。

ヘラではみだした具をはさみ込んで形を整えると、生地を適度に押して野菜の余分な水分をとばす。

サブスペースから蒸し中華麺を取り出すと、鉄板の空いたところでそばに少量の水をかけてほぐしながら炒めていく。

「ねえタッちゃん、なんで水をかけたの?」

「ああ、水をかけるとフワッとした仕上がりになるんだよ」

ヒョットコの焼そばソースをかけ、ガーリックパウダー、粉唐辛子、魚粉を適量加えヘラで広げるようにそばを炒め、野菜の方を持ち上げてそばの上に乗せた。

最後は、コーム卵で仕上げだ。

鉄板に卵を割り入れるとヘラで黄身を崩し、生地のように丸く形を整え卵が固まらないうちに、卵と麺がしっかりとくっつくようにそばごと持ち上げ、卵の上に乗せて一拍置いてひっくり返すとここでも歓声が上がった。

ヒョットコお好みソースを塗るとそこに青海苔をかけ、青葱をこれでもかと乗せて完成させると切り分けて皿に配ると見様見真似でラーシュが次の焼きに入る。

「肉のこのカリカリした食感とふんわりした麺と野菜ギャレスの甘さがいいですね! おソースも濃厚でとってもおいしいわ!」

ラーシュが広島お好み焼きを焼いている隣で、雅は大阪お好み焼きを焼き始める。

「今、食べてもらっている料理は、お好み焼きというものなんですけどヒロシマという地域で食べられているものなんです。次に焼くのはオオサカという地域のお好み焼きです」

サブスペースから大阪お好み焼き用の生地が入ったボウルを取り出すと別のボウルに生地を取り、そこに適量の千切りしてさらに短めにしたキャベツを入れて空気を含ませるように混ぜる。

鉄板に油を薄くひき生地を流しいれ厚さ1センチ程度になるよう丸型に形を整えて、火が入っていくと膨らむ中心部分に窪みを作り大葉を数枚並べた。

「大葉だったね。俺は観賞用の植物だとばかり思っていたが、ソウスケ君が料理に使ってくれてから爽やかな風味に惚れ込んだよ」

雅はリーゼルに同意しつつ、ナグーではなく脂の多い豚バラ肉を万遍なく重ならないように広げて乗せて、裏にこんがりと焼き色が着くまで焼いていき、ひっくり返した。ここでも歓声が上がったことは言うまでもない。

再度ひっくり返した後に、旨みである豚の脂を生地に吸わせるためにヘラの先端で十箇所ほど穴を開け、底がキツネ色になるまで焼く。

じっくりと焼いていくと肉の脂が出てくるので、それが再度ひっくり返す合図だ。

再度ひっくり返し、豚肉から出た脂をかき集め、生地の下に流し込むようにして生地に旨みを吸わせると火を弱め、ヘラ1枚でスッと持ち上がるまで焼き、再度ひっくり返し豚肉の表面がカリカリになるまで火を入れていく。

再度ひっくり返し、肉の面にマル梅社製たまりソースをハケで塗りマヨネーズを少量のせて広げるように、ツヅキ社製イチジクソースとベルメス社製とんかつソースをブレンドした特製お好み焼きソースをハケで塗り、最後に粉がつおと青のりをかけて完成させた。

「こちらもお肉がカリっとしているけど生地はふんわりとしていて、お味は濃厚だけど大葉が爽やかで美味しいです! マヨネーズって最高かもしれません!」

「アハハ、私もそう思いますよ。もうマイナソースに戻れそうにはありませんね、イリス嬢」

雅が誰かやってみたいかと募ると、この手の技術習得が好きなハルロに加えて壮介も手数を増やしたいと二人して焼き始めた。

これだけ作っても古竜姉妹とサミが、そのほとんどを平らげてしまうのでまだまだ足りない状態だ。

雅は嵩増しのイカ焼きそば作りに移る。

鉄板にごま油を敷き、焼きそば麺を入れてほぐし、麺の両面に焼き色をつけて一度、取り出す。

油を敷き、一口サイズにした豚バラ肉を火が通るまで炒めて、これも一度取り出す。

再度、油を敷きみじん切りにしたニンニクを香りが出るまで弱火で加熱し、一口サイズにした下足、輪切りにした胴体を炒めていく。

胴体に5割程度火が通った時点で千切ったキャベツ、焼きそば麺、バラ肉を戻し入れ炒めつつ、摺り下ろしたニンニクの入った肝醤油を煮立たせ麺と具材を混ぜる。

もやしとにらを加えてサッと炒めて完成させるとこちらも好評だった。

「パンチのあるソースがいいね。麺も香ばしくて実に美味い」

しかし、いくら作ってもすぐに料理がなくなっていく。

それでも皆、満足そうにしているのでここからは酒の肴になるホルモンの類を焼いていくことにした。

テッチャン、マル腸にミノ、頬肉のツラミや第四胃のアカセンマイ。ついでにあたりめとキンキンに冷やしたキュウリと赤テーツを用意した。

「ホルモンというのかい? 中でも赤センマイが気に入ったな。辛めのタレがよく合うし噛めば噛むほど味が滲み出てくる。実に旨いね。だがいつ飲み込めばいいのかわからんよ。ハハハハ」

「これ、白米とも相性がいいんですよ」

「私は、歯ごたえがあって濃厚な味わいのツラミが好きですね。脂も少し乗っているからか旨味も感じられるのがたまりません。これはビールが止まらんですよ」

「美容や痩せたいと思ってる女性は食べたほうがいいですよぉ。美容成分もたっぷりだからねぇ、ツラミってぇ」

ツラミにはゼラチンが豊富でタンパク質も多く含まれているため、美容やダイエット向きの肉でもある。ジョゼッタを始めとした女性陣は美容成分といった言葉に敏感に反応してツラミに群がっていった。

「ねぇ、ソフィーちゃん。この味噌というのは今朝のスープの調味料なのよね? 見た目はちょっと…だけど冷やしたキュウリとこの味噌がよく合ってて美味しいわぁ。一緒に味わうと火照った身体を冷やしてくれる気分にもなるし」

「ふふ。キュウリはね、そのほとんどが水分なのよ。だから身体が冷えるっていうのは気分だけじゃないのよ。それにね脂肪分解酵素…簡単に言うとヤセる成分がね豊富なのよ。あとお肌にもいいのよ」

ソフィアが言ったばかりに今度はキュウリを競うかのように食べ始めた。

「ユキとサミ。お前ら食いすぎだからあたりめでもずっと噛んでろ」

炙ったあたりめに七味マヨネーズを添えた皿を龍は二人に渡した。

「龍、あたりめって何ぞ…なの?」

「なあ、師匠。これって剣十本なのか…ですか?」

「お前ら…揃いも揃っておかしな喋り方しやがって…よくわかったじゃねえかよ、サミ」

サミが言った剣十本とはケンサキイカの事だ。本当のところは二本は腕触で蛸と同様に足が八本なのだが。

「市場に親父に連れて行かれたときにこんな感じのやつ見たことがあってさ。それでな」

「そうなのか。で、由来が知りてえんだろ? このにはよ、っつう別のよび方もあんだよ。だがよ、っつうのがな損をするって耳心地のいい言葉じゃねえんだ。商売が当たったとか聞いたことねえか? そのっつう縁起のいい言葉に変えてって呼んだって話だ。まっ、嘘か本当かはわかんねえけどよ」

「ほう、貴…あなたたちの言葉は本当に面白いよ…わね。言葉にも名前にも一つ一つ意味を当てはめていくのだからな」

名前がなかったことからなのか、ユキは言葉や名前にとても興味を覚え少しでも理解しようと歩み寄ってくる。龍はそんなユキのことを愛おしく感じ始めていた。

「う〜ん。赤テーツが結構、残っちゃったねぇ。リアム、ここはビールでピリっとしたやつ頼むよぉ」

ラーシュから促されて、赤テーツをすりおろしたものをグラスに更にヒューガルテンを注ぎ入れ黒胡椒を振った。

「辺境伯、アーガスさん、昨夜は飲みすぎたみたいだから今夜はこれで。レッドアイっていうカクテルです。僕はセロリをマドラー代わりに」

トマトと相性のいいセロリをグラスに差し込んで一口食べてレッドアイを呑んだ。

「ふむ。酒精も高くないし酸味と苦味、黒胡椒のピリッとした感じもいいね、リアム君」

「セロリという名の野菜も抜群に美味いですね。レッドアイの飲み口も軽くさっぱりしていて美味い!」

「レッドアイの由来で一番有名なのは二日酔いで目が赤くなってしまった人が、このカクテルを好んで迎え酒していたからというものなんですよ。こうみえて栄養がたくさんありますからね。リアム、悪い今度はタバスコ入りで頼む」

辛いもの好きの雅がタバスコ入りを頼んで飲んでいるところをエリーゼが興味を持ち同じように飲んだのだか辛いものが苦手な彼女が卒倒しそうになったところで御開きになった。


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