攻略作戦会議~その後~


 砦の内部はかなり広い。1階と2階は近衛騎士団が利用しているため、4階のゲストルームに案内された。質素な外観とは裏腹に設えも上品であり、隅々まで煌々と照らされたホールはまるで高級ホテルのロビーのようだ。

 雅は案内された部屋のベッドに腰掛けてソフィアとエリーゼに会談の内容をかいつまんで説明した。AIであるソフィアはリアルタイムでヒアリングしていたため聞いているという体ではあるのだが。

「タダシさん、なんだか疲れたっていう表情かおしてますけど大丈夫?」

ソフィアも同じように雅のことを案じているが、一人でそこまで思いつめるなと進言した。

「二人ともありがとう、でも特に問題はないよ」

「あなた一人が抱える問題ではないんだし、クロニス大佐やアンダーソン大佐ももう独自に動き出してるんだから」

お茶会の最中でも、ソフィアはじめAI達はヒアリングだけでなく派遣中のドローンを常にモニタリングしていたたため上官の意図は把握済みである。

「あ、そういえばあいつらにケーキ渡し忘れていたな」

雅は、ふと昨晩に作ったショートケーキをあの場にいなかった二組に渡し忘れていたことを思い出し、インプラント通信を起動し龍とリアムに呼びかける。

リアムからはすぐに反応があったが龍はビジー状態だ。

「どうしたんだい?」

「ああ、渡し忘れたものがあってな。そっち行ってもいいか」

「いいけどさ…僕もみんなに話したいことあるんだよね」

リアムからの返答後に、ビジー状態だった龍とラーシュも割り込んでくる。

「ケーキの事だろ? ラーシュから聞いたぜ。それに話してえ事あるしな」

「僕も、みんなと話したいことあるんだよねぇ」

龍とリアムにケーキときみしぐれを渡し終えると各々の部屋で良いだろうという事でモニタを使ってのオンライン会議ということにした。

 リーゼルとの会談で突然、アンヴァルド領まるごと抱えるようなことは想像さえしていなかった。

魔の森の掌握だけであっても王国との敵対行為は避けたい。寧ろ良好な関係を築くことが重要だ。だが王国領を掠め取る行為は足枷となり得ない行為だ。

辺境伯やアーガスの離反への覚悟も見たがそれはあくまで彼らだけの覚悟であり、このことを知る領民は誰一人としていないだろう。辺境伯を慕う領民は多いのだから付いてくる者が大半だろう。

 しかし、この場にいる者にしてみれば寝耳に水の出来事だ。

「魔の森だけならまだ簡単な事だったって思ってんだろ? そりゃ皆、思ってんぞ」

「僕らもいるんだからさぁ、もっと頼ってくれてもいいんだよぉ」

「お前ら…心配させちまったみたいだな、すまん」

皆まで言うなと龍がモニタ越しに手で制する。

「ユキ、ちょっといいか? みんなも聞いててくれや」

「なんぞ?」

龍はこの世界で古竜種の立場をユキに聞き出した。

「ユキ、この世界じゃお前やシラユキってなドラゴンの天辺だよな? 人種や他の種族から見たお前らの立ち位置ってどうなってる?」

「ふむ、それは確かに天辺だぞ。我ら古竜種は人種からしたら畏怖の対象ぞ…よ。下々のドラゴンどもはわざわいを招く者も多いから余計にな…ね。竜人種からは信仰の対象にされているな…わ」

彼女の話ではファイランド王国には火と風を司るダーツ系竜人族が主である。

南国のサゴス連合王国に分派した火のベルズ族、風のガイロン族が定住しているといった。

また地と水を司るドレイク竜人族は、水を司るレイク族と地を司るドレイド族にそれぞれ分派しており、ドレイク族とレイク族はともにガルグ公国を形成。もう一方の地を司るドレイド族はイレラ王国に定住し王国の盾とも言われる存在だといった。両種族間の諍いはなく、ともに御山信仰を持ちダーツ系種族は主にユキを崇め、ドレイク系種族はシラユキを信仰対象としているという。

「ユキやシラユキは崇められているってことなのですね」

「そういうこったな、ミユキ。こいつらアホだけど人種からしたら畏怖や信仰の対象だ。後ろ盾としちゃ申し分ねえ」

「アホは余計ぞ!」

アホと言われたことに反応したのかモニタにシラユキが映る。

「ちょっと龍ちゃん、アホはお姉ちゃんだけで十分よ」

「ちょっといいかいぃ? シラユキたちが領主にこうしろああしろって言ったらどう出ると思うかいぃ?」

古竜姉妹は恩義を重んじる竜人種は王国の行った街道整備諸々に恩義を感じているようだのが神と崇める自分たちの下に付けといったら応じるだろうと答えた。

「雅、これで外堀を埋められるんじゃないかなぁって僕は思うよぉ」

「そうか。なるほどな…。竜人種を束ねる手段としてユキたちを矢面に立たせるべきということだな」

「そうそう、それなら山猫系人種のことも知っておいて損はないと思うわ」

シラユキが続けた話は、黒豹人族を源流とする獅子人族、豹人族、虎人族、猫人族は白虎を神格化しており王国が属領化を渋った場合、白虎の存在と唐獅子がこれに加わればこれらの種族や新国家の圧力を強大にする後押しとなるだろうとのことだった。

「もしかしてそれって〜元祖とか〜、神様だから〜ってことなのかしら〜?」

「そう、アサヒそれよ。黒豹人族が源流なんだけどね、彼らはね、自分たちの血は白虎様から受け継いだものって考えてて神様として考えてるみたいなのよ。唐獅子様も神様でしょ?」

ラーシュはすでにダーツ族が領主を努めている南部のシェイジデイヴ伯爵領、マドマウス男爵領、ベアウェリア伯爵領、アトライリオンデイル伯爵領に加えて北西のロステリア伯爵領、西のペルターク侯爵領、ホレスティア郡の各領主や郡令の人物像、信仰、風習を更に詳しく調査するためドローンを追加派遣し情報収集をしていると報告した。

「派遣したばかりだから大した情報はないからさぁ、もう少し待っててねぇ」

ここでリアムが状況報告する番となった。

「次は僕からだけど、うーん。オウレシェリアは今のところ決定打に欠けるよね、女王様」

「なによ女王様って!? 侯爵の許に派遣した貴方達がレイスって呼んでいるドローンだったかしら…それから送られてきた執務室で表帳簿と裏帳簿を見ている映像を雄豚と一緒に見たのだけど現段階ではとは言えないわね」

「おい、リアム。雄豚なんて呼ばせてるのか?」

「まあね。ちょっと皆もこれ見てみてよ」

アーガスの父親のオウレシェリア侯爵が自身の執務室で表帳簿と裏帳簿の比較映像が再生される。裏帳簿は企業経営であれば経営が上出来であるならば節税対策等、利益圧縮のために作成することは常である。

しかし、この裏帳簿が不健全に作成された物ならば間違いなくとなるが現時点ではなんとも判断がつかなかった。

「雄豚にもさっきも言ったけど、声や音もはっきりと聞こえるし動絵の宝珠より鮮明よね。これが魔道具じゃないというんだから大したものだわ」

「まあな、だがこれだけでは今のところ何の判断できないな」

「だよね。だからミレイを侯爵に仕込んで様子を見ることにしたよ」

こちらもすでにレイスに指示しミニレイス通称ミレイの射出、侯爵の体内に侵入済みだ。ちなみにこのミレイは1μサイズの生体ナノマシンを利用しており視覚からの映像データに加え聴覚からの音声データも受信、保存及びデータ送信がリアルタイムで可能だ。

「ありがとうリアム。ただ今のところはマークしておく程度だよな」

「いいっていいって。で王妃様、他の二人はどうだった?」

「現時点ではスタイランドは問題ないけどエルロックは怪しいわね。カネルという執事からイリスが助けられたことの報告を受けて激怒している様子が映し出されたわ。ただ、どんな理由で誰に指示したかは会話中になかったわね」

「リアム。北のスタイランドは対象から外してもいいだろう」

「あの広い領地は…ちょっと惜しい気もするけどそうするよ」

「エルロックと執事にもオウレシェリアと同じ方法で監視を続行してくれ」

雅がアテナに指示を出すと彼女から上申を受ける。

「閣下、それにアンヴァルド家全員とアーガスさんにも護衛のレイスを付けておくべきかと」

「そうだな。頼むアテナ君」

それともう一点とラーシュが話し出した内容は、魔の森外周北側の山脈に隣接する三領を治めているストーンモンド侯爵、クリスドリフト伯爵、クロウハーフ伯爵を調べてみたが現段階では潔癖で堅実な治世を行っているようで友好的な関係を結んでおくべきだということだった。

「ドローンが四方八方に飛んで行っているのはモニタリングしていたが、お前らも考えて動いてくれていたんだな…すまん」

「そういうこった雅。死人も出さねえで王国を納得させることができんならユキたちや領主達を使わねえ手はねえ。それに俺の役目は例えば…ファイランド国王の政敵や敵対国をぶちのめすのに力を貸すことだ」

古竜姉妹も目的達成のために尽力すると言っており前哨戦としてカルコーストルへ今夜にでも行き一芝居打ってくると息巻いた。

「本当にいいのか? ありがとうな、ユキ、シラユキ」

「どういたしまして。お姉ちゃんよりか役に立つでしょ、アタシってば」

「ふん!我…私だって役に立ってるもん!」

一区切りしたところで携帯コンロを利用して湯を沸かしたのだろう。タイミングを見計らったかのようにローラとハルロが紅茶を淹れたカップをリアムに差し出した。

「お疲れさまです。お茶を御用意いたしましたのでどうぞ」

「ローラ、ありがとう。そうだ。さっきもらったきみしぐれとケーキ、いただいてもいいかい?」

「ああ、俺らも食わせてもらうわ」

雅もラーシュもどうぞと言うと昨晩、作ったものとは違うものを取り出した。

雅がラーシュから渡された羊羹を口に含み咀嚼した後、コーヒーを一口飲むと目を見開いた。

「おお、この羊羹、チョコを練りこんでいるのか! このもったりした甘さがコーヒーを美味く感じさせるな!」

「意外に和菓子ってコーヒーにも合うからねぇ。君らに渡した箱の中にも入っているからそっちも食べてほしいねぇ」

「きみしぐれもショートケーキのスポンジもよ。あんこや生クリームに負けない卵の濃い味がして美味えな」

「これ、地球の卵使ったの?」 

コームの卵だと返答すると地球産の高級卵よりも風味が強く美味いのかという感想をリアムも龍も持ち賞賛した。

雅がショートケーキとともに渡したは卵黄の代わりにバタークリームを練り込んで焼いたパイ生地とサワークリームの層をいくつも作ったミルフィーユ状で、その表面にはきちんとパイ生地を粉々にして粉糖と混ぜたクラムもされている素朴なケーキだがいかにも重そうな印象を与える見た目だ。

「私、このケーキ大好きなのよ! 重そうに見えるでしょ? でもね口に入れるとそのパイ生地とクリームが解けて…生地の香ばしさとバターやクリームの芳醇な香りと甘さが広がっていくのよ。そう思うでしょ? 雄豚」

「リアムがマゾなのは知っていたけどさぁ、下士官に雄豚呼ばわりされて喜ぶなんて筋金入りだよねぇ」

蔑みの言葉をかけられて喜ぶリアムに併せて呼び名を変えたとアテナは答えた。

「アンダーソン大佐、リアムはそういうふうに呼ばれると喜んで勃たせちゃう変態ですもの」

「私もそう呼べばいいのかしら…リアムはどうなの?」

「もちろん!」

リアムは満面の笑みでこれに答えた一方でローラが不満の声を上げた。

「リアム様は甚振いたぶられたりするのがお好きですものね。私も実はそうなんですけど…リアム様のただ一つ不満なところが…私を…甚振いたぶっていただけないことです…」

ミーナはヴァンパイアロードの血統を持つ魔人族であるが吸血鬼によく見られる弱点は魔人としての血が濃くなっており克服している。ただ、その血と高貴な出自が災いしていふからかS気質を強く持っているためMのリアムと相性がよい。

それに対してローラは妖艶な肉体を魅せつけ溢れ出るフェロモンを放ち惹きつけた男からその精を搾り取るサキュバスの血統を継ぐ魔人族だ。だが搾り取るのが本能のサキュバスと違い彼女は好いた男だけには激しく征服されたいという陵辱願望を抱いていた。彼女は他の男には興味がなくリアム一筋なだけに同じ願望を持つ者同士でする夜の営みに盛り上がりのないことが不満であるようだ。

「うーん、本意じゃないけど…雌豚とかがいいの?」

「はぅ! いいですね下腹部がキュンキュンします。でも…リアム様の本意ではないのですよね?」

「確かにね。でも善処するよ、いいかい雌豚? 今夜は二人で縛られようか?」

「はい! 喜んで! もう夢見たい! あぁん、いやぁん」

「いやはや、私めには全く理解できない世界でありますな…」

ハルロがそのさまを眺めてぼやくと雅が同意する。

「全くだ。まあ、俺を含めてここにいる男連中にはそれぞれあるから何も言えないけどな」

「俺はでけえ胸、雅は美脚に黒パンスト、ラーシュは尻と見事に分かれてるよな。ハルロ、おめえにもあんだろ?」

「い、いえ私は特にございません!」

男連中がくだらない話に脱線したので女性陣はお茶の時間を楽しみながら話題を変えた。

「ねえアサヒ、彼氏たちなにを熱く語ってるのかしら?」

「ああ、あれ〜、どうせくだらないことだよ〜。ああなるとなかなか終わんないから魔力を練る練習に付き合ってくれないかな〜?」

「いいけどアサヒ。今日はコップに水を出す練習にしてみない?」

アサヒは既に魔力取得を可能にしているため練習を始めだした。

その光景を見て真っ先に食いついたのは、普段クールなミユキだった。

「シラユキ、アサヒはもうそんな事ができるのですか?」

「アサヒってば暇があると魔力を練る練習をずっとやってるのよね。だからもう次の段階よ」

ほかの二人もこれを見て慌ててパートナーに自分ができるか否か聞きそれぞれ練習し始めた。

魔術に長けている三人から指導を受けているソフィアは著しく成長し、アサヒのレベルに追いつく勢いだ。

アテナは、魔術を使えるエリーゼから教えを受けるが伸びがいまいち悪い。

アサヒはイメージはできつつも実体化のプロセスがわからず何度も失敗を繰り返していた。

「うーん。難しいなぁ〜。演算イメージならできてるんだけど〜」

最もひどいのは教え下手なユキのアドバイスを受けるミユキだった。全くうまくいかず、普段のクールな表所を今にも泣きそうな表情に一変させている。

「違うぞミユキ。頭のなかでドーンと出したいものを思うのだ。そうしたらバーンと出せばよい」

「なんとも大雑把すぎて難しいですね…演算イメージすらできない…」

見かねたミーナやローラがモニタ越しに助け舟を出して暫くすると魔力覚醒を起こしローラに匹敵するほどの含有量を持つに至った。

「この魔力量や質は私以上かもしれません…すごいですね、ミユキ様!」

「なんだよこの魔力? すげえな…」

突然起きたミユキの覚醒に男性陣も注目し総員で教えあった結果、4人のAIは自身の努力も伴い、この日生活魔法の水源を習得した。


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